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第六十話



      *



「──そろそろいいか? ()()()()


 "この前の決着"とやらがひと段落したのを確かめ、満を持して口を開く。そんな俺に対して不思議そうな顔をするのは因縁の当事者である逆崎縁と創家操兵。二人の表情から見て取れる困惑の色は昼の強い日差しを遮るほどの木々の下にあっても嫌味なほどはっきりとわかる。


「何が? って顔するなよ。お前ら二人の中で把握している事、全部話してもらうって言ってんだ」


 そこまで言って、逆崎と『ドッペルゲンガー(創家)』は、ああそういえば、と納得する。そのリアクションに少々イラッとするものはあるが、わかってもらえて幸いだ。


「言っておくが、つまらないボケはいらんからな。一連の騒動の肝がどこにあるのか、それを教えてくれればいい」


「意外だな。てっきり妹達の事しか頭にないと思ってたぞ」


 言葉だけではなく、俺を見る逆崎の目は珍しげに光る。本当に失礼な話だが、ここへ来た事情が事情なので、あまり強く抗弁できない。しかし──


「──たしかに、この学園に入学した理由の大半は、二年間没交渉だったハルとカナに会う為だったさ。だが、ただそれだけでこの学園にいるわけじゃない」


 逆崎が勘違いしているようなので説明すると、当初の目的は瞳子と戦った後の保健室で二人に再会した時点で達成している。


 それで万事解決とはいかないが、二人に俺の話を聞いてもらえる余地があるとわかれば充分。後は家族間で腰を落ち着けて話し合うべき事であって(その前から家族間の問題といわれれば、返す言葉もないし、瞳子のお膳立てである事は否定しない)、ひとまずの問題は解決している。なので、春休み以降に関しては瞳子と交した契約の為に残っている。


 魅力的な報酬の額は当然の事、ハルとカナと顔を合わせるのを密かに期待しているのも本心だ。しかし、この学園に残った最大の理由は、回りくどい上にもののついでではあったとはいえ、妹達と向き合うチャンスをくれた瞳子への義理があったからだ。それがなければ、もしかすると金額を積まれても残っていたかは怪しい(瞳子に振り回されるという事はそれだけ悩ましい)。過去の事例が頭をよぎり、人知れず幻痛が走る。


「この騒動の肝ねぇ──そういえば知っているか、御村。異能が願いによって形作られているって話を。俺はまるまる信じちゃいないが、それでもそういう説が全くない訳じゃない。物心つく最古の記憶で何となく、頭のなかで響いた言葉──光より速く。それが、どうして短距離テレポート(アレ)になっちまうのか、不思議な話だがな」


 ふむ、と訳知り顔で自らのルーツを話してみせる逆崎。俺が口にした話の肝(フレーズ)に思うところがあったようだが、いささか脱線している気がする。


「いったい何の話をしている。俺は──」


「落ち着け、『優しい手』。それがお前の言う肝というやつだ。『スロウハンド』は別にはぐらかしているわけじゃない。物には順序というものがある、最後まで聞いておけ」


「悪いな、『ドッペルゲンガー』──つまりそういうわけだ。お前が()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今のお前には興味が薄いであろうこの話題を真剣に考察する集団は大なり小なり時宮には存在している。もちろん、隣の月ケ丘にも、な」


「その大なり小なりのうち、大の方──本格的な研究をしようと真っ先に動き出したのは異能者に関する知識量としては新参であった月ケ丘家。つまり自らが当主を務める『皇帝』の実家だ。その現当主が抑えきれないほどの野心と研究欲にかられた連中が当真瞳呼と秘密裏に手を結び、この学園に来ている。その人物というのが──」



「──月ケ丘清臣?」


 創家の口が紡ぎ出す聞きなれない人名を思わず呟く。おうむ返しに自ら音にしてみても、記憶に全く引っ掛かってこない。


「月ケ丘家の本家筋で異能研究の主任研究員だ」


 そんな俺を見かねてか、逆崎が助け舟とばかりに注釈が入る。


「詳しいな、逆崎」


高原(ここ)への生活の準備している間、ついでに調査するよう頼まれたんだ。当真晴明経由でな」


「そいつがその黒幕だっていうのか?」


「そうだ。当真瞳呼の共犯であると同時に、月ケ丘側──むしろ、事の発端を担っている。そして、当然、()()月ケ丘は今ここにある事態に関わっている」


 当真睛明(瞳子の協力者)のもとで情報収集をしていた分、俺とは比べ物にならないほど事の背景に詳しい逆崎の解説は一切の澱みがない。剣太郎の後輩(赤谷)達の時といい、役に立っていない自分の立場を嫌でも自覚させられて内臓が痛みと苦みで異様に沁みる。


「俺が聞いた計画によると連中は講堂で身を隠し、いざとなれば、生徒会解任要求の手助けをする為に動き出す算段らしい」


 人知れずコンプレックスを刺激される俺の心境などお構いなしに逆崎から解説を引き継いだ創家があっさりと月ケ丘清臣の居場所をバラす。まぁ、それどころではないのはわかっているので構わないし、ありがたいのだが、その遠慮のなさに苦笑を抑えきれない。


「──帝はともかく、何しに来たんだ? 月ヶ丘清臣(そいつ)


「当真瞳呼に向けての骨折り──つまり、手を貸すという証明の為だよ。そして月ケ丘清臣本人の事情からだ」


「それは?」


「一つは月ケ丘帝──現当主になにかをするつもりだろう。もう一つは月ヶ丘家が生み出した後天的異能者、通称『新世代』のお披露目を兼ねた実戦投入のテストを観察する為だ。そして俺は──」


 創家との会話が途切れ、不自然な間が生じる。不意に区切りを入れた創家のその苦み走った表情を見るに、そこから先はよほど創家にとって嫌な部分に触れる中身らしい。


 だが、それは躊躇ではなく、その身に宿る怒りが言葉を失わせたからだ。ややあって、再び創家の口が開く。己が核心と覚悟を語る為に。


「──そして俺は、連中から奪われたものを取り返すのが目的でここにいる。『新世代』を生成する過程で暴かれた『ドッペルゲンガー』の研究データ。それを『新世代(研究成果)』もろとも破棄し、自分(・・)を取り戻す。どんな手段を使ってでも!」

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