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邂逅

 ラスクとライズは魔物の目撃情報が出たという中央都市近郊の荒野に足を運んでいた。

 そこで二人は奇妙な事に遭遇していた。

 地面が激しく抉れており、魔物の血痕が至る所に飛散していた。魔物が出現してからまだ十分と経ってないというのに、まるで戦闘の痕跡のようだった。


「ラスク……お前、これをどう見る?」


「俺らに要請が掛かるって事はよほどの強敵の筈だ。魔物が突然姿を消すのはあり得ない。強敵なら尚更な」


  二人共疑問に思っている事があった。誰がこの荒野に足を運んで魔物と戦闘を行なったか、だ。


「ライズ、気を抜くなよ。近くに居るぞ。魔力を感じる」


  ラスクは魔力による探査結界を展開させ、周辺に微弱だが他の人間の魔力を確認出来た。

 ライズもそれに気付いたのか、神経を研ぎ澄ませる。


「おかしい、この魔力反応……。何かがおかしい。 まさかっ!? ライズ、今すぐここから離れるぞ!!」


  ラスクは叫ぶと同時に横っ飛びをする。ライズは瞬間移動をした。二人が行動を起こした瞬間に今いた場所に光が出現し、大爆発を起こした。


「くっ!!」


「うおっ!?」


  ある程度予想出来ていたが爆発の規模が違った。が、運が良かったのか、二人共噴煙に包まれただけでほぼ無傷だった。


「"ウィンド"」


  ライズが魔法を使って噴煙を払う。視界が晴れた先には今、ライズが最も会いたくない人物がそこにはいた。


「お前は……クロエ……っ」


  込み上げる怒りを食いしばるが歯軋りを起こした。 怒りが表情に出ており我を忘れる寸前だった。クロエはそんなライズを嘲笑うかのように微笑を含んで悠然と立っていた。


「あの子がお前の言ってたクロエか……。マシロちゃんに良く似てるな」


  ラスクはクロエを初めて見る為クロエをジロジロと眺めている。だがいつ襲われてもいいように注意はしていた。


「落ち着けライズ。熱くなれば敵の思う壺だぞ」


  ライズを落ち着かせる。ライズは一言すまんと謝った。


「さて、君がここに現れた理由を聞かせてくれるかいクロエ……」


「私が現れた理由? その前に随分と馴れ馴れしいんだね」


  今まで黙っていたクロエが口を開く。ラスクの態度が気に障ったのか少し不機嫌になっていた、


「まぁいいわ。 私が現れた理由だっけ?

 そうだね……マシロが気になってね。ちょっと見に行こうとしたら魔物が現れて戦闘開始。で、倒し終わったらそこにあなた達が来たって訳」


  淡々と語るクロエはどこかつまんなそうだった。


「あなた達を見てるとまだマシロの力は覚醒してないようね。ま、たった二週間で覚醒したらこっちもこっちで困るんだけど」


「何……? マシロの力が覚醒だと?どういう事だ!」


  クロエの言葉にライズが反応する。その反応に対しクロエはライズを一瞥すると溜息を一つついた。


「その反応……何も知らないみたいね。

 知らないでいてくれた方が楽なんだけど。どうせあなた達には関係ない事だ」


「クロエ、君はマシロちゃんについてかなり知ってるみたいだけど君は何者なんだ?」


「それこそ関係ない……と言いたいけど敢えて言うならば、私はドッペルゲンガー。

 あなた達に教えられるのはここまで。ちょっと退屈だから遊んでよ」


  言い終わるが早いか、クロエの身体から殺気が放たれる。重い、重い感じだ。


「惚けるなラスク!今度こそ貴様を倒すぞ!! "炎竜の爆炎"」


  ライズが凄まじい熱量の炎を纏う。瞬きした後にはそこには居なかった。ライズはクロエの右隣りに超高速で移動すると炎に包まれた足で蹴りを放つ。クロエは避ける素振りも見せなかった。蹴りは見事直撃し、直撃と同時に夥しい熱量が周囲に拡散する。クロエはなすがままに吹っ飛ばされた。辺りは砂塵で覆われクロエの姿は見えない。


