あいつは何かと苦労している。
とまぁそんなこんなであいつの話は終わり。
これ以上あいつの噂をすると
「おっはよー!!おっ、今日も朝から御苦労だねぇマッシュボーイ!!」
いつものパターン…。
前にも言ったと思うけれど、あいつ朝6時から活動を開始する。
朝一番にやるのはこの挨拶。本殿の扉を思いきりあけて身を乗り出して叫んでくるから、とてもびっくりするし、ただでさえ壊れそうな扉がさらに悪化しそうである…。そもそも本殿で寝るってどういう神経してんだ…。
「あのさ…、マッシュボーイって何…?」
「イカしたネーミングじゃないか?お前の特徴をとらえたいいあだ名だよ!」
「大したあだ名じゃないだろ…もっとましなのなかったのか?」
「えー、だって俺、お前の名前しらねぇし…。」
あ、そだった。また忘れるところだった。
「聞きたかったらまずお前から言えよなー。」
「なんだよその喧嘩っぽいパターン…えっと、俺は九助、町田九助。」
「ふーん…。僕は高橋一郎。」
「ほぅほぅ、イッチー…うーん…よろしくな一郎!」
あ、あだ名諦めた。
まぁ昔からあだ名なんて、そうそうつけられなかったしな。
「というかまずそこから降りろよ…。」
「ん?」
「お前ここどこかわかってんだろうな…。」
「神社。本殿。」
「そうだ。」
「よしっ。」
「よしっじゃねーよっ!!」
僕は九助を本殿から引きずりおろした。
「おっとあぶね―なぁ…」
「あぶね―じゃねーだろこのチンピラヤローが!!」
「チンピラってひどい…」
「え、あ、えとごめん。」
「俺様の華麗な受け身で、けがはなかったから許そう!」
「え、あ、確かにきれいな受け身だったな。柔道でもやってた?」
「いや、体がなぜか覚えてた。」
「は?」
なんかの時代劇でよく見るような受け身だったなぁ…。
それを習ってもいないのに、体が覚えてたってどういうことだよ。
「んーとね、俺いちお東京から出てきた人間なのね。」
「どうしていきなりそんな話をしだしたんだよ…。」
「いや、ここから説明しねぇと理解しがたいと思ってよ。」
「はぁ…。」
とりあえずかなり複雑らしいな。長話は嫌いなんだが。
「で、ここに来た理由ってのが、記憶探しって言うのかね。」
「なんだそれ…?」
「なんかねー…ここの神社も昔来たとかじゃないんだけれども、いろいろ覚えてってさぁ…。見知らぬ記憶?っていうの?」
「夢でも見ていたんじゃないか?」
「だとしても、ここの情景が俺の頭にそのままインプットされてるんだぜ!?俺も驚きだよ!!」
「ふーん…。とりあえず、その見知らぬ記憶のせいで、さっきの自称:華麗な受け身 ができたわけか。」
「自称って…ま、そういうことだな。」
んー…話をまとめると
その1、あいつがなんかおしゃれなのは都会ものだったから
その2、よくわからないがあいつは見知らぬ記憶を持っている
その3、あいつがここに来た理由は記憶探しのため。
その4、あいつがここに住みついている理由は――――――
あ、そうだ。なんでここに住みついてんだよ。
「九助、お前なんでここに住み着いてんだよ。家とかあんだろ?」
「え、ないよ?」
「は?」
「だから、な・い・yグフッ」
一発腹に蹴りを入れておいた。
痛みにもがいて九助は下にうずくまった。
「家がないからここに住み着いてんのか…?」
「ゲホッ…まぁそんなに怒るなって…俺だって気付いたらここにいたわけなんだよ…。つまり記憶に流されるがままに来ちまったわけみたいでな…。」
「もといた家は…?」
「ダチとシェアしてたというかほぼ居候で。」
「ハァ…」
なんなんだよ…。こういう大人にならないように気をつけよう…。
「でもわかってるぜ…?ずっとここにはいられねぇのも……。」
そりゃわかってねぇと…なんか、え、すごいさびしい顔してやがる。
なんか…えっ…ごめん…。急にかわいそうになってきた…。
「……あのさ、ここに知り合いとかいないのか?」
「いない。」
「うーん…。あ、今まで飯とかどうしてたんだよ。」
「ここらへん木ばっかりだろ?それなりに実っているもん食ってた。」
「お前よく死ななかったな…!そんなんじゃ腹減るだろ!」
「へへっ、ここの神様に世話になってんだ。このくらいは…。」
うわぁ…苦労人臭が…。過酷すぎんだろおい…おいおいおいおい!!
「ん~あーもう!仕方ねぇ奴だな!俺の家にこい!もう!」
「!?」
「これ以上イライラさせんな!難しい話とかメソメソするもん嫌いなんだよ!というかこれ以上命にかかわることすんな馬鹿野郎!!」
「一郎………。」
九助は放心状態でこちらを見上げていた。
「とりあえず俺の家に来ること!そのかわりどっかで働け!ここじゃ小遣い程度しか金はいらないから、家の近くにコンビニとか商店街とかあるし、ここで働くにしても、もう1つ金たまるとこで働くこと!いいな!?」
「……………あ、ありがとう…!一郎ぉぉぉぉぉ!!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い!!!九助が感動のあまりかだきついてきた。
なんだかんだで、とりあえず神社に住むこともなくなったし、これにて一件落着っと。
あ、勢いにかまけすぎた。
落ち着くわけねーだろ。問題児家に連れ込んじゃったよ。
これからどうしよう………。