世界の深い淵で
今日懐かしい夢を見た。
1998年の夏
母親の実家がある山形の海での体験。
当時中学生だった私は一日中海に潜って遊んでいた。
海の中は原色の世界
音は形を失い、冷たい水が自分の精神は世界から隔てられていることを痛感させた。
何度も何度も海の中に潜っていると、海底に真っ赤な宝石を付けた指輪があることに気付いた。
今まで見たどんな石よりも綺麗な赤い宝石が眠ってる。
私は海の底のそれに触れたい思いで何度も潜った。
海上に浮かび上がるときも指輪を見失わないようにしていた。
しかし何度挑戦しても指輪に届くことはなかった。
赤い指輪を諦めようと思った。
最後の力を振り絞り潜ったが指輪には手が届かなかった。
無情にも浮かび上がる途中、あることに気が付いた。
海面が真っ赤にそまっていたのだ。
いつの間にか太陽が沈みかけていたのだ。
驚くべきは見事なその色。
水面で乱反射した光の美しさは言葉では言い表せない。
海から上がると太陽が海に溶けていく所だった。
そんな中私はあまりにも小さかった。
これから来る夜への残り火が静かに消えていった。
海の底にある赤い光も、浮かんだ上にある光も手に入れられることはなかった。
鮮明な記憶だけが残った。
2007年春
なぜあんな昔のことをを思い出したんだろう。
今日も陽は沈む。
心に何かを残しながら。
そして世界の深い淵で
赤い宝石は輝き続けるだろう。
ビルが崩れ
人類が生き絶え
世界が終っても
それは輝き続けるだろう。