「ライズ、お前はクロエと戦っててくれ。俺はあの子の強さを見極めたい。酷だろうが耐えろよ」


  ラスクがライズに聞こえる程度の大きさで喋る。ライズはラスクを一瞥するとクロエの方向に向き直った。辺りを覆っていた砂塵と噴煙が突如掻き消える。


「やれやれ、何度言っても分からないみたいね。あなたじゃ私は倒せない。これはこの間戦ったあなたが一番良く知ってる筈でしょう?」


  悠然と、何事も無かったかのようにクロエはゆっくりとライズに向かって歩いている。ライズに受けた傷は徐々に再生してきていた。


「わざと再生を遅くしてあげてるんだから攻撃してくれば? ちょうどいい時間潰しにもなるし」


  不敵な微笑と共にライズを挑発するクロエ。


「このっ!! クソガキがあああああ!!」


  炎を増大させるとクロエとの距離をひと蹴りで詰め猛攻を仕掛ける。しかしクロエは嵐のような攻撃を全て紙一重で躱していた。


「攻撃が単調過ぎる。挑発に乗って我を忘れるのはあなたの悪い癖ね」


  攻撃を躱しながらもボソッとライズの短所を的確に見抜く。


「それと、私はあなたより遥かに年上よ?言葉に気をつけなさい……っていうのは冗談」


  クロエはクスっと笑うとライズの顔面にカウンターを見舞う。体勢を崩されたライズはふらつき、ガラ空きとなった腹に強烈な蹴りがめり込んで来た。


「ぐはぁっ!?」


  くぐもった声を上げて数メートル飛ばされるライズ。超高温の炎ごしからのカウンターだった為クロエの拳は皮膚が(ただ)れていた。


「んー、やっと身体が暖まってきたかな。

 "インフェルノ"」


  拳が焼き爛れているのに目もくれずに身体を火柱に包ませる。


「"術式炎装・インフェルノ零"」


  クロエのその言葉と共に火柱が消え、クロエが姿を現した。外見はあまり変化はなく、ただの炎を纏ってるようにしか見えなかった。

 黒を基調とした服装やスカート、これと言って変わったと言えるめぐるましい程の変化は見受けられなかった。


「"炎装"の最終段階。他の奴と違ってこれは副作用がないから使い勝手がいいんだよね。その代わりと言っちゃうと威力が大して高くないって事になるかな」


  まだ倒れているライズと、クロエを観察してるラスクに向かって聞こえるように言った。言い終わると姿が掻き消え、ライズが起き上がった所の真横で爆発が起こる。


「ぐっ……!」


  すぐさま爆風と砂塵に包まれるライズだが瞬間移動をして事無きを得るが、移動した先にクロエがいた。クロエはライズと目が合うとにっこり微笑んだがライズは表情を歪めた。


「女の子の笑顔にそんな顔で返すんだ?つまんないなぁ」


「っ!?」


  ライズが目を見開く。何故なら凄まじい程の熱量がライズの纏っている炎を無視して伝わってきた。


「攻撃、見えなかった? あはは、これはあなた達人間用に使うものじゃないんだ。対魔物用」


  恐ろしい程の笑顔と共に圧倒的な差がライズには分かってしまった。現に、攻撃された事すら気付かなかった。攻撃が外れたというのは分かったがこれでは相手にならなかった。


「くっ・・・っ、うおおおおおおおおおおお!!! "炎竜の逆鱗"」


  奥の手を発動するライズ。その瞬間、小型の隕石が飛来し、クロエの身体を貫通し爆炎が包んだ。 ライズは被害の及ばない上空に避難しており、その様子を眺めていた。


(くそったれ! まだ"炎竜の逆鱗"には奴に見せてない力があるがこれで終わってくれよ)


  祈る。ただただ祈るしかなかった。まだ魔物を相手にしてた方が楽だったとライズは思う。


「私に炎は効かないって分かんない?前回の戦闘で何も学んでないんだね」


  爆炎の中からクロエが出てくる。傷はもう再生したのか、全くの無傷だった。


「学習能力ないんじゃないの? もう良いよ。全て終わらせる……」


  クロエがポツリと呟き、手を広げる。濃密な細い炎が幾重にも折り重なって編まれていく。それは段々と槍のような形になっていき、最終的には炎の槍を形取った。

 ライズは地面に叩き落とされており、血が地面に滲んでいた。


「"煉獄の極槍"」


  いつ間に上空に移動したのか、クロエが静かに呟いて地上にそれを投げる。それは遠くからみれば一筋の流星のような儚さをもった光が地上へと流れているようだろう。

 それが地面に触れた瞬間、辺り一帯が眩い光で覆われた。



「……逃したか。まぁ結構楽しめたから良しとするか」


  クロエが地上を見ながら、そこに二人の気配がない事を悟ると上空から姿を消した。

 誰も居なくなった荒野には全てを飲み込まんとする大穴が開いていた。その先は深く、何処までも深淵が続いていた。


 *


「はぁ……はぁ……間一髪だったなライズ」


「ああ……お前が居なきゃ俺は死んでいた。感謝する」


  体力が底をついているのか、ラスクとライズの二人は膝をつきながら息を整えていた。クロエの攻撃が迫っている最中にラスクが転移魔法を使って避難いなければこの世にはいなかっただろう、とライズは思い、改めて心の中でラスクに感謝した。


「お前……あいつのレベルはどうだった?次会った時の対処法とか考え付いたのか?」


「……いや、はっきり言って次元が違い過ぎる。魔物の方が可愛いくらいさ。戦ったお前が一番分かってるだろ? あいつの危うさを」


「ああ……」


  ライズが口籠もる。クロエは強い。それは良く分かっていた。力の底も分からないしクロエの本気を垣間見てそれが顕著に表れていた。 化け物とかそんな生易しいものでは無かった。対峙して生きてるのが不思議だった。


「前、クロエについてちょっと語ったろ?

 奴の再生能力と不老不死を差し引いたら俺ら二人で同等レベルだって……。侮っていた。目ですら追えない。あんな化け物が存在してて良いのかよ!? くそったれ!」


  やり場のない怒りが渦巻く。その気になれば一瞬で全てを終わらせる事くらい出来てた筈だ。 言い換えればクロエに生かされた。これが妥当だろう。


「……落ち着け。一旦帰るぞ。マシロちゃんも待ってるしお前の怪我も治さないとな」


  ラスクのその言葉にライズは素直に従い、帰路についた。

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