仕様書は確認しよう(短編)
本来は連載物として書きたかった話でしたが、連載は一つ抱えて終わっていないので何とか零れて来るネタをなだめすかして短編として投稿します。
現在、連載中の方を何とか目途が立ちましたら連載に切り替えたいと思います。
この国は、天候も安定しており海と森と、その向こうにある山によって軍事的な戦いと言う経験はない。
季節感としては年間を通して温暖で、嵐に見舞われると言う話も読んだり聞いたりした事があるだけで体験をした事がある者は一部の遠征をする騎士団や兵士以外では存在しないだろう。特に、国の全体からしてみれば数は少ないものの、城壁から出た事もない者からしてみれば雨が降るだけで珍しい事と言えるだろう。
だから、「彼」は不思議な面持ちで目覚めた。
常日頃から使用人達の丁寧な作業により整えられた部屋で、時間とともに用意された服や食事を当然の事として受け入れていた。
当然だろう、彼はそれ以外「知る事のない生活」。否、人生を送って来たのだから。
「……何だ?」
年間を通して温暖とは言っても、それでも全く気温の変化が無いわけでもない。
この国でも流石に年の瀬の当たりになると、暖炉に火がともる事はあるが感覚的にまだ先だと言う認識をしていた。しかし、冷え冷えとした部屋の空気はキンと刺す様に肌に感じている。
寒さを感じているのか、まだ眠りの世界につかまっているらしい新妻を微笑みで見てから掛布で包み込むと己の体温と掛布の保温からか寄っていた眉根が緩んでいた。
常ならば、枕元に置いてある天使を象った呼び鈴を鳴らして世話役を呼びつけるものの。今は新妻が昨夜のめくるめく素晴らしい世界の余韻に包まれているのを遮りたくは無かった。
だから、判らなかったのだろうか?
適当に昨夜着ていた衣装の中でも簡易な所だけを着こみ、使用人達に朝食を要求しようと思って部屋を出た。
もしかしたら、深く寝入っている主人達に気を使って近付かない様にしているのかも知れないが。だからと言って部屋を暖めたり様子を見て朝食を用意したりするのはこれまで「当然」だったのに今日に限って何もしないと言うのに腹立たしく感じる。
気分的に、彼はまだ自覚が無かったのだろう。
簡易的とは言え、昨夜即位したばかりで己がこの国の王になったと言う自覚が。
だから、これまでと同じ感覚だったのだあろう、全てが一新されてしまった事など何一つ認識する事も無くて。
「誰か、誰かいないのかっ!」
くわわんと反響する己の声を耳にして、彼は……。
即位した新たなる国王ランスロットは初めて、「異変」を感じた。
ーーーーーーーーーー
昨日即位したランスロット・グルースは、この国の第三王子だった。
そう、王太子では無く第三王子。まだ若い先代国王と将来を有望視されている王太子、その補佐として次男である第二王子と存在していたので第三王子のランスロットが王位を狙うと言うのは有り得る。有り得ないの以前として必要が無かった。
だからこそ、王位に必要な王太子でも予備でもない第三王子は初代王と共に国を興したと言われているクラーテール公爵家令嬢、アンジェラとの婚姻は生まれる前から初代王と公爵の間で取り交わされていた、定められていた。
建国より200年……その建国記念日はあらゆる意味で特別な日として認められていた。
城壁の中は、外に比べれば狭いとは言え唯一存在する王立学園や商店、中小の貴族達の城下の邸宅が存在する。城壁の中に住居や店舗を構える事が出来るのはごく一部の条件付きの者であり、それ以外は全て城壁から距離を取った距離にある城下町に存在する。
便利さを考えれば城壁の中の方が良いと思われるかも知れないが、小さな一つの王国と言っても間違いではない城壁の内側に住居や店舗を希望する者は国民の総数からすれば思いのほか少ないのが現状だった。
