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第五十八話

「まさか、こうもあっさり姿をあらわすとはな」


 成田を前に芯の部分が身構えるのを自覚しながら表面では平静を装い対峙する。そんな私の内心を知ってか知らずか──むしろ、それこそが彼女の素なのか──品定めするような成田の視線は常に見下し、なぶる。それは私だけではなく顔見知りどころか、味方であるはずの平井に対しても等しく。


「人聞きが悪いねぇ。まるであたしが逃げ隠れしたみたいじゃん」


「生徒会がこの一週間、しらみつぶしにお前を探していたんだ。それで見つからないなら逃げ隠れしたも同然だと思うが?」


「──なにタメ口でお前呼ばわりしてんだよ。()()なら敬語使えよ、け、い、ご」


「あなたが言えた義理ですか、稲──」


 それは一瞬の出来事。呆れの混じる台詞を塗りつぶすほど高く弾ける音と共に、平井の座っていた空間が()()()。成田の"雷を操る異能"だ。


 ここから成田まで腰掛け四列分は離れた場所から正確かつ予備動作なし(ノーモーション)で発現した雷光。私が『飛燕脚』を用いても回避できるか疑わしい攻撃を、しかし平井はその身を一つ横の席へ退避する事で苦もなくかわす。それは成田の性格を熟知しての事か、それとも何か()()()があるのか──今更だが平井要芽、まったくもって油断ならない。それは成田のいまいましげな顔も物語っている。


「──平井が裏切り者というのはどういう意味だ?」


 いつ成田が再び攻撃するかわからない弛緩した空気のまま数分、話が進まないのを危惧した私は意を決して成田に質問する。しかし、天邪鬼と評するすら生ぬるい性格の悪さの成田が素直に話すわけはなく──


「は? それがわかってるから(ボコ)りに来たんじゃねぇの? そっか、さっき証拠がどうのこうの言ってたもんなぁ──バカかよ、こいつ以外にそれらしい奴がいるわけないじゃん。とっとと捕まえて吐かせりゃ一発だってのにぬる過ぎか、生徒会(てめぇんとこ)


 ──このような感じでまともな会話にならない。ただ、成田の言う事を鵜呑みにするなら平井が生徒会の意図するものとは別に動いている──裏切っているかはさておき──のは間違いないのだろう。


 成田の信用云々というより、彼女の()()が隠すまでもない事実だという態度と、私の勘に従って、ではあるが。どこまでいっても根拠は薄弱でしかないが、成田に言われるまでもなく、明確な証拠などどうでもいい。成田への質問を諦め(半ば、わかりきった事ではあったが)、平井に改めて向き直る。


「平井、なぜ生徒会を襲った──いや、襲わせた?」


 おそらく、これも愚問だろう。平井要芽にとって、生徒会はただ所属しているだけで思い入れはない。聞くべきは"どうして優之助と敵対する側についたのか?"その理由だ。


 平井が本当の意味で優之助の敵に回る可能性が皆無なのはもはや疑いようがない。成田の言を鵜呑みにすると仮定してさえ、裏切りという単語をさておいたのはその為だ。だとするなら、私や会長が知らない事情があるはず。それを知ってどうするかは聞いてからになるだろうが。


「そりゃ、あたしが電撃を操れるからじゃね?」


 ──それは手段に対しての理由であって動機ではない。言うまでもなく、成田はただ私を茶化しただけなので相手にする気はない。しかし、本来の質問対象である平井は変わらず手元を動かすだけで目ぼしい反応はなく、聞いているかすら疑わしい。


「──ま、どうでもいいんだけどさ」


 そう言ったのは私ではなく、成田だ。また何かふざける気なのか? さすがに非難するのを止められなくなり、そちらを向くと、成田の全身が薄暗がりの中で光を放っている──どのような感情が渦巻いているのか一目でわかるほど、激しく。


「知らなかった──なんて言わないよなぁ? 先輩が向こうについてるってさぁ。──どうしてくれんだよ? 先輩に知られたら、嫌われちゃうじゃん!」


「──やはりこうなりましたか」


 さほど驚きもなく平井。物理的にも状況的にもきな臭い中で、私の時と同じくよどみのない手つきで読みかけの文庫本に栞を挟み、邪魔にならないよう席の端に避難させている。その冷静さはヘラヘラとした嘲りから一転して、よくわからない激高を見せる成田とは対照的に映る。


「あなたはどうしますか桐条さん?」


「──どうする、とは?」


「あなたも成田(彼女)と同じように私を拘束するように動くか、それとも、何もせずここから離れるか──そういう意味です」


「どこの誰が拘束なんてタルい真似なんぞするかよ。二目と見れないほど焼いて、先輩の前に出れないようにしてやるよ、要芽ぇぇぇ!」


 『紫電装』。以前、対峙した時と同じく、触れられないほどの強力な電撃を身に纏い、平井へと突進する成田。私はいったいどうすべきだろうか──この状況下でぬるいとすら思える悩みを抱えながら、その体は二人の元へと駆けていた。

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