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始まりはいつだって

作者:

休日にたまたま君を見かけた。


僕はまだこの想いを伝えられずにいるけれど、

できるものならこのまま胸にしまって忘れたい。


好きな作家の新作の発売日で、明日が誕生日。

だから自分へのご褒美に買いに行く最中だった。


珍しく明るい服装の君はいつもと違った

表情で隣を歩く背の高い青年を見上げている。


僕と歩く君は、少し後ろについてきて微笑むけど。

今彼と歩く君は、横に並んで笑いあって、楽しげで。


僕は人混みに消える君の後ろ姿を、

声も出せずただただ見送るだけだった。


そうだよ。いつまでも夢を見てちゃいけない。


そう思うと虚しくなって、

本屋には行かず家路についた。


明日学校で会うのが少し憂鬱で、

今夜はなかなか寝つけなかった。


手元の携帯をなんともなしに見つめる。


昼間に見た笑顔が眩しくて、

たまらず目をきつく閉じた時、

手のひらが小さく震えた。


反射的に開いたメールには


「今から会えますか?」


たったそれだけの文面。


あれ、誰かと約束してたかな?


そう思って差し出し人をみると、

赤外線でもらったままの登録名。


駒井 佳織。


……あぁ、なんだ夢か。

いつの間に寝ちゃったんだろう。


ぼんやりとした頭でそこまで考えた時、


「忙しかったらいいの、ごめんなさい」


と書かれた2通目が視界に入って、

気が付くと携帯を耳に押し当てて

部屋着のまま家を飛び出していた。







休日にたまたまあなたを見かけた。


私はまだこの想いを伝えられずにいるけれど

もうこのままでいるのには耐えれそうにない。


気合いを入れようと思って、

柄にもなくお洒落をしたりして。


仲の良い兄に手伝いを頼んであなたの

誕生日プレゼントを選びに行く道中のことだった。


お調子者の兄にからかわれて

たわいもないじゃれあいをして、

兄を見上げた時に視界の端に映り込んだ。


あなたとの静かな空間は私のお気に入りの瞬間で

こんな世間話なしでも成り立つ関係が心地よかった。


どうしよう。まだプレゼント買ってないのに。


気取った服装が気恥ずかしくて

ついつい気付いていないふりをしてしまった。


後悔はすぐに来て、

昼間買ったあなたの好きな作家の本を

何度も包装紙を無駄にして包み終えた時、

明日学校で会うまでとても待てなくなった。


散々迷って時間をかけて、

やっと送れたメールはあまりにも素っ気なくて、


「今から会えますか?」


送信完了と表示されて、

待ち受け画面の時計を見ると

もう日付が変わりそうだった。


彼は寝るのが早いから、慌てて


「忙しかったらいいの、ごめんなさい」


と2通目を送った。


こんなメールなら迷わず打てるのに。


さっきから心臓がうるさい。

それを打ち消してくれたのは

手のひらで流れたカントリーロード。


画面にはけして誰にも見せられない、


あの人


とだけ書かれた登録名。


それがあなたからの着信だと気付いた時には、

包装紙を胸に抱えて、兄が頑張れよと言いながら

買ってくれたブーツに少しも迷わず足を通していた。

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