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第4章:魔道士の長、謁見の間にて

「さて、程よくまったりしたところで。早速護衛任務に入るわよ。」

 未だまったりムードな2人に活を入れ、雇い主であるツニル殿下(王宮内では「王子」ではなく「殿下」と呼ばなければならないらしい)の元に向かおうとし…

「あ、ちょっと待ってくれ。」

「…何?」

「さすがに王宮内では、正装の方が良いだろうからね。」

 ダルはそう言うと、ごそごそと荷物をあさり、その中から一着の法衣を取り出した。

 海のような蒼を基調としており、所々、派手すぎない程度に金糸の刺繍が施されている。

 …カラーローブ。この世で高位神官のみが纏う事を許されている法衣。しかも金糸での刺繍が施されているという事は、最上級の神官…教皇か神官長である証。

 …いや、カラーローブ持ちの高位神官だって事は知ってたけどさ。まさかそこまで高い位を持ってたとは思わなかったわよ。

「うわあ…。」

 ラギスが感嘆の声を上げる。私に至っては声も出ない。

 髪も瞳も青い彼が、蒼の法衣を纏うことで完全に蒼一色。以前悪魔たちがダルのことを「蒼神官」って呼んでたけど、その表現に納得してしまう自分がいる。

 いや、カラーローブを纏った人間って言うのは今まで何度か見たことあるけど、ここまで似合ってる奴は見たことない。今まで見てきた連中は、「着ている」と言うより「着られてる」感が強かったし。

「どうだろう?」

 まるでお気に入りの服を見せたがる子供のように、ダルはその場でくるりと一回転してみせる。

 法衣の裾がふわりと舞って、まるでドレスのようだ。

「…むかつくくらい似合ってるわよ。自信持ちなさい。」

「ありがとう、ルフィ。」

 照れ笑いを浮かべつつ、ダルが素直に礼を言う。

「ほら、いつまでもボーっとしてないで。さっさと行くわよ。」

「え、あ、はい!」

 惚けた様にダルを眺めるラギスを促し、私達は殿下の元に向かった。


「ああ、皆さん。丁度良かった。」

 殿下のもとにつくや否や、いきなり彼はにこやかな笑みを浮かべてそんな事を言い出した。

 よくよく見れば彼の隣には、貧相な顔に似合わない髭を蓄えたおっさんが立っている。格好からすると宮廷魔道士の類だろうか。少なくとも服装には旅をするもののような身軽さは一切ない。

「こちらは宮廷魔道士の長で私の叔父のカンヅ様です。」

 あっれー?カンヅって確か…第3王位継承者では?

 そんな人と2人っきりで会ってて平気な訳?仮にもお家騒動の真っ最中でしょ?

「ラギスの事はご存知ですよね。あちらの銀髪の女性がルフィさんで、あの蒼衣の神官が以前お話したダルさん。」

「おお、いつぞや殿下のお命を救われた…!あなたが…!」

 心底感動したようにカンヅはダルの方を見つめる。

 って言うか待てこら。そんな話、私初耳なんですが。

 …いやまあ、聞かなかったって言うのもあるけど。

「しかしお若い…。そのお年でカラーローブを纏える立場にいるなど…さぞやご苦労なさった事でしょうな。」

「いえ、それ程でもありません。」

 そりゃそうよね、ダルも不死者だもん。

 まあ、その事実を知らない人からすれば驚きだけど。…事実私も知らなかった時はカンヅと同じ反応したし。

「時に殿下。殿下が暗殺者に襲われかけたという噂は真実でございますか?」

 ちょっと待て。

「ええ。ラギスが撃退してくれましたが…それが何か?」

 さらに待て。

 暗殺されかけただあ?聞いてないんですけど!

「殿下の暗殺など、由々しき事態ですぞ!それを暢気に構えておられて良いのですか!?」

「未遂に終わっているのですから良いではありませんか。」

「良くありません!早急な対処をなさるべきです。」

「例えば、暗殺者の雇い主は誰か…とかですか?」

 ヒートアップしてきているカンヅとは対照的に、冷静な言葉で返すツニル殿下。

 …カンヅは、心底ツニルを案じているように見える。これが演技だったらかなりの曲者なんだけど。

「私は殿下に何かあったらと思うと心苦しいのです。陛下のたった一人のご子息なのですから。」

「私が死ねば、王位継承権は自ずと繰り上がりますね。」

 にこやかに言い放たれた言葉に、カンヅは唖然とした表情を見せた。

 いやはや。そこであっさりとそういう事をのたまうって辺り、この殿下は曲者よねえ。巷の噂を知ってるのかしら、この人。

「んな…何をおっしゃいます!確かに私や次兄のダッシャーにも王位継承権はございますが!王座を望んでなどいない事は、殿下もご存知のはずです!」

「何、1つの物の見方ですよ。本当に叔父上たちが私を暗殺する気なら、ラギスたちが来る前に殺しているでしょうから。」

 顔を真っ赤にして否定する相手に、相変わらずにこやかな顔のまま返す殿下。

「世間では、カンヅ殿とダッシャー殿のお2人が王位継承権を巡って争っていて迷惑だ、と言われておりますが?」

 横から口を出したのは、意外にもダルだった。

 まあ確かに、その辺は疑問だったんだけど…いきなり口を挟むかなあ。

「私と兄上が…?争っている…?」

「ええ。その噂が他国にまで広がっており、現在この国に観光に来る者がめっきり減った、と。街の方がそうおっしゃってましたが?」

「馬鹿な。陛下を含む我ら3兄弟、この国の発展させるための討論はするものの、争うなどと言うことは決してない!」

 ダルに言われ、心底不思議そうな表情になるカンヅ。

 どうやら本気で心当たりがないらしい。

 もちろん、「争ってますか」と聞かれて「はい、争ってます」なんて馬鹿な答えはしないだろうけど…それでもなにやら妙である。

 …まあ、ここにはいないダッシャーとやらの意見も聞いてみないと何とも言い難いけど。

「とにかく…私は殿下や兄上と争うつもりはない。今のままで十分なのです。それをご承知願いたい、神官殿。」

 心底困り果てたような第3王位継承者に言われ、それ以上追求する気をなくしたのか、ダルはその場で黙り込んだ。

 はてさて。お家騒動っていうのは、本当に存在しているのやら…。

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