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第七十一話

 当真瞳呼の『絶槍』によって電撃はことごとく無効化され、その一方で当真瞳呼の"槍"──『死化粧』と『絶槍』──によって成田は徐々に追い詰められていく。そんな圧倒的不利の中、成田は『リニアステップ(機動力)』を軸に食い下がるが、『絶槍』の攻撃無効化能力によって積極的になった当真瞳呼の攻勢の前には遅かれ早かれの違いはあれど、結果を覆すには至らない。


「さすが現序列一位ね。私が本気を出してここまで戦えるなんてそういないわよ。というより『絶槍』をここまで食らってまだ立てるなんて末恐ろしさまで感じる。だからこそ、誘い甲斐もあるのだけれど……」


 成田を称賛する当真瞳呼。その言葉に嘘や皮肉といったニュアンスはなく本心を口にしているのがわかる。『絶槍』は当真瞳子の『殺刃(能力)』と同じくその殺意の槍は対象の精神力次第で実体を殺傷できる。成田が満身創痍ながらも五体満足で辛うじて立っていられるのも『絶槍』に抗しえたという事である。


 だが、当真瞳呼の目的は成田の確保にある。自ら重い腰を上げるほど認めているからこそ、殺意の槍で肉体が死に至る事も、精神が壊れる事もないと初めから計算ずくのはずだ。その想定外の()()さに驚きと称賛はあるが、ただ、それだけの話でしかない。


「──くっ、くく」


 突如、成田の肩が震え、かすれがちながらもその声に笑みを添える。『絶槍』による精神的ダメージがそうさせるのか、それは今までの様な偽悪に満ちたものではなく、熱に浮かされた無防備な感情──見方を変えれば、ほんの少し手で押しただけで崩れそうな状態だった。


「あまり動かない方がいいわ。というより、なぜ動けるのか不思議なくらいだもの大人しく寝てなさい」


 当真瞳呼も同じ見立てか、すでに『絶槍』の展開を解除し、『死化粧』もその穂先はもはや成田の方を向いていなかった(『死化粧』に関して言えば、成田を罠のある場所へ誘導する程度にしか、そもそも使っていなかったが)。当真瞳呼のいたわり(と言っていいものか迷うが)の言葉に笑いどころを見つけたのか成田の笑い声は一層強くなる。もはや正気かどうかすら俯き、手を覆った顔からは読み取れない。その様子に比例して私や当真瞳呼の不審も同様に大きくなっていく。


「──いや、なに、少しの間()()()()ら、いい夢が見られてねぇ。気分がいいんだ」


 しばらく続いた笑いをどうにか抑え、顔を上げる成田。その目には薄暗い講堂の中にあって唯一無二を示す輝き。輝きは全身に行き渡り、包み込む。生徒会室で平井相手に見せた能力、『紫電装』だ。


「ならそのまま寝ててもよかったのよ」


 『紫電装』が放つ光に目を細めながら、諭すように降伏を進める当真瞳呼。私や平井が格闘戦主体なのとは違い、『絶槍』という遠距離攻撃と異能無効化を同時に実行できる手段がある。後の"説得"がこじれない為にこれ以上の交戦は望まないと匂わせているが、それはつまり、成田の復活を脅威と感じていないという事だった。


「そういうわけにもいくかよ。こんな大事な時に役に立てなきゃ、それこそウソだろが!」


「本当に一途ね。好ましいけど、その対象を間違えてないかしら? ──()()()()とやらにそれだけの価値があるの? ()()()()()()()()()()()──」


「──誰に従うかは自分(てめぇ)で決める。部外者にどうこういわれる筋合いなんてねーよ。まして、()()()()をあれ呼ばわりしたんだ、あたしの中ではその時点で論外──あそこにいる飛鳥(足手まとい)と組んだ方が億倍もマシじゃ、このボォケが!」