故に、城壁の内部には学園もあれば畑や池、地下から繋がる海も存在する。森や山に行く事を城壁の内側の者達では経験がないが、かと言って生活に困っているわけではない。
温暖な気候、問題の起きていない王国の外側との関係。
この王国は紛れもなく、「平和」によって守られていた。
そんな折に一石を投じたのは、件の建国記念日である。
建国記念日は同時に、唯一の王立学園の卒業式であり、王太子が国王から王冠を譲られる日だ。そうして、現王太子と王太子妃は国王と王妃に就任する……若い二人ではあるが、若いうちから就任をしたとは言っても退位する父であり母である公爵夫妻となる事が決まっている彼等が暫くの間は若い国王夫妻へ助力する事は習わしとして当然と言う風潮があった。
王太子は王へと就任し、公爵家を起こす元国王夫妻はいずれ王弟となる第二王子の後見人として、国王夫妻に子供が生まれれば公爵家を相続し妻子を成す。場合によっては、第二王子と王太子の子達が婚姻をすると言う事も歴史と血の流れ的にないわけではない。
今回の場合、初代の王と建国の祖とも言われる唯一大公と呼ばれているクラーテール公爵家の令嬢アンジェラと婚姻を結び、第三王子はクラーテール公爵家へと婿入りをする事が決まっていた。
しかし、ここで問題が生じる。
第三王子が、恋をしたのだ。
ランスロットが恋したのは城壁の内側に家を持つ男爵家の令嬢、ソフィア。
爵位持ちとは言っても領地を持つわけでもない、どちらかと言えば市井の平民に近い育ち方をしていたのは男爵家としては珍しい事ではない。それでも、学園に入る際には誰もが貴族としての礼儀作法を身に着けて実行すると言うのにソフィアは、良く言えば平等で悪く言えば身分制度を除外視していた。
ソフィアとランスロットがどんな出会い方をして、愛を育むに至ったのか……それは今は語るべき事ではないだろう。どちらにしても、二人は各々に柵を持つ身分であると言うのに無視しランスロットは分単位で行動している婚約者の前に礼を尽くすわけでもなく「婚約破棄」を申し出た。
美しさで言えば大輪の花と言われる公爵家の令嬢を相手にした際、ランスロットとその一派は誰もが嫌がるか、断るか、罵って来るかと身構えていたが、意外にもあっさりと許諾した。
「王家に連なる者、王子として我がクラーテール公爵家と王家の結びし契約を破棄される、と言う事で宜しいですね?」
呼ばれもしないお茶会に、複数の男子生徒(基本的に学園内にあるのは教職員と生徒だけである)と一人の女子生徒を連れ込み、あまつさえ複数の目がある前で婚約破棄を申し出る。
これは、どこからどう見ても第三王子ランスロット・グルースが行うべき事では無かった。
「それでは……我がクラーテールは古の契約に従い、『魔導書・黄金の夜明け』の担い手として。
また、トレミーの総主の娘として第三王子ランスロット・グルースと思い人の娘との婚姻及び王位継承を以て了承致しましょう。
ご安心下さい、全ては良きに計らいます」
「……え?」
ーーーーーーーーーー
遠くまで響く己の声を耳にして、新王ランスロットは込み上げて来る不安を胸に自然と足が早くなって行くのを感じた。
声が、歩く足音が反響するのは間に遮るものがないからだ。
石造りの城、ランスロットが生まれてこの方ずっと住んでいる城。
いつか、この城を出て公爵家の一員となる事が決まっているとは知っていても実感などしたことが無かった城。
手入れの行き届いた調度品、ぴかぴかに磨かれた窓、各所に飾られた咲き誇る花……確かに、階級の高い人々が歩く廊下を平然と使用人や下働きが作業する姿は見た事がない。だから、それはおかしくはない。
おかしいのは。
おかしいのは。
おかしいのは。
「誰かあるかっ!」
常ならば人前に出られる姿とは言い難いが、その間に開けた全ての扉の先にも走り抜けた全ての廊下にも、誰一人としての存在を感じる事は無かった。何も無かった。
ただ、虚ろなまでに空間が広がってるだけだった。
