語られる真実
マシロは自分のベッドで寝ているクロエを不安を隠せない表情で見ていた。
もうあれから三日経つというのにクロエは意識が戻らないままだった。最初こそ傷だらけであり血だらけだったものの、ほんの一時間もすれば全ての傷が治癒していた。
しかし目は覚まさなかった。それは竜による攻撃によるものか、クロエの力による反動か、死闘から来る過労か、マシロにも分からなかった。
「クロエちゃん……」
心配そうに見つめ、手を握る。このまま目を覚まさないんじゃないか、そう一日に何度思った事だろう。しかし、それでもマシロは諦めきれなかった。クロエが目を覚ますと信じて。
「ん……ここは?」
クロエが身体を起こして辺りを見回す。
抱き着いてきたマシロを思わず受け止める。
「うおっと!? ま、マシロ!?」
「良かった! 良かったクロエちゃん! 目を覚まさないかと思った……。 クロエちゃん……」
「……うん」
優しくマシロの頭を優しく撫でるクロエ。
ようやくクロエから離れると、マシロは目に溜まった涙を拭く。
「クロエちゃん、三日も目を覚まさなかったんだよ? 身体、大丈夫?」
「うん。心配してくれてありがとうマシロ。
特に異常は無いよ。あと、力が覚醒した今、そろそろマシロに言っておいた方が良いとおもうんだ。マシロの真実を」
真剣な表情になりマシロの方を見るクロエ。
マシロもただ事でない事を察し、クロエを見やる。一拍の間を置くとクロエは喋り始めた。
「まず、マシロの力はまだ完全には覚醒してない状態なんだ。まだ芽を出した程度。でもこれから急速に覚醒が進んでくる。
あと、マシロの記憶。これもマシロの力との関係性は非常に重要だ。 マシロの記憶が戻るごとに力の覚醒が進んでいく。全ての記憶を思い出した後、完全に覚醒する。そして、マシロが記憶を思い出す度に人々の記憶が消されていく」
「なっ……」
クロエから聞かされた内容は想像を絶するものだった。驚愕に目を染めるが、クロエは続けた。
「非常に酷だと思う。マシロが記憶を思い出す度に他の人の記憶が消されてく、なんて事は。最終的に廃人となって言葉も発せなくなり、呻くだけになる。 マシロの大切な人が段々とマシロとの思い出や日々の出来事を忘れていくんだ。マシロにとってこれ程辛い事はないと思う」
マシロは俯いて何も言わなかった。ただ唇を噛み締めて堪えていた。涙が溢れそうになるのを。泣いてしまえば堰を切ったように止まらなくなってしまうから。
「な、なんで、なんでクロエちゃんはそんな大事な事を黙ってたの!?」
「それは、一気に言ってしまうと脳の処理能力を超え、力が暴走する可能性があったから。それを防ぐ為だよ。 それにこれからは頭痛もなく、スラスラと思い出す事が出来るはず。 あの竜を倒したんだから」
言って、クロエは難しい顔をする。何か思い詰めてるような、そんな表情だった。
「あの竜は一体何だったの?」
そのマシロの何気ない質問は核心を突いたのか、クロエが口角を吊り上げる。
「あの竜は元は人間だった。いや、あの竜に限らず全ての魔物は元は人間だったんだ」
「全ての……魔物が人間……?」
マシロが鸚鵡返しをする。マシロの反応に首肯しつつ言葉を続けた。
「そう。あれらはマシロの力によって身体を消滅させられ、魂が身体を求め続けた成れの果て。身体に対する魂の依存度が極端に高いか、マシロに強い恨みを持ってた人間はより強力で強大な魔物に堕ちる。 また、それはマシロにしか完全に倒せないんだよ」
マシロは何か嫌な事を頭がよぎった。
クロエの言葉が脳を刺激し、次々と封印されていた記憶が蘇ってくる。頭を手で覆い半狂乱になりそうになるのをグッと堪える。
「続けて……クロエちゃん……」
不安の色を隠せないのか、クロエはマシロを泣きそうな顔で一瞥していた。
「だから魔物は本能でマシロを恐れる。
身体を消されたんだ。魂まで消されたらもうこの世には居られない。そして、マシロの力は "消滅"。文字通りあらゆるものを消す力。
人々の記憶も、息の仕方も、思考も、身体も、もちろん人間だけじゃなくこの世界すらも根底から消せる力だ」
クロエは淡々と言い放つ。マシロの力。
それは絶対的で圧倒的な力だった。クロエの言っている事が本当であればマシロは無敵に近かった。
「分かった? マシロ……。マシロの力は絶大なんだよ。でもだからと言って完全に扱える訳じゃない。 今この瞬間に暴走が始まってもおかしくないんだ。情緒不安定、脳の過剰負荷によって引き起こされる "消滅" の力は全てを無に帰す。そしてまた始めからだ」
クロエが遠い目をする。そこに感情というものは一切無かった。マシロはやっと落ち着いたのか、クロエの身体を見つめていた。
「消滅……。 私の力でクロエちゃんの不老不死は……」
「消せない。 それだけは消せないんだ。
不死はまだ分かる。再生能力によるものだと勝手に解釈してるから。でも、不老は分からない。そしてマシロの力でも消せない。文字通りの呪いだ」
「クロエちゃん……」
「ああ、そう言えば私の正体、気になってたでしょ? 私はマシロ、あなたの姉であなたの唯一の肉親だよ。 もう気付いてると思うけどね」
言い終わるとウィンクをするがマシロはそれを胸が締め付けられる思いでいっぱいになった。
「お姉ちゃん……お姉ちゃん!!」
マシロが堰を切ったように泣きながらクロエに抱き着く。 お姉ちゃん、と噛み締めるように何度も口に出す。 クロエはただ穏やかな笑みを携えながらあやすようにマシロの頭を撫でた。
「お姉ちゃんかぁ……久しぶりに言われた感じもするし、ついさっきまで呼ばれてた気がする。変な感じ。でも温かいもので胸がいっぱいになるよ」
「お姉ちゃん! 私、私っ!」
泣きじゃくり、しゃくり上げるように言葉を紡ぐ。クロエはマシロの背中をさすりながらマシロの言葉を待った。
「私、怖かった。 最初は何も思い出せなくて、走ってた。お姉ちゃんに追いかけられてたのは私の力を引き出す為だよね……。
分かった……んだ。 お姉ちゃんは全部私の為に動いてたんだ、って。ありがとう……ありがとうお姉ちゃん!」
それを最後にマシロは声をあげて思い切り泣いた。