 ──あの口汚さはなんとかならないものか。そう思いつつも不思議と悪い気はしない自分がいる。何一つ状況は好転していないが、成田の言う"足手まとい"でも出来る事が──いざとなれば、成田をここから逃がす手伝いくらいなら──ある気もする。


「──本当につれない。私としてはもう少し真摯なやり取りを望みたいのだけれど」


「何が、"真摯"だよ。"出来損ない"なんて()()()()奴とこそこそ動いているてめぇが言えた義理かよ。……()()ならあたしをどうにか出来るってんだろ? まさか、気づかれないとでも思ったんか?」


「……」


 図星を指されてか、当真瞳呼が初めて無言になる。表向きにはにこやかに困った子を見るようなフリをしているが、そんな体裁で誤魔化されるほど成田は甘くない。再び見せる皮肉混じりの視線を浴びせながら、なおも()撃は続く。


「ていうか、逆に気づいてねぇだろ。あたしが『紫電装』を出してからいったい何分経ったろうなぁ」


 その言葉の真意を真っ先に悟ったのはやはり同じ異能者である当真瞳呼だった。続いて、月ケ丘清臣。私は彼らの()()()()を見てどうにか気づく。


「──『紫電装』の大げさな光は"それ"を隠す為だったのね」


 "それ"は一度気づいてしまえばもう見逃しようがないほどはっきりと見える光の線。『紫電装』を纏った際、抜け目なく伸ばしていったそれらは座席や段差の間を伝い、巧妙に観客となった私達の視線から逃れていた。特に目の前にいる当真瞳呼は講堂の薄暗さと『紫電装』の光量との明暗で見逃しやすかっただろう。


 光の線はあるものと成田を繋ぐ()()()の役割、その先あるものとは、講堂の至るところにあるコンセントだ。


「──コンセントから電気を吸収しているのか?」


 おそらく電子を遠隔操作する事でコンセントに干渉したのだろう。空気が絶縁だといっても放電自体は不可能ではないし、通電できるのなら学園の施設から取り込むのも成田の理屈で言うならば"出来る"のだろう──呼び水となる何らかの導体プラグなしで離れた位置にあるコンセントから電気(エネルギー)を引き込む、などと素直に納得するのは難しいが。


 とはいえ、私が納得しようがしまいが、"出来る"事には違いない。結局、異能者本人ではないので"そうかもしれない"としか言えない。月ケ丘清臣に倣うなら、既存の科学、既知の現象でどうにか理屈づけて、どうにか言語化したというところだろう。


「──本当に成田は"出来損ない"か? あんな規格外な真似、他の誰も出来ないと思うのだが」


「言ったはずだ。自然の一欠片である以上、理の内でしかない。多少、小器用に操れようと当真瞳呼には──"本物"には届かない」


 そう答える月ケ丘清臣だが、負け惜しみに聞こえるのは私だけだろうか? 主観か客観か、感想を確認しようにも他には『シャドウエッジ』の二人しか近くにおらず、その死人めいた様子からは答えも共感も得られそうになかった。


「──たしかに空がなけりゃ、雷を落とすのは無理だ。あたしの能力は開けた場所の方が力を発揮できるのも間違いじゃあない。だがよぉ、カロリーを電気に変換できるなら、その逆ができるかもしれない。それくらい想像できねぇか?」


「つまり、『紫電装』を展開してからの今までの会話は──」


()()の為の時間稼ぎだよ、この年増! あたしが負けたまま引き下がる性格なわけあるか! ──そう、あたしは誰にも負けない。要芽にも、ハルとカナにも、当真瞳子やその他の女どもにも、何より()()()()を傷つけようとするてめぇには──特別にあたしが手ずから焦がしてやるよ!」


「──しか離れていないのに年増は酷いじゃない。……『絶槍』で止まってくれないなら、もう少し痛い目を見てもらうわね」


 やれやれと嘆息しながら『死化粧』を構える当真瞳呼。『絶槍』を新たに生成していないものの、その構えは成田の戦闘続行を受け、穏便な対応を放棄していた。

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