今はまだ秘密
※妄想力依存な仕様となっております。予めご了承願います。
――これは向こうの俺が、ほんの少し未来の彼女に出会う前の話。
* *
* * 今はまだ秘密
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私は、クラスの葛木亜純とかいう男が嫌いだ。
いや、嫌いなんてまだ生温い。
ヤツの存在自体が憎くて仕方がない。
「うげー…葛木、オマエまた一位かよ」
「ちょ、馬鹿こら声デカい」
「どーせバレんだから気にすんなよ特待生」
バキッ
――背後から聞こえる不愉快にも程がある会話のせいで、手元にあった試験用の鉛筆を折ってしまった。
「相楽……ドンマイ」
「やめてくれ半端に間を置かれると余計凹む」
「そりゃスマン。…しかし何というか、本当にお約束だなあんたら」
「………」
そう、これは試験明けによくある風景。
顔良し頭良し学年一位な特待生と、その特待生に敗れ打ちひしがれる学年二位のクラス委員の図――嗚呼、この典型的かつお約束な図式が心底忌々しい。
「けっ」
「うわ、可愛くないやさぐれ方だな」
「……」
ああ五月蝿い何とでも言え葛木滅びろ!
―――と、心の中で半八つ当たり的な呪詛を吐いたその瞬間、敵は背後からいきなり仕掛けてきた。
「相楽さん、鉛筆落ちてたよ」
「!!!」
▽ カツラギ が きしゅうしてきた!
「何だよそのナレーション」
「いや、今の私の心理状態を」
「訳わからん」
「………相楽さん?」
…は、そうだ。
友との通常運転な会話で一瞬完全に放置してたが、今はエマージェンシーなんだった。
……。ひとまず癪だが礼はしとくか。
と、先程まで机に突っ伏していた顔をゆるりと上に向け、無害そうな表情で此方を見下ろす葛木に視線を合わせた。
「ワア、葛木サンアリガトウゴザイマスー」
「えっ、ちょ、何で棒読み」
「アハハ、気のせい気のせい」
情緒たっぷりに感謝されたいのか貴様。
――思わず口から滑りそうになった言葉を飲み込み、笑って誤魔化す。
己の欲求に正直に生きるには、教室はあまりに人目がありすぎる――
「そう言えばこれ、ウチん家の鉛筆だよね」
…のをいいことに調子に乗りやがる葛木亜純コンチクショウ。
眼前の男から受け取ったブツに戦慄が走る私を尻目に、友人木崎が手元を覗き込む。
「あ、マジだ。葛木神社って書いてある」
「あー、そういや葛木ん家は学業のカミサマ祀ってんだったな」
そこの男女二人ちょっと黙ろうか。
落ち着こう。
確かに私はいつも試験の時はヤツの実家の鉛筆を使用している。
だがしかし、その事実は目の前にいる男が私の人生に現れる遥か昔からそうだっただけであり、深い意味は特にない。断じてない。
むしろ、あの神社がヤツの実家だと知ったその日には軽く絶望したくらいだ。
「全力で否定されると逆に怪しいぞ、相楽」
黙れ篠田ニヤニヤすんな。
「…いやだから、昔からの習慣でなかなか変えにくいだけ――あ、烏丸先生ー。篠田君が今日の資料室整理俺に任せろって豪語してまー…」
「相楽さんすいませんっっしたァァァア!!!!」
篠田は整理整頓という四字熟語が苦手だ。
うむ。篠田君、君のその変わり身の早さは嫌いではない。
…そんな私と篠田のやり取りを見て、葛木が苦笑する。
「はは…相変わらず弱点衝くの上手いね相楽さん」
「褒められたら気がしねぇ…」
温厚そうなその顔めがけてケッと毒を吐き出すと、葛木は一瞬虚を突かれた様な表情をした後、悪戯盛りな小学生の顔に変わった。
…こういう顔をした時の葛木は、その表情に似合わないどころか実年齢よりも遥かに上に感じる事が多くて、苦手だ。
「…褒められたいんだ?」
「……。崇め奉りたまえ」
「………」
ぶはっ、と
此方が努めて冷静になろうと真顔でそう答えると、葛木が勢い良く噴き出した。
二人の間だけに一瞬張られた緊張感が和らいだのを感じて、私は安堵する。
――私はこの葛木亜純という男が嫌いだ。
顔良し、頭良し、運動神経も良し。
温厚かつ人畜無害そうな雰囲気で人当たりもよく、それでいて自分の芯を持った人物らしく年齢問わず人望も厚い。