部屋を飾る調度品も、足元を支える絨毯も、日差しを和らげるカーテンさえ無かった。
まるで、寝室以外は最初から何も誰も無かったかの様だった。
日常的に学園に足を運んでいた、学園から城壁内部の町に繰り出して将来に側近となるべく候補の子息達と過ごした。
楽しかった。
生まれる前から決まっていた婚約者との定期的なお茶会、詰まらない時には抜け出した授業、イタズラがバレて叱られる事もあった。
その中で出会った、婚約者には感じる事も無かった女の子。
いつしか、のめり込んでいた。恋敵は多かったけれど、それでも彼女に選ばれ通じ合い、王太子でも無く予備でもない己の価値を諦めていた事に気づかされた。
ならば、構わないだろうと思った。
もしかしたら、そこには幼い頃から容姿端麗で淑女としても高い評価を得ている婚約者を相手に対する卑下たる感情があったのかも知れない。そんな思いを知らずして抱いたままで家に入った所で長続きするとはどうしてもランスロットには思えなかった……これは、純然たる善意だと思っていた。
けれど、知る者は言うだろう。
ランスロット・グルース第三王子は、愚かだったと。
「まあ、陛下……。
そう激高するものではありませんよ?」
「陛下、お前をそう呼ぶ日が来るとは思っても居なかった。
だがな? お前がその国王と言う地位についたからには決して己の為だけに生きる事は許されぬ……あえて教育をしなかった事でここまでの事となるとは思わなんだ」
王城から学園に行く通路を、そうして日常では食堂として。時に行事を行う場所として使われている広間を抜けて、いつもならば燦々と降り注ぐ太陽の光で溢れる広場……。
そう、学園の広間の扉は外への扉。
王の住む城を囲む、壁との境目。
今、その向こう側には一組の男女が居た。
「父上……母、上……?」
目を丸くするランスロットを見つめる二人は、どこか諦めたかのような微笑みを浮かべていた。
確かに、譲位をした事で二人は国王でも王妃でもない。さりとて、退位したとは言え公爵家と名乗る事になるので粗末な服装であるのもおかしい……正確には、服装は王位についている頃は部屋着と言っても差支えない程度のものを身に着けているだけであって平民から見れば十分に貴族の服装だ。形がシンプルであると言うだけであって品質は高い。
「その様な御姿で王城を歩き回るなど、王位にある以前の問題ですわ。
陛下、品位を貶めると言う事は貴族達に弱みを見せる事になります。
貴方様には何一つ王としての心得をお教えする事は出来かねましたが、どうぞお体には気を付けてお過ごしくださいませ」
「母上、何を言ってるのです……」
「陛下に申し上げる、我等夫婦及び息子夫婦たちは共にトレミーに下りてクラーテールの保護下に入る事となり申した。
我等は共に、本来ならば王国に身を殉じる覚悟を持ちその様に育ちましたが……契約であるならば致し方がない。
我らが共にトレミーに入りクラーテールに仕える事で、どれだけの贖罪となるかは判らぬ。
だがな? 決して我等はお前への。王国への愛を忘れる事はない事だけは覚えていて欲しい」
「父上、一体何を……これはどういう事なのです!
城の中は、そのほとんどが。調度品も何もかも失われています、クラーテールが此度の事で反逆を行ったのであれば、王として……」
確かに、突然の両親の変貌と言動に、ここに至るまでの見慣れた城が見慣れぬものになったとか、色々と混乱するべき状況である事は想像がつくし理解もする。
「……それは、なりませぬ。
と言うより、その必要がありませぬ。
陛下、恐れながら貴方は「何も知らない」のです。王位を継ぐ教育を、王族としての教育を何一つ受けてはおられない……それは、三男として生まれた貴方様への我らのせめてもの慈悲と言う事ではありましたが……」
「それは、どう言う……」
「陛下……我が国は、いえ。
貴国の成り立ちは御存じでいらっしゃいますね?
