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第3章:将軍、王宮にて

 現国王の第一子にして、この国の第1王位継承者、ツニル。

 年は20代前半か。漆黒の髪に、意志の強そうな目、何より威厳と温厚の両方を兼ね備えた人物である。「王」たる威厳を持っていると、私は直感した。

「…まさかいきなり押しかけて会えるとは思ってもみなかったんだけど。」

「それも僕の人徳ってことで。」

 城にいきなり押しかけて、門番にダルが顔を見せただけで中に入ることができた。

 簡単に謁見できたって言うのは、ちょっといただけない様な気もするんだけど…

 て言うか、城に顔パスで入れるダルって一体…

「顔を上げてください。そんなにかしこまられると困ります。」

 私の疑問をよそに、心底困ったように王子は言った。どうやらこの王子、なかなかの好人物のようだ。

「お久しぶりです、神官ダル。2年振り位ですか。」

「はい。それくらいになりますね。」

「それで今は旅の神官…あなたらしいです。とても。」

 にこやかな笑みを浮かべ、心底嬉しそうに王子が言う。

「それで、僕の…というかこの王国の危機を知って、僕のところに駆けつけた…そう解釈してよろしいんですか?」

「ええ。そう思っていただいて結構です。」

 嘘くさいまでににこやかな笑みを浮かべ、ダルは王子の問いに答える。

 それを聞くと、やおら王子は彼の後ろに立っていた少年に何事か話しかける。

 どうやら彼の警護役らしい。しかしどう見てもまだ15、6の子供。柔らかそうな金髪をいじりながら、事の成り行きを見守ろうとしているようだ。

「神官ダル。あなたの好意を素直に受け取ろうかと思います。…ラギスも納得してくれているようですし。」

「殿下が信頼されている方です。僕も信用させていただきますよ。」

 ラギスと言うらしい。にっこり笑いながら王子の言葉を継ぐ。

「まあ、どれほど人間が策をめぐらせようと僕には勝てませんが、護衛は多いに越したことがありませんし。」

 フフンと鼻を鳴らしながら、ラギスは自慢げに言う。しかもちょっと見下し目線で。

 ……って、あれ…?

「『どれほど人間が策をめぐらせようと』…。まるで、君が人間では無いかのように聞こえますが?」

 同じ事を思ったらしく、ダルが睨むようにラギスを見つめる。

 ダルは見ただけで相手が人間か否かを理解する事ができる。最初に出会ったときも、私のこと不死者って見抜きやがったし。

 流石に強力な力の持ち主…神とか魔王とかまでは無理みたいだけど。

「ええ。ラギスは人間ではありません。ドラゴンなんです。」

 ……はい?

 王子があっさりにっこりと衝撃的な事をのたまった。

 ドラゴン…一般的には竜族と呼ばれるもので、人間より遥かに高い知性と体力、そして長い寿命がある。長いと言っても、せいぜい300年かそこらなんだけど。

 どちらかと言うと、竜族は神に近い存在なので、一般的には悪魔退治人をしていると言われているが…それが、あの少年?

「うわ、本当だ。」

 ダルも小さく呟いた。

 どうやらラギスという少年が竜だと言うのは、事実らしい。

「そう言う事です。だから僕、足手まといにはならないと思いますよ。」

 謙虚な姿勢で物を言うラギス。しかし相変わらず見下し目線であることに変化はない。

 それを察したのか、はたまた単に忘れていただけなのか、王子は私を見て思い出したように問いかける。

「そうだ、あなたの名前を聞いてなかった。」

「ルフィ=ジェネル。現在はダルと共に旅をしている傭兵です。」

「そうですか。では…報酬は後払い。契約期間はこの一件が片付くまで。なお、食事と部屋はこちらで用意しておきます。」

 事務的な事を述べた後、王子は再び温和な笑みを浮かべ…

「ラギスに案内させます。今日はゆっくり休んでください、お2人とも。」

 何もわかっていないのか、それとも策士なのか…自分の護衛に新しく入った護衛を案内させるなんて…大丈夫なの?本当に。


「ここがダルさんの部屋、でもって、その向かい側がルフィさんの部屋です。」

 ラギスに案内され、私達の寝床を見る。どうやら客室のうちの1つらしく、一介の兵士が泊まるにしては随分と豪勢である。

 用意された紅茶を入れ、私は近くにあった椅子に腰掛ける。

「あの…ルフィさん。」

「何ですか、ラギスさん?」

 おずおずと声をかけてくるラギスに、私は極力にこやかな笑みを浮かべて返す。

 さっきの見下し目線ではなく、今はなぜか怒られるのを待つ子供のような雰囲気である。

「あなたは、その…『海将軍』様ですよね。」

「…その2つ名を知ってるって事は…あなた、黄金竜?」

「はい!この城にいらしたときから、海将軍様なんじゃないかって思ってたんです!100年振りにお会いしたから、僕の記憶が間違ってるんじゃないかと思ってハラハラしました!」

「ぶっ」

 ラギスの台詞に、たまたま飲んでた紅茶を吹きだすダル。

 …いや待て。何でそこで吹くかな。この神官は。

「あー…君はルフィの知り合いなのか?って言うかルフィが不死者だって事…」

「はい、もちろん存じています!今から100年ほど前にルフィ様は、僕たちドラゴン種族と共に戦っておられた『海将軍』だったんです!」

「海将軍…?」

 ダルが不思議そうに呟く。

 100年位前に海の方に巨大な魔物が現れて、それをたまたま出逢った黄金竜の一族と共にぶちのめしたんだっけ。で、そのときに竜族から与えられた称号が「海将軍」だったような。

「今でも竜族の中では語り継がれています。海将軍様の、ドラゴン種族を上回る華麗な活躍の数々。我々が認めた、数少ない人間にして不死者!幼かった僕に、とても優しくして頂いて…」

 …そういやいたわねえ、激しく懐いてきた子供の竜。

 普通竜族って、人間を軽蔑してる。まして不死者など穢れ以外の何者でもないのだから、懐くなどまずありえない。

 それがひょっとして…このラギスだったのかしら?

「へえ…ルフィって、『海将軍』て呼ばれてるのか。」

 私の回想をよそに、意地の悪い笑みを浮かべて言うダル。

「だったら、何?」

「いや、僕が海神官で君が海将軍。同じ海つながりでいいなあと思って。」

「海神官…。だから貴方からはこんなに清々しい気がするのか。…和むー。」

 ダルの隣に座り、何かほんわかしてるラギス。

 …なんと言うか…あまり、お家騒動っていう緊張感がないのは…気のせい?

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