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第五十五話

「──よう、()()()()世話になったな」


「あぁ、こちらこそ。()()()()無粋な真似ですまなかった」


「(すっかり蚊帳の外だな)」


 ほんの数分前にはなかった疎外感をひしひしと身に受けつつ──ついでに盛り上がった戦意(テンション)もだだ下がりになりながら──二人のやり取りを見守る。


「"あの女"はどうした? 来ているはずだろ」


「さてな。正直、何を考えているか皆目見当がつかん。俺はあくまで前座に過ぎない──いや、どちらかと言えば、間に合わなかった時の繋ぎ兼、賑やかしといったところか」


「そうか──まぁいいさ。"あの女"に思うところはあるが、別の奴に任せるのがいいようだ」


 と、そこで意味がありげにこちらを見る逆崎。思い当たる節があるのか、『ドッペルゲンガー』の目にも同様に理解の光が見て取れる。訳知り顔を二つ並べられた俺は困惑するが、こちらが口を開く前にお互いの方へ向き直ってしまい、聞けずじまいになる。いや、説明しろよ。


「さて、そろそろいいか──時宮高校元序列十一位、『過程を置き去りにする(スロウ・ハンド)手』逆崎縁だ」


「月ケ丘高校元序列四位、『多重幻肢ドッペルゲンガー』創家操兵」


 おそらくそれは二人が言うところの"この前"の仕切り直し。そこで二人の会話は途切れ、一週間前の続きが始まり──そして、決着する。


「――(シャア)!」


 先手は『ドッペルゲンガー』。『蜘蛛足』のつま先が鋭角に尖り、逆崎を襲う。対する逆崎は両の拳をあごの前に置き、何の変哲もないファイティングポーズを構えて相対する。そして何の変哲もないモーションのジャブを『ドッペルゲンガー』に()()()()()()()()放つ。


 パン! と弾けるような音は『蜘蛛足』のふくらはぎ辺りから。『ドッペルゲンガー』に届かないとは言ったが、両者が戦う以上、お互い近付かないわけにはいかない。そして、『蜘蛛足』は本体よりいち早く入っていた、逆崎の射程である180m弱──逆崎の身長と同じ──圏内に。


 『スロウハンド』の異能は『因果の逆転』。巷で噂されるような運命操作能力──()()()()。そんな能力があるのなら、十一位どころか、ぶっちぎりで一位だろう。その正体、というかトリック(駆け引き)のタネは瞬間移動(テレポート)──それも自分の身長が最大射程の極短距離テレポートだ。


 射程は身長と同程度という瞬間移動能力としては明らかな欠点があるものの、触れていれば他者にも作用できる上、連続使用も可能という意外に広い応用範囲を最大限活用する事で序列持ちの中でも屈指の近接戦闘力を誇る異能者。それが時宮高校元序列十一位、『スロウハンド』逆崎縁だ。


「『スロウハンド』!」


 代名詞にもなった"ノーモーションの拳"が『ドッペルゲンガー』の『蜘蛛足』を次々と撃ち落とす。使用者当人のみ可能な体の一部分を任意の位置に転移できる部分テレポート(もちろん射程は据え置き)による攻撃を回避するのは難しい。思いのほか脆く、本体からぽろぽろと崩れ去る『蜘蛛足』。間を置かず、追撃せんと逆崎は異能(テレポート)で距離を詰める。近接戦闘において、射程の短さはさしたるデメリットにはならず、たやすく絶好の位置へ。


「これで、貸し借りなしだ」


 逆崎の拳が掻き消える。スピードで手元が見えないのではなく、部分テレポートの連続使用によってだろう。その間、打ち据える音が断続的に響き、『ドッペルゲンガー』の体が前後左右に揺れる──『スロウハンド』による無呼吸連撃『見えない弾幕(インビジブルブリット)』。


「──あぁ、お前の勝ちだ」


 膝から倒れ、戦闘不能を認める『ドッペルゲンガー』。身代わりで防ぐ事ができなかったのか、それとも身代わりを作る()()()()()()()のか、今度こそ指一本動かすのも無理らしい。寝心地の悪い地面の上でのうつ伏せは少々苦しそうだ。


「いやいや、違うだろ」


 負けを認める『ドッペルゲンガー』を仰向けにしてながら逆崎が否定する。何がどう違うのか? 困惑する『ドッペルゲンガー』を諭すように続ける。


「この前のは横槍で負けて、今日のは御村にさんざん削らせた後でのおこぼれで勝った。これで()()貸し借りなしで戦れるって意味だよ──気づかないとでも思ったか? 見た目と違って手ごたえがスカスカだったぞ」


 言われてみれば、崩れ落ちた『蜘蛛足』の音は『猿の手』を自切した時より軽く響き、わずかに覗く中身(断面)は、まるでレンコンみたいにところどころ空白があった気がする。


 そういうものだとさほど気にも留めていなかったが、逆崎の言う通りだとすれば、俺の一撃はそれなりに通っていたらしい。


「──次は負けないぞ? 『スロウハンド』」


 呆れ半分、感心半分の表情で逆崎を見る『ドッペルゲンガー』。しばらくして、絞り出した一言に、それだよ、といわんばかりに逆崎は指をさした。


 ──現在、十二時四十三分。


 当真側

 

 当真瞳子、篠崎空也、刀山剣太郎──『皇帝』を追跡中。

 

 御村優之助、逆崎縁──『ドッペルゲンガー』に勝利。


 月ケ丘側


 月ケ丘帝──ロイヤルガードと共に戦闘離脱。


 王崎国彦──『空駆ける足』によって、戦場から強制離脱。


 創家操兵──『優しい手』、『スロウハンド』に敗退。


 海東遥、彼方──???

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