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道筋・6

「へぇ、なかなか様になっているじゃないか」


広場に張られた天幕の中で衣装などの最終確認をしていた2人は、深みのある渋い声に揃って振り向く。


「陛下」

「うん、これなら舞台の上でもよく栄えるだろう」


2人の姿を上から下まで見てから満足げに頷いたのは、グラエル・ノマライト。――このノマライト国の、王である。

ふらりと突然現れた王に、セイは愁眉を寄せた。


「また供もつけずにお一人で……」

「君も面白くないことを言うようになったね、セイ」

「……陛下が面白いことばかりなさるからですよ」


遠まわしに嫌みを言ってみてもグラエルはどこ吹く風で、セイは彼の臣下達に密かに同情した。

常識に囚われず、常に民を第一に考え改革を進めるノマライト王。その姿勢は民にとっては頼もしい限りだろうが、ついていく臣下は大変だ。まあ、こういう奔放な性格が人を惹き付けている要因だとも思うので、悪いとは言わないけれど。

セイがため息を吐くと、レイが車椅子を動かし一歩ほど前へ進み出た。

そして、頭を垂れる。


「陛下、衣装だけでなくこんなに立派な車椅子まで用意していただいて……ありがとうございます」


――レイが今使用している車椅子は、日頃使っている機能だけ重視したものではなく、ところどころに細かな装飾のなされた見た目にも気を遣ったものだった。国一番の技師に作らせたというそれは勿論機能性にも優れており、かなり値が張るものだと感じさせる。

だが、グラエルの態度はそんなことを微塵も感じさせないからりとしたものだった。


「気に入ってくれたのなら、それが何よりの礼だよ。

……それに、これは俺の自己満足だから」


そっと紡がれた言葉に、二人は揃って首を傾げた。

グラエルは苦笑して続ける。


「彼女は、何を差し出しても殆ど受け取ってくれなかったからね。指輪ひとつ渡すのにも大分苦労したよ。

……だからその分、君達には色々してやりたくなってしまう」


そう言ったグラエルの目には、少し寂しげで、けれど温かみがあった。

レイが自らの服の胸元を掴む。――グラエルに渡して欲しいとリオウから頼まれた指輪は、細い鎖に通してレイが身につけている。


――彼女がいなくなったあと、2人は彼女に託された剣と指輪をそれぞれに渡しにいく為に家を出た。

そして、先に再会したゴーラント将軍の助けもあってノマライト王に会い、指輪は一旦は彼の手へと渡った。だが、彼は指輪をしばらく見つめただけで、セイとレイに返したのだ。

それ以来、指輪はレイが持っている。指輪と同じように将軍に返された剣も、セイの腰にある。


全て、彼女の予想通りに。


「……今なら、分かります」


セイはぽつりと呟いた。リオウがいなくなってからも、2人の心の中にはずっと彼女がいた。

彼女がここにいたらどうするだろう。どういう風に考えるだろう。そんなことばかり考えている内に、この『道筋』を歩んでいく内に、セイは唐突に気付いた。


「リオウ様は、僕らのことを考えて、ゴーラント将軍や貴方に会いに行くように言ったのですね」


あれから、何年経ったろう。気付けば2人は『英雄』として人々に目されるようになっていた。今日のこの場もセイとレイのために用意されたもので、天幕の外では大勢の人々が2人の登場を待っているはずだ。


これが、示された道筋通りに生きてきた結果。

けれど彼女が指輪と剣を残してくれたおかげで、2人は多くの人の助けを得ることが出来て――たとえそれが道筋通りの出来事だとしても、リオウがセイとレイのことを想ってくれたことは、真実なのだとしたら。


グラエルがくしゃりと顔を歪めて、笑う。


「君達がそう思うのなら、きっとそうなんだろう」


悔しいけれど、と小さく付け足して。






「……さて、そろそろ時間だね」


しばしの間があったあと、グラエルはそう切り出した。セイとレイは、小さく顎を引く。


「何を話すかはもう決めたの?」

「ええ、一応は……僕らは人に語れるほどの志を持ち合わせていませんから、昔話でもしようかと」

「昔話?」



目を瞬いたグラエルに、2人は微笑を浮かべた。


「はい。リオウ様との、話を」


……あれから、随分と長い時が経った。だから今更掘り返したって、誰も文句は言わないだろう。


それに、自分達がセイとレイでいられるのは、今日できっと最後だろうから。





そうして彼らは、この道筋の果てへとまた一歩踏み出したのだ。

中々上手く書けず、また間があいてしまいました;

あと一話で終わる予定です。


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