かつて、祖王様と未来を夢見たと言う姫君が初代クラーテール大公のお力を願い建国に至りました」
ランスロットは、とりわけ苦手としている為に嫌っていた歴史の。数少ない知識を何とか引っ張り出し……これは、国内の子供に読み聞かせをする時などにも使われている程の有名な事なので、流石に知らないなどと言われたら王子として国王として、ましてや国民として恥ずかしいものとなっただろう。
「ええ、歴史ではそうなっていますが……」
しかし、ランスロットが歴史を苦手とし。その歴史がクラーテール公爵家が無ければ王家が成り立たなかったと言われているかの様に感じた事も、ランスロットが歴史とクラーテール公爵家を苦手にしている理由の一つだった事は広く知られていた。
「『歴史では』ではありません、事実です。
初代クラーテール大公は祖王と妹姫様に懇願され、初代大公が当時住まわれておられたこの地を譲り受けました。その際、お持ちになっていた『魔導書』にて初代大公様は200年間で契約を続ける事が出来れば初代大公様のお持ちになる『力』……つまり『魔導書』を王家に献上されると言う契約をなされました。
条件は、初代様方から200年後にクラーテール公爵家と王家との間に婚姻がなされる事」
陛下、と我が子に語るも決して頭を下げず礼をしない両親。
そうして、決して外へと続く扉から中に入ろうとはしない。
異質、流石に冷静な時であれば気づいたかも知れないが混乱している頭では両親が何を言っているのか理解が出来ない様だ。
「陛下、貴方が王位を継承されたのは初代様達の契約を王家として破棄されたが故の責任です。
この地は、本来のあるべき姿へと戻りましょう。すでに、クラーテールの御方々は『魔導書』の発動に入っておられる」
「本来の姿……かつて、祖王様と妹姫様は財産など何一つお持ちにならなかったと言われています。
それ故、祖王様は初代大公様に国興しの為に莫大な借金をされました。それは、王城と城壁の内部の建物に限りは温情にて返済と言う事にされ申した。しかし、日々入荷される食材などに至ってはその限りではない。調度品などもってのほか。特に行事ごとに替えねばならぬ品々についてはとうてい手が回らぬ……騎士団も側仕えも侍女も、下働きの給金さえ王家に支払う余裕など作る事は出来なかった。
歴代の王妃は、トレミーの関係者だった。クラーテール公爵家の保護下にある組織として表向きは思われているトレミーは、正確には王家の借金の為の……王妃の後見にありて王城の体面を保つ事を必要とされてきた。
この200年目の節目の折に、王家とクラーテール公爵家との初めての婚姻がなされる事で広大で肥沃なクラーテールは全て王家の物として莫大な借金も帳消しとなる筈だった」
「ああ、これは申し上げて置かなければなりませんわね……。
これまで中級や下級貴族の中には王族に嫁ぐ事を願う者達がおりましたし、新たな王妃殿下となられた方も男爵家の方と伺っております」
何しろ、ランスロットがアンジェラに婚約破棄を打ち出してから当日に婚姻、継承と強引に進められたのだ。
僅かに止まったかと思ったら、即座にアンジェラは「許可を得ております」と言って簡易的ではあるが儀式をさせた。確かに、周囲の貴族への根回しも含めて何もしていなかったのだから事実を盾にするのは上手い手ではないが最も早く進められるだろう。
それによって、王子で無くなる事は変わらないとさえ思っていたのだから。
王家に嫁ぐ事は、基本的に伯爵家以上に限られている。子爵家、男爵家から嫁ぐ事がないのは、彼等が城壁の内側に居を構えているからでトレミーに属していないからだと言われている。
「家を整えるのは妻の役目……それは、王城と言えど変わりはありません。
クラーテール公爵家の後見を受けても居ない妃殿下の為にクラーテールが援助をする事も無ければ、契約を破棄された王国の為に守護を行う事もございません。
これより、王家は新たなる妃殿下の……何と言いましたかしら?
