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ドキッ!気になるあの子は心臓の音がしない! その二

血と腐った肉のような臭いのする通学路を僕は歩く、世界がゾンビだらけになってから半年は経つがこの臭いには中々慣れない。寧ろ慣れたら晴れてゾンビの仲間入りになってしまいそうだ。

 それにしても今日も静かだ、朝だからというのもあるが……一番の原因は車が殆ど走っていないという理由に尽きる。

 となるとどうして走っていないかという話になるのだが、どうやらゾンビにはアクセルを踏むだけの脚力が無いのだ――と、いうより。アクセルの踏み方によっては腐ったゾンビの足は耐えきれず、ぐんにゃりと無惨な事になって事故が多発するので一般車は走行禁止となった。

 しかしそこは適応力の高い人間だ、ゾンビの身体に合わせた車の開発も近いうちにされるらしい。何しろまだ世界にゾンビウイルスがばら撒かれて半年くらいしか経っていないんだ、人間たちにもまだ慣れるための期間が必要になる……死体なのだが。

 そういうワケでゾンビ気のない通学路を歩いていると、十字路の付近で見知った薄水色の顔が見えた。


「あっ……間枝まえだくん」


 透き通るような可愛らしい声の主に手を振るって挨拶を返す、ゾンビになっても声帯はそのままで本当によかった。


「今朝は早いんだね?」

「ああ……ちょっと、気まぐれで」


 彼女は樹下鈴鹿きのしたすずか、近所に住む幼馴染である。学園指定の制服に規則通りの長いスカートを穿き、短めの髪の毛を揺らして僕の隣を歩く数少ない大事な友人の一人。敢えて付け加えるとするのなら彼女もゾンビであるという事だな。


「樹下こそ早いじゃないか、何かあったの?」

「私はほら、日直だから……ね?」


 ああ……と声を漏らして納得する。そんな他愛もない話をしつつ、樹下に歩幅を合わせながら通学路を歩く……。

 余談だが、ゾンビになってもキョンシーみたいに関節が曲がらなくなって歩行が難しくなったり、なんて事にはなっていないらしい。現にこうして、男の僕よりは歩幅は短いものの普通の人間の様に足を動かしている。肉が腐っている為、走ったりなど過度な運動をするとすぐ身体が物理的にダメになってしまうらしいが……。


「それでさ間枝くん、聞いた?ラークン病院の院長の話」

「ん……いや、何?」


 ラークン病院とはこの街に存在する大きな総合病院の事だ。人々がゾンビと化してしまった頃はあの病院もてんやわんやだったのかもしれないが、今となってはお世話になるのは僕くらいの物だろう。

 なにしろゾンビは怪我の治療が必要ない――いや、元々怪我をしているからというワケではなくだ。身体は青白く、肉も腐っているゾンビだが怪我だけは出来ないのだ。いつだったかゾンビ化した樹下がカッターで指を切った事があったが、数分もしない内に傷が癒えていた。正直度胆を抜かれたが……ゲームか何かで回復魔法を掛けられたらこんな感じなんだろうなぁ……と無理矢理納得したのも今は懐かしい。

 他にもよく転んで足がもげてしまうゾンビもよく見るが、その場合一時間ほど断面にもげた部分の足をくっ付けていればいつの間にか治っているとの事。ゾンビには常時回復魔法がかかっているようだ。

 当然怪我もしなければ病気もしない、見た事は無いが車などに轢かれて身体がバラバラになったとしても簡単にくっ付いてしまうのだろう。そんなご時世に病院なんかが必要になるわけもない、必要だとしたらゾンビ化を免れた動物の為の病院くらいだろうか。


「そこの院長ね、なんか私達ゾンビを人間に戻す研究をしてるだとか……逆にゾンビを拉致して解剖とかして研究してるだとか……実はオカマだとか、色んな噂が立ってるらしいの」

「へぇ……」


 どうせ若者が散布した根も葉もない噂だろうけど、同じ若者である僕にはそんな噂話も楽しく会話する為の話のタネに成りうる。個人的にもゾンビから人間に戻してくれる研究とやらが本当ならば協力を惜しまないだろうし。


「そういえばさ……」


 ふと、僕は気になった事を口に出す。


「樹下は――ゾンビになった事とか、後悔してないの?」


 流石に他人事過ぎる物言いだと口にしてから気付いた。ゾンビになってしまった当事者からしたらデリケートな問題だったと逆に自分が後悔していた。

 つばを飲み込むようにして相手の返答を待っていると。


「……間枝くんが変わらず仲良くしてくれるし、全然?」


 おおっと天使だった。

 ゾンビ化により脳が腐ったと云う点もあるが、元々樹下鈴鹿は能天気な子だ。ゾンビになってしまった事も単なるちょっとした環境の変化くらいの認識なのだろう。考えてみればこの半年、ゾンビになってしまって憂鬱だとか、人間である僕の事を羨んだりだとかそういう事は一切無かった。彼女は今の現状を受け入れて楽しんでいる。


「あっ、それはそうと聞いて聞いて?実は昨夜始めてピアス付けてみたの!でも私ピアス全然似合わなくって!仕方なく外したんだけど……ほら!ピアスの穴見えないでしょ!すぐ治っちゃったからもう穴無いの!」


 嬉々としてピアスデビュー失敗の話を振ってくる、楽しみ過ぎじゃないかな……。

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