第8章:竜、戦場にて
…正体を隠す必要のなくなったカンヅの攻撃は、冗談抜きでこの国を潰せるくらいの威力を持っていた。
今まで戦ってきた悪魔とは、明らかにレベルが違う。
…まあ、ダルが正体に気付けなかった時点で、並の悪魔じゃあないとは思ってたけど!
「どうなさいました、ルフィ殿?私を止めるのではなかったのですか?」
くっくと嘲笑しながら、カンヅは余裕の表情で私に言う。
しかし見え透いた挑発に乗ってやるほど、私も未熟ではない。…伊達に2000年間生きている訳じゃないのよ!
「普通ならその安い挑発に乗るんでしょうけど、生憎と私はそこまで感情的な人間じゃないの。」
「不死者ごときが、人間気取りですか?蒼神官もあなたも、人間からすれば我ら悪魔と同じ化け物だというのに。」
…そりゃまあ、確かに。不死者と知られた事で何度も人に殺されかけたことはあるけど。
「だからって、人間に絶望してる訳じゃないもの。大体、バレなきゃ良いのよ、バレなきゃ。」
「そうそう。……って、蒼神官って呼ぶな!僕は海神官だ!」
余程蒼神官と呼ばれるのが嫌なのか、ノリツッコミ的なタイミングで相手に反論するダル。
って、今はそんな事言ってる場合じゃないでしょうがっ!
「怒りの感情は、私に力を与えるだけですよ。『怒り』もまた、邪気の一種なのですから。ね、『蒼神官』殿。」
くすくすと笑いながら、カンヅはダルの神経を逆撫でするように彼を「蒼神官」と呼ぶ。
って言うか、蒼神官って言うその単語に何か意味あるの…?
などと思っている暇も有らばこそ。ぼんやりと考え込みそうになっている私に向かって、カンヅはその伸縮自在の鉤爪を私に向かって振り下ろす!
だが長年の剣士としての経験からか、無意識の内にその爪を剣ではじき返していた。
ぼんやりしてる場合じゃないって私!まがりなりにも今は悪魔との戦闘中なんだから集中しないと!
「おや?隙だらけのように見えたのですが…?」
私の防御は予想外だったらしく、カンヅは心底驚いたように言った。
「一応、これでも傭兵なもので。殺気に対しては体が勝手に反応するのよね!」
積極的に斬りこみつつ、私はカンヅをできるだけ人のいない方へと誘導する。
王宮内とは言え、ここは宮廷魔道士の詰め所。死者を出さないでいる自信はない。
それに気が付いたのか、ダルの方も小技でカンヅを誘導していく。
「いくら神聖魔法と言えど、この程度の術では私は倒せませんよ、『蒼神官』殿。」
「やかましわっ!その名前で呼ぶなって言うてるやろっ!」
何度も「蒼神官」と呼ばれた事に、流石に頭にきてるらしい。言葉のアクセントがおかしくなってる。おまけに魔法のコントロールが少し雑になってきてるし。
一方で私は何度目かの鉤爪攻撃を防ぎつつ、全く威力の衰えない攻撃に戸惑っていた。
いくら小技とは言え、ダルの神聖魔法を何発も喰らっていながら全く効いていないなんて…どれだけ高位な悪魔なのよ、こいつは!
その時だった。後方で、声がしたのは。
「ルフィさん!ダルさん!伏せてください!」
声に言われた通り、私とダルはその場に伏せる。とほぼ同時に私たちの頭上を光の砲撃が通過し、カンヅに命中した。
今のって…「竜の息吹」!?って事は今の声の主は!
「ラギス!」
「やあ、僕の合図、気付いてくれたんやね。」
驚く私とは対照的に、ダルは待ってましたと言わんばかりに黄金竜の登場を歓迎した。
て言うか…合図…?いつの間にそんなもの出したのよ、この男は…
「はい。あの砲撃のおかげで知る事ができました。」
…砲撃…?
ってひょっとして。さっきカンヅの部屋で放った光線の事!?
「部屋一つ破壊するような合図って…」
「何言うてるんや?あんなんまだマシな方やて。」
「あんた王宮を壊す気か!?って言うかあんなのでマシって、一体どういう性格してるのよ!」
「え…マシですよねえ?」
「マシやんなあ。」
ああああああああああ。竜と神官の考えって良くわからない…。わかりたくもないけど…。
「それにしても…カンヅ様が悪魔…しかも『デビル』だったなんて…意外ですね。」
「…あいつ、デビルだったの!?」
「せやったら僕が見ただけでわからんかったのも、しゃーないなあ。」
「竜の息吹」のダメージが大きかったのか、なかなか立ち上がらないカンヅに視線をやりながら言う私とダル。
デビルとは、数多くいる…と思う…悪魔の中でも、特に力の強い者の事を指す…のが一般的に知られてる事なんだけど、本当はそうではない。
デビルと呼ばれる種族は、普通の邪気から生まれる悪魔たちとは異なり、3大魔王が生み出した存在のことを指すのである。
見た目は悪魔とほぼ同じだが、その力は桁違い。おまけに高位になればなる程、化けた時の姿は人間との区別が付かなくなる。
今回のカンヅが、その良い例である。だって、あのダルが見抜けなかったんだから。
なんて思ってる間に、カンヅはようやくその場に立ち上がる。しかし…様子がおかしい。
いや…「おかしい」というのは間違っている。明らかに今のヤツは変わっているのだ。
…かつて戦った魔王の分身もそうだったが、悪魔の類はある程度のダメージを負うと人間の姿であることをやめるらしい。
今や「カンヅ」は闇色の体をした、不気味な生命体へと変貌している。
「な…なんですか!?あれは!」
ラギスが、誰にという訳でもなく問いかける。
顔だと思われる場所には、目がない。耳も、鼻も、口もない。例えて言うなら黒い大きな卵が、頭になっているような姿。
『私を本来の姿にしたからには、皆さんを…殺して差し上げましょう!』
地の底から響くような「声」で、カンヅはそう言った。




