悲しそうな顔をした少女
「はぁ……はっ……、っ……!」
一人の少女が息を切らせながら裸足でコンクリートで舗装された道を走っていた。裸足で長時間走っていたためだろう、細くて綺麗な足は細かな傷が多数出来ていた。
白い、フリルのついたシンプルなワンピースも所々汚れており、腕にもどこかで切ったのか切り傷があり、そこから多少出血していた。
「はぁ……っ、はっ……、くっ!」
少女は追われているのだろうか、何度も後ろを振り返って確認していた。少女は休む事なく走り続けた。
「もうそろそろ限界なんじゃない?」
その声が聞こえた時、少女の身体が震え、目が僅かに見開かれた。振り向くと、そう少女と年齢の変わらない金髪の少女が空中を駆けて巨大な鎌を持って少女を追いかける形で迫ってきていた。
(確かに体力的に限界だけど走るのを止める訳にはいかない!)
金髪の少女の言う通り体力的には限界だった。裸足だったため砂利道がきつかったし急な坂もあった。それでもここまで逃げて来れたのは生きる為だった。
「あっ……!?」
足がもつれ思わず声を出してしまった。そして前から地面に倒れ込んだ。
「ふぅ……結構逃げてくれたね?でもここでおしまいかなっ!」
金髪の少女が倒れ込んだ少女を見ながらゆっくり近付いてくる。
「ひっ……いや、来ないでっ!」
後ずさりしながら叫ぶも金髪の少女は意に介さずに少女との距離を詰める。そして一定の距離を置いて静止した。手に持っている鎌を少し動かすと鎌の刃が黒色のエネルギー体に包まれる。
「ごめんね……今の私じゃあなたを助ける事は出来ない。でも、必ず助け出してあげる」
今にも泣き出しそうに顔を歪めて少女にそう言葉をかけるが、少女にはその言葉の意味が分からなかった。そして次の瞬間には鎌を振り上げて黒色の斬撃を放った。
「きゃああっ!」
少女には当たらず、コンクリートの道を抉った。その破片が少女の顔に当たった。少女は怯えた様子で金髪の少女を見上げた。
「……」
金髪の少女もただ少女を見つめていた。金髪の少女の顔はあどけなさがあるがどこか大人びた顔をしていた。優しそうな目が印象的でセミロングの金髪は風になびいていた。
どうしてこんな少女が自分を襲うのか疑問でならなかった。
「あなたは何者なの?どうして私を襲うの!?」
震える声で勇気を出して金髪の少女に聞いてみた。しかし少女の期待する答えは返ってこなかった。
「いずれ分かるよ。私が何者なのか、どうしてあなたを襲ったのか近い内に分かるから」
悲しそうな笑顔を見せて、鎌を振り抜いた。
金髪の少女の放った斬撃は少女の右腕に直撃した。が、奇妙な事が起こった。金髪の少女が放った斬撃に比べ少女の右腕の傷が明らかに小さかったのだ。
「え……?どうして……」
少女も異変に気付いたらしい。普通なら腕が吹き飛んでも可笑しくないレベルなのに少し切った程度の切り傷で済んだのだから。
「それも近い内に必ず分かるようになる。その力、今は大した事ないけどいずれはこの世界を大きく揺るがす力になる。そして、私とあなたを繋ぐ鍵でもある……」
金髪の少女はやはり悲しそうな表情で言った。
「何で? 何でそんな悲しそうな顔してるの……?どうして、どこまで私の事を知ってるの!?」
右腕を左手で押さえながらゆっくりと立ち上がる。瞳には隠し切れない恐怖があった。それでも少女は何故こんなにまで悲しそうな顔をする一人の女の子を放って置けなかった。
「やっぱり優しいわね。悲しそうな顔か。いつかは心の底から笑い合いたいなぁ……。
それとあなたの事は何でも知ってるわ。今はこれだけしか言えないけど、時期がくれば思い出す事も多いよ」
悲しそうな表情だが、その目には優しさが溢れていた。少女が何か言おうと口を開きかけた時、二つの斬撃が金髪の少女を襲った。
「っ!!」
不意を突かれたが斬撃を相殺し、受け流す。
「危ないなぁ。どこのどいつよ」
「お前のしてきた事は全て見てたぞ。ここでお前を裁かねばならん」
と、一人の男が二人の少女の間に割って現れた。右手に剣を持っており、胴回りや胸には銀の鎧を纏っていた。眼光は金髪の少女を見据えていた。
「待って……っ!」
少女が消え入りそうな声で、割って入ってきた男に向かって言う。しかし、少女が口を開くより早く金髪の少女が口を開いた。
「私に対しての恐怖心はもう無いの?」
「……あなたの顔を見たらそんなの消えちゃったよ。おかしいよね、ほんの数分前まで殺されそうだったのに今はあなたを許してる……。悲しそうな顔をどうにかして笑顔にしてあげたいって気持ちが大きいかな」
少女は前に進もうとしたが男に制止された。それをされた少女は少し顔を歪ませた。
「……ありがとう。やっぱ昔から変わらないなぁ。私の名前、教えとくよ。クロエ……だよ。覚えといてね!」
少女に対してそう言うと今度は男を見据え、鎌を振り抜く。
「ぬっ……!?」
金髪の少女が斬撃を放つが男の足下の地面に直撃し地面が抉れた。
「ここは危ない!ギルドへ逃げろ!! 見ず知らずの俺だが信じてくれ。後ろの道をいけばいずれ着く……早く」
男は金髪の少女から目を離さずに少女に言う。すると、少しの間を置いて走り去っていく足音が聞こえ、どんどん遠ざかっていった。
「貴様、何故あの少女を狙った?何か目的でもあるのか?」
その男の言葉にクロエは肩を竦め、嘆息をこぼしながらゆっくりと口を開いた。
「目的……?いずれ忘れ去るあなた達に話す事はない。殺気が消えてないとこを見ると私と戦うって事で良いのかな?」
クロエは言い終わると鎌を揺らしながら微笑んだ。男は剣を握り締め、身構える。
「当たり前だ。お前はとても危険な存在だ。そしてあの少女が逃げる時間を稼ぐ為にお前を倒す!!」
「私を倒す……ねぇ。倒されるのはあなたの方だと思うけど?だって私、めちゃくちゃ強いから!!」




