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暴走

 ある日の朝、クロエとマシロは中央都市から少し離れた近くの森に足を運んでいた。

 クロエが気分転換にとマシロを散歩に誘ったのだ。木々に囲まれ、自然と一体になった気分の二人は同じ歩幅でゆっくりと歩いている。


「ん〜っ、っはぁ……今日もいい天気」


  クロエが伸びをしながら上半身を捻る。腰の骨が小気味良い音を立てて鳴る。それに首肯し、マシロも伸びをする。


「ほんとだね。ありがとうお姉ちゃん」


「ん、いいよいいよお礼なんて。少しでもマシロとの時間を大切にしてきたいし」


  優しさを含んだ言い方のクロエに自然とマシロの気分も楽になる。 クロエの性格は誠実で自分の主義を曲げない。反面、妹想いで、マシロにだけは甘い部分の自分の本心をさらけ出している。クロエにとって気を許せる相手はマシロ以外いないのだろう。


「それにしても」


  不意にマシロが足を止め、木々に囲まれた森を見渡す。クロエはマシロの行動が理解出来ないのか首を傾げている。


「ちょっと静か過ぎない? 鳥のさえずりすら聞こえないよ?」


  マシロが疑問を口に出す。クロエもその場に突っ立って聞き耳を立ててようやく気付いたのかあごに手を持っていく。


「んー、確かに。 私が常に殺気を放ってるから逃げちゃった可能性もあるね」


  おどけて笑うクロエにマシロが頬を膨らませ半目を作る。マシロの反応を意に介さずにクスクスとクロエが笑いながらマシロの肩に手を置いた。


「あはは。まぁたまには静かな環境ってのも良いんじゃない? 鳥達はいないけど、風で木々が揺れて奏でる音を聴くのもまた一興だよ」


「むー。まぁ、一理あるけど……」


 クロエの言葉に納得しかけるマシロだがやはり腑に落ちないのか反論しようと思考する。

 反論しようとしたのだが、クロエの指がマシロの鼻に触れた。


「え……?」


「そんな細かい事気にしてたらダメだぞー?

 折角の散歩もつまんなくなっちゃうよ?」


  言って、笑顔を見せるクロエ。子どもらしい、無邪気な笑顔だった。マシロもくだらないと思ったのか、今までの思考を振り払うように伸びをした。木漏れ日が多数見受けられ、二人が感嘆するには十分の光景だった。


「ぐっ!? うあぁ……っ!」


  マシロが苦悶の声と共に胸を押さえて片膝をついた。


「マシロ!? どうしたの!?」


  異常に気付いたのかクロエがマシロに声をかける。しかし苦しそうに呻くマシロにはとどいてなかった。


「ぐっ……、ぐぅぅっ! お、お姉ちゃん……逃げて、早く、何かが、何かが……来る」


  全身が脈を打つような感覚に襲われながらもそれを必死に抑え込んでクロエに逃げるように伝える。 しかしクロエは逃げようとせずにマシロの身体に手を添えているだけだった。


「うああああああああああああああ!!!」


  マシロの絶叫が響き、視界が白で塗り潰された。クロエは衝撃の余波で吹っ飛ばされ木に身体を打ち付け、意識が混濁する。


「うっ、ま、マシロ……」


  手を伸ばすがそれは届く事なく空を切り、それを最後にクロエの意識は途絶えた。

 それから何分経ったのか、クロエが目を覚まし、目に飛び込んできた光景に自身の目を疑った。


「う、嘘でしょ……」


  まるで空間が切り取られたかのように森が無くなっていた。規模はごくわずかだが、それでも衝撃的だった。 根元から無くなってる木、半分だけになった木、一部の葉だけが消えた木など様々だったが、何もかもが消えた空間の中心部にマシロが脱力したように座っているのが確認出来た。


「マシロっ!! マシロぉっ!!」


  すぐにマシロに駆け寄り、肩を掴んで強引にこちらを向かせる。


「うっ……」


 マシロの目に生気が宿っていなかった。


「お姉ちゃん……これが、お姉ちゃんの言ってた暴走ってやつ?」


  光を失った目でクロエを見抜き、何処か自嘲気味に呟くマシロ。マシロの異様な雰囲気に呑まれ言葉が出てこないクロエ。


「凄いね……私にこんな力が眠っていたなんて。 何でも消せた……何でも……」


「ごめんマシロ!」


 狂ったように呟くマシロに当て身をし気絶させたクロエ。 そしてマシロを背負うとマシロが消した森を一瞥し、顔を歪ませる。 そしてその場を離れた。

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