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廃人化した人々

「ん……ここは?」


 目を覚ましたマシロは一瞬考えたがすぐに自分の部屋だと気付く。 起きようと身体に力を入れ、動かそうとすると酷い倦怠感に襲われた。 目を動かすとベッドの端で寝息を立てているクロエが目に入った。


(お姉ちゃん……私を運んできてくれたんだ。 相当疲れたんだろうなぁ。 起こさせないようにしなきゃなぁ)


 倦怠感に悩まされたが無理矢理にでも上半身を起こしたマシロ。壁にもたれかかって息を軽く吐く。 何時間くらい寝ていたのか分からないが、今朝の事は鮮明に覚えていた。

  力が暴走して森の一部を消し飛ばした。これはどうしようもない事実だった。


(……消滅因子か。あれも消滅因子が原因なのかな? 暴走とはいえ、出来ることならもう二度と使いたくない。 あれは危険過ぎる)


 今思い出しても全身が総毛立つのを感じる。自分の能力がこの上なく危険だというのを否応なく認めざるを得なかった。


(けど、お姉ちゃんの身に何かあるなら話は別。暴走が原因とはいえ力の使い方は分かった。お姉ちゃんは私が守る)


 拳に力を入れ、寝息を立てているクロエを横目にマシロは誓った。


 そんな折、階段を登ってくる音が聞こえてきた。 マシロは扉に視線を移し警戒する。

 クロエの話ではかなり廃人化が進んでるらしかった。他人の事はおろか自分の事ですら分からないと言った状態らしい。そしてドアノブか回され、軋ませながら扉が開かれた。


「ひっ!?」


 その人物の姿を見た時、マシロはおもわず小さく悲鳴を上げた。 髪は至る所が痛んでおり、口は常に開いて、そこからよだれが延々と垂れていた。 目も焦点が合っておらず、常に動いており、不気味だった。服もビリビリに破れており、筋骨隆々の身体で、捕まったら逃げるのは無理に等しかった。


 最も際立ったのは身体から放たれる悪臭。鼻を突く刺激臭に、下半身からは独特な臭いがした。 それらがマシロの鼻を突いた時、マシロは猛烈な吐き気に襲われ、涙が止まらなくなった。


「う……おぇぇ……何なのこの臭い……気持ち悪い……」


 吐き気を必死に抑え、倒れそうになるのを我慢するが、意識を保つので精一杯だった。

 マシロと目が合うと、男はマシロを睨め回すように見る。 口角を吊り上げると白目を剥きながら、よだれと奇声を発しながらマシロに襲い掛かった。マシロは身体を守るように丸めた。


「それ以上、私の可愛い妹に手を出すな」


 そんな聞き慣れたクロエの声が聞こえる。マシロが見上げると、男がもがき苦しむように足をバタつかせていた。 首をクロエの細い腕で掴まれており、尋常じゃない力で持ち上げられているのか、地に足が着いていなかった。


「お、お姉ちゃん……」


「ごめん、マシロ。何か酷い事されなかった?」


「ううん、大丈夫」


「そう、良かった」


 クロエは一息つくと、首を掴んでいる男に目を向ける。 肉親が襲われそうになったのだ。クロエの頭の中は怒りで埋め尽くされており、それは目にも現れていた、 純粋な怒り。


「さて、どう落とし前つけてくれようか?

 "遮断結界" "防音結界"」


 その言葉を最後にクロエはマシロから見えなくなった。


「お姉ちゃん……どうか無事で」


 マシロは祈る事しか出来なかったが、姉の無事をひたすらに祈った。 五分くらいすると、クロエが姿を現わす。 あの男の姿は消えていたが。マシロはクロエの目を見て背筋が凍るのを感じた。 濃い闇を抱えたような、そんな目だった。 それにマシロは内心、底知れぬ恐怖を感じた。


「……マシロ、こんな所からもう出よう。

 私はもううんざりだ。 もうマシロが襲われるのは我慢出来ない。 マシロも私が襲われたら怒るでしょ? それだよ」


 吐き捨てるようにクロエが言う。端からみても苛立っているのが分かった。マシロは何か言おうとしたが、それを飲み込んで圧し殺す。そんなマシロの心を見透かしたのか、クロエが口を開く。


「今回は甘い事も言ってられないよ? 消滅因子の暴走の "余波" でさらに人々の人格破綻、自我崩壊が進んだ。理性も知性も吹っ飛んだ本能剥き出しの獣だ。 言ってる意味は分かってるよね? ここにいる以上、そしてこうなった以上ここから脱出しなきゃならない」


 淡々と事実だけを語るクロエはどこか恐ろしいくらい不気味に見えた。いつもの明るいクロエの姿はなく、マシロを見る目も真剣そのものだった。


「お姉ちゃん……確かにお姉ちゃんの言う通りだよ。 心を鬼にしなきゃ……出よう」


 マシロははっきりとした口調でいうと一瞬だけ寂しそうな顔を作った。 その一瞬の表情でマシロの心情の全てを物語っていたがクロエは敢えて見てないフリをした。


 *



 中央ギルド協会を後にしたマシロ達は人気のない路地裏に休憩を兼ねて座っていた。


「マシロ、さっきのギルドだけじゃない。私達以外の全ての人達がああなってると思った方が良い。消滅因子に範囲とか関係ないからね。強いて言うならこの世界全体が範囲だ」


「うん……。お姉ちゃんと歩いてる時にチラホラ徘徊してる人見たから、やっぱそうなのかなって……」


 マシロの言葉に力が無く、気持ちも沈み気味だった。 クロエもマシロの心情を察しているのか何も言わずにいた。


「お姉ちゃん……その、ありがとね。私が襲われそうになった時に助けてくれて」


「ん、あれは誰でも助けると思うよ。マシロには"消滅"っていう能力があるんだから使わないと……躊躇する気持ちは分かるけど。抵抗しなきゃ」


 クロエの言葉がマシロの胸に刺さる。確かにクロエの言う通りだった。 能力がありながらそれを行使しなかった。使うのを躊躇った理由は暴走───。また暴走するのかと思うと恐ろしくなって使うのを躊躇ったのだ。


 マシロはクロエの言葉に力無く首肯し嘆息する。


「さて、これからどうするかねぇ……。消滅因子が臨界状態になるにはもう少し時間掛かりそうだし……かと言ってこのままだと見つかるのは時間の問題」


 問題も山積みであった。 移動しようにもどこに行っても人がいる。と思ったクロエだったが何か閃いたのか手を叩く。


「マシロ……消滅因子の場所って分かる?」


 唐突に言われてマシロは肩を震わせる。そして逡巡を巡らせると口を開いた。


「……うん。 場所は喉仏の少し下、鎖骨の窪んだ辺りに強い力を感じるから恐らくそこにあると思う」


「ありがとう。これで場所は把握した。あとは荒野に行って時間を稼ごう。 そこでマシロの消滅因子を壊す。 消滅は繰り返させない!」


 力強い口調で叫ぶと、マシロの腕を引いて荒野まで瞬間移動したクロエ。 マシロは不安を隠し切れなかったがそれを圧し殺し、中央都市を後にした。

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