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第六十三話



      *



「──今ので最後ね」


 自らの分身である『紅化粧(愛刀)』から伝わる手ごたえが戦闘の終了を告げる。遭遇した時点で向こうの頭数は十三。そして返り討ちにした数も斬り伏せたばかりの刺客()とを足して同じく十三──どうやら討ち漏らしはないようだ。


「瞳子ちゃん、まさか殺した──わけじゃなさそうだね」


 足元から聞こえるうめき声で理解したらしく、明らかに安堵したと振る舞ってみせるのは高校からの友人である篠崎空也。


 私の名前を"とうこ"ではなく、"とおこ"と独特のイントネーション呼ぶところが唯一の不満だが、それ以外は能力や性格、修羅場での度胸、私のやろうとする事への付き合いの良さを含めて得難い存在である。


「──殺っちゃうと後でいろいろうるさく言われるんだよねぇ。処理に手がかかるっていうかさ」


 ──本当に私好みの性格だ。面倒臭い倫理観をいちいち持ち出さないあたりは特に。


「こいつらは『皇帝』の差し金か?」


 気の弱い人間ならそれだけで身をすくませそうな硬質の声は、空也と同じく高校からの友人にして厄介事に平然と付き合う変わり者、刀山剣太郎のもの。時折度が過ぎるほどのマイペースさに空也と違った手強さを感じつつも、こちらも私がうまく人間関係を築ける数少ない逸材だ。


「ううん、むしろ『皇帝』の確保に差し向けられたって方でしょうね」


「意外に苦労してるんだね。全くそう見えないけどさ」


 月ケ丘家当主(『皇帝』)と月ケ丘本家との確執をわずかなやり取りで察する空也。その反応の度合いがなんとも所帯じみていて、内心で少々萎える。


「(一応、話す相手によっては町一つを揺るがすスキャンダルのはずなんだけど……)」


「その手合いがこの程度ならお家騒動がいくら起きても問題ないだろう。で? どうする瞳子。このまま『皇帝』を追うか、それとも──」


 空也と同様、月ケ丘の下克上に興味のない剣太郎が現実的な提案を求める。


「そうねぇ。たしかに睛さ──当真睛明から聞いていた話と違いすぎる。発現した異能も()()()()()()()()()()()。けれど──」


 そう、けれど、だ。問題ないと断じる事への違和感がどうしても拭えない。それは言い出しっぺである剣太郎ですら"それとも"と、もう一つ別の選択肢を上げようとしたのと同じ。いくらなんでも歯ごたえがなさすぎるのだ。


「月ケ丘の『新世代(研究成果)』がこの程度だとはどうしても思えないのよ。切り札なのか、それとも鬼札か、事を起こすに足りる成果があるはず」


 何より当真瞳呼(あの女)がこの程度の手駒で満足するような者を協力者にするなんてありえない。こんな事なら当真睛明(睛さん)に月ケ丘方面の話を聞いておけばよかったと悔いが残る。せめて逆崎くんと早めに合流できていれば情報交換ができたものを。しかし、今更言っても詮無い話。こちらはこちらで手一杯だったのだから。


「──事の発端を抑えましょう。ハルとカナじゃなくて、そこのつまらない連中を使って水を差しにきた方をね。『皇帝』も遠からずそちらを目指すはず。なら移動している後者より、このどこかにいるであろう黒幕──この場合、月ケ丘清臣の居場所へ向かう方が効率はいいでしょう」


 質はともかく、『新世代』は月ケ丘が携わった研究の成果。それを投入している以上、実戦投入のデータを収集する為に月ケ丘清臣もここに来ているのは間違いない。その月ケ丘清臣を確保できれば、当真瞳呼(あの女)が介入している証拠につながる。最低でも学園に月ケ丘を動員した手筈の痕跡でも見つかれば糾弾する事はできる。


「でも、どうやって探す気さ? 優之助に探してもらうのかい」


「いるじゃない。知っていそうなのが」


 目を向けるとそこら中で倒された『新世代』の面々。それだけでなるほど、と感心する空也と剣太郎。無論、私を止める様子はない──本当に話が早くて助かる。


「これだけいれば手加減はいらないわね。替えもきくし気楽にいける」


 とりあえず最後に倒した『新世代』の腹部を足で()()()みる。腹筋の感触からそこそこ鍛えられた女──年は私達と同じくらいの刈り込まれた短髪──で陸上か何かに打ち込んでいそうなタイプ。襲撃なんて後ろ暗い事をしそうに見えない。


「(まぁ、どうでもいいけど)」


 ほんの少しつま先に力を込めると見た目とは裏腹にきれいなソプラノで歌う。


「それだけ声が出るなら問題ないわね。その調子で、とっとと居場所を話してもらえないかしら。気絶して(寝て)ないなら私達の会話は聞こえてたでしょう?」


 結論から言って、『新世代』の女に口を割らせるのはそう時間はかからなかった。

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