以前神隠しに遭った娘の子供だ何だと複雑な事情があるとかないとか、現在は身内が祖父母しかおらず家庭に負担をかけたくなくて特待生になっただとか、同情する声もチラホラ聞いた。
でも、私にとって葛木亜純は特待生の座を奪った敵でしかない。
彼方に事情がある様に、此方にだって事情はある。
世間一般が彼にもたらす賞賛だって、私にしてみりゃ阻害要因でしかない。
出来れば一生関わり合いになりたくない。
なのに絡んでくる。
しかも理由が「知ってる人に似てるから」だ。
「あの時は叩くわ蹴飛ばすわと随分虐げられてきたから、その分きちんと御礼しないといけない」とか何とか以前言っていたが、サッパリ理解出来なかった。
(あまりに電波すぎて理解する気も起きなかったというのもある。そして蹴飛ばしたいのは私の方だ。)
後、二人だけの時と他人が居る時とで態度が変わりすぎだろう。
私も内申の為には多少悪魔に身を売るが、それにしてもあれは酷い。
温厚だの爽やかだなんて見せかけだ。あれは完全に二重人格だ。腹黒だ。そしてたまに親父臭い。
「……はあ、」
もう訳が分からない。
葛木亜純の所為で何もかもが狂っていく。
嫌だ。嫌いだ。
葛木亜純なんて、大嫌いだ――。
* * * *
「……はあ、」
目の前の少女が小さく溜め息をついた。
相楽夕貴―――ある日のちょっとした手違いから《あの国》に召喚された異界人。
俺の人生を散々滅茶苦茶に引っ掻き回した挙げ句、幼い王子と《あの国》を救った陰の英雄。
あの頃の、ルール無用で自由奔放な彼女のイメージが強かったため、今みたいな彼女を見ると新鮮な気持ちになる。
『被召喚者は操り人形?ざけんな誰が本気じゃない命令なんかに従うかボケ――!』
あの時、養父の企みに加担していた俺に「やり方が間違っている」と真正面から全力でぶつかってきた彼女。
当時は何も知らない、状況を読めないからこそ出来る無鉄砲だったと思っていたが―――《こちら》に来て、彼女に再び出会い、「普段の相楽夕貴」を知る内に、あれはむしろ“意図的に奔放に振る舞っていた”のだという事に気付いた。衝撃的だった。
―――勿論、直接彼女に確認した訳じゃない。
そもそも、今俺の目の前にいる彼女は《あの国》で出会った時期の彼女では“まだ”ない様だ。
(あの頃、一度だけ強引に《こちら》へ送還した事がある。それ以降、《あの国》と《こちら》の俺が繋がっている事に気付いていた様だったから、少なくとも今はまだ“それ以前”の時間軸なのだろう。)
――でも、それでも見ていれば彼女が何を考えているのかが何となく感じられる程度には、俺は彼女を知っている。
彼女に伝えたい言葉がある。
想いがある。
衝動がある。
数なんてきりがない。
一生かけても足りないくらいだ。
――――でも、
“今”の君は“まだ”本当の俺を知らない。
だから――
すみません、
今はまだ秘密です―――ユウキさん
君に出会うまで、あと 。
はじめまして。秋生と申します。
この度はこの様な凡俗の作品に最後までお付き合い下さり、ありがとう御座います。
正直なお話をさせて頂くと、今回の話は創作4コマを描くためのキャラクター掴み(復習?いや、備忘録か?)の為にダラダラと携帯で作成しました。
話について補足しますと、まず
亜純⇒異世界トリップした母ちゃんと王様の子供(諸事情により使用人)
夕貴⇒何か異世界喚ばれちゃった系で打算的な自由人
が、異母兄弟な第二王子(問題児)を更生させる過程で教育方針に亀裂が生じてボコリ合い…愛?になったりならなかったりするアホ話がありました。
この話はその後(亜純)とその前(夕貴)と時間軸の異なる二人が仲良く(亜純限定)会話しているだけ……のつもりが、どうしてこうなった/(^o^)\という事です。
………はい。
ツッコミ所満載かと思いますが、秋生クオリティという事で、何卒宜しくお願い致します。
それでは、本文だけでなく、あとがきも最後までお付き合い下さりありがとう御座いました!
2011/10/19 秋生