決意
ラスクとライズがお互いに肩を支え合いながらギルドに帰ってきた。
「はは……ただいま」
ラスクの方は見たところ外傷は見られなかったがライズの方は頭から血を流していた。
それを見たメンバー達が慌てふためき、治療開始まで幾分の時間を要した。
「……?」
二階から一階へと降りてきたマシロはまだ事態に気付いておらず首を傾げていた。マシロがそれに気付いたのは人に囲まれているライズを見てからだった。
「ライズさん!? 大丈夫ですか!?」
すぐさま駆け寄りライズに声をかける。
マシロに気付いたライズは歯を見せて笑った。
「こんなのはかすり傷みたいなもんだ。心配するなマシロ?」
「っ……でも」
「ライズの事はギルドの皆に任せて。ちょっとマシロちゃんと話したい事があるんだ。二階へ行こう」
マシロの言葉と被せるように喋りかけてきたのはラスクだった。いつもの笑顔ではなかった。真剣そのものだ。マシロは逆らえずに今降りてきたばかりの階段を伝い、二階の自室にラスクと入る。
「さて、どこから話そうか……」
床に腰を下ろしたラスクがどこから話そうか決め兼ねていた。マシロは何があったのかまでは分からないが何となく嫌な感じがした。
そして、ラスクが口を開く。
「良く聞いてくれ、マシロちゃん。簡単に言うと、僕達はクロエと戦った。そして、ズタボロにされて帰って来たって所かな」
「……」
マシロの嫌な感じは的中した。ラスクとライズの二人がここまでボロボロになるのはクロエの事だとうすうすは気付いていた。
「クロエちゃんは何か言ってましたか?」
「マシロちゃんの力が覚醒するとか……かな。何か知ってそうだったけど教えてくれる雰囲気ではなかったね」
マシロの問いにスラスラと答えたあと、ラスクは少しだけ顔を歪ませた。
「正直言うと、クロエの強さは別次元だ。あの子には勝てない。勝てる相手じゃなかった」
歯軋りしながら言葉を紡ぐラスクをマシロは初めて見た。
「まぁ相手をしたのはライズなんだけどね。とにかく強かったよ。あのライズが圧倒されてたからね」
「ラスクさんはその間何を?」
「クロエの観察。欠点や癖、どれだけの手練れか……とかね。 でも、全くと言っていいほど情報は集まらなかった」
それだけ言うとラスクはうつむいて喋らなくなった。 マシロは何て声をかけていいのか分からず内心オロオロしていた。
「あ、あのっ! 元気出してくださいラスクさん!……今度クロエちゃんに会ってこようと思っています。そこでクロエちゃんに全て聞いてきます!」
マシロの口から出た言葉は衝撃的だった。ラスクは思わず顔を上げ目を見開く。
「だ、ダメだ!マシロちゃんにもしもの事があったら───」
「大丈夫ですよ。もう、クロエちゃんは私に攻撃して来ないと思います。クロエちゃんは私にとって大切な人、私はクロエちゃんにとって大切な人だから……大丈夫」
揺るがない決意と目がラスクを射抜く。
ラスクは諦めたように嘆息すると、スクッと立ち上がる。
「分かったよマシロちゃん。でも、会いに行く時は僕とライズも付いて行くよ。何が起こるか分からないしね。それで良いかな?」
「はいっ!」
「良い返事だ。なら僕はそろそろ下に戻るよ。ごめんね」
ラスクが扉を閉めるとマシロはベッドに上半身を倒れ込ませた。
「ふぅ〜……勢いであんな事言っちゃったけど良かったのかな……。でも、いつかは会えると良いねクロエちゃん……ふぁっ」
不意に眠気に襲われ、小さく欠伸をする。
この体勢じゃマズイと思ったのかベッドに入り直して睡魔と戦う。が、それも数分と保たず瞼が重くなりマシロは眠ってしまった。