そのお家が、城の全ての調度品から下働きの給金に至るまで支払う事になります」
「ソフィア様と仰るそうだよ、義理とは言え新たなる父母となる者への挨拶もなく王位を継承するからには、我等の事を必要とはされておられぬのだろう」
「そんな! それは違います、私もソフィアも……」
恐らく、と元国王夫妻は三男坊を思う。
すでに混乱した頭で、判断の付かない頭で。
思ったのは「見捨てられる」と言う事を肌で感じただろう事。
「陛下、本来のあるべき姿へと戻るこの地をお守りするも栄えさせるも王たる貴方様と支えるべき妃殿下のお役目です。
我等旧き時代の者は去りましょう」
「父上、母上!」
「なりません!」
いなくなる、その事実だけを前にしてランスロットは声を上げる。
今にも去る、閉じられようとしている扉を前に後を追いかけようとしたのは反射だろう。
けれど、それを押し留める声がランスロットの足を止めさせた。
「陛下……もはや、王家との契約は破棄されております。
故に、クラーテールの守護は王家には届きませぬ。
城壁から一歩でも出れば、陛下と言えどクラーテールの守護の守りにより身の保証は致しかねます」
「守護……守護って……」
初めて聞いた、と言わんばかりの表情に内心で溜息をつくのは表に出さなければ大丈夫だろう。
確かに、ランスロットは三男で王家を出る事が決まっていたから余計な知識を受け付けたくなと言うのは慈悲だった。純粋なる厚意だった。
その代わり、知らないからこそ行われた事で今。
親子が兄弟が別離となる。
「お別れです、陛下。
我ら一族は王国を、陛下を愛しております。それを後の世に伝えましょう。
いずれ、この地に戻る者もあるかも知れませぬ」
「故に、ランスロット陛下。
我等は失われる、王国は大きく姿を変える。
恐らく、陛下への民の思いも。妃殿下への民の声も耳障りのする事もあるでしょう。
王と言う道に逃げ道はありませぬ、その周りにある者をいかに使うかが王たる者に課せられた使命。
御身に、その言動の一つ一つに民の人生が。この国の行く末が左右される事もあるでしょう。
建国より200年……祖王様と初代大公様との契約を破棄なされた責任を取られる決意を背負っていただく」
音も無く、扉は閉まって行く。
意外と早い。
すでに時間はないのだ、この王国を守り巡らされていた『魔導書』と言う「魔法」の様な力。
それらは王家ではなくクラーテール公爵家の持つ特別なものであり、仮に王家や他の家が望んだとしても得る事が出来ない「血に秘められた力」であり、基本的に契約を促す為のものでしかない。
学園に入る際、クラーテール公爵家は王家より命じられて入学する者達の潜在能力を引き出すと言う事を行われていた……すでに、クラーテールとの契約を打ち切られた者達は早くも常と異なる己の力に不思議な面持ちをしている事だろう。
契約が破棄された時点で、契約を行う前の実力となるだなどと思いも着かなかっただろう。
閉まり切る前に間に合わなかったランスロットは、扉の向こうでどうなっているだろう?
すでに「王国」と「トレミー」は切り離されて居るだろう、理解など出来ないが「そう言うもの」だと言われてしまえば受け入れるより他ない。
「参りましょう、我らは祖王様と初代大公様の契約を守り通す事が出来ませんでした。
我らに出来る事は、これよりトレミーに。大公様達にお仕えする事」
「出来れば……伝えたかった。
この王国は、本来は島だった事。トレミー及び初代クラーテール大公爵様のお力により、広大な大地に見せて本来の季節からも他国よりも守られていた事を」
「致し方ありませんわ、陛下……。
唯一、資格を持っていたランスロットが資格を失った以上は責任を取る事は王族として当然。
その担い手として、原因となった女にも矢面に立っていただく事は決して間違いではございません」
「……私は、もう王ではない。
これからは、一人の男に過ぎない」
「まあ、では何てお呼びしましょう?」
「そうだな……これから、ゆっくりと考えようか?」
ーーーーーーーーーー
とある小さな国の書庫には、こんな記述がある。
かつて、この国に大公と呼ばれた一族が存在していた頃は一年中を平坦で温暖な気候にあり。騎士や兵士と言った者がお飾りの役職とまで言われた時代があったと。
大地は広大で実りが多く、他国からの介入も無ければ大きな争いと言うものも無かったと言う。
その記述を見つけた者は「まるで御伽話だ」と口にしたそうだが、その真偽の程は定かではない。
ただ、城壁に囲まれた城があるだけの国では密かに広がる話となったと言う。
終り。
前述の通り、連載を止めてまで書けと脳内が騒がしかったので短編に切り替えたのですが、まあ欲求不満だったのか文字数が増えるのが止まりません。これでも二度書き直しましたがまだ長かったと思ってます。
連載したら何話になるのかな?
キーワードに婚約破棄を入れるかどうか迷いましたが除外しましたが、かと言って婚約していなかったと言うわけでもありません。その詳しい辺りは連載で…書いてる余裕あるかな?