道筋・3
家に帰ったセイは、扉を開けて驚いた。
「お帰り、セイ」
ぎこちなくだけれど笑うリオウが、そこにいたのだから。
「リオウさま……?」
「……ごめんね、急に引きこもったりして」
ぽかん、と口を開けて自分を見つめるセイに対し、リオウはすまなさそうに表情を曇らせてそう言った。
その目は赤く、瞼も少しはれぼったいように見えてセイは思わず自分の片割れに視線をやる。
レイがリオウに何かしたとは勿論思ってない。ただ、久し振りに見たリオウの姿はどこか不安定で、彼女に理由を問い詰めることも出来なかったからだ。
セイの視線を受けて、レイの唇が声を出さずに動く。
(――「後で」、か)
……つまり、今は聞くなということだろう。片割れの意思を難なく読み取ったセイは、夕食をとって自室に戻るまで、いつも通りに振る舞うことにした。
「――僕達を、殺すかもしれないって?」
そして、自室に戻ったセイはレイからようやく自分がいない間に起きたことを聞いた。
聞いて――再び驚いた。
リオウは、自分がセイとレイを殺すのではないかと怯えて部屋に閉じこもっていたのだそうだ。
目を見開き、驚きを露わにするセイにレイは微笑んだ。
「……リオウ様って、本当に予想外のこと考えるよね」
愛おしいと言わんばかりの微笑を見て、セイもじわじわと喜びが胸に広がるのを感じた。
「……どうしよう、嬉しい」
リオウが、自分達のことでそこまで悩んでくれたことも、セイとレイを拒絶したわけではなかったことも――たまらなく、嬉しかった。
リオウは、ただ単に自分が人を殺すかもしれないことに怯えを抱いたのかもしれない。あの人は誰よりも自分の力を恐れていたから。
けれど、その対象に双子を選んだのはリオウが自分達の想いを知ってくれた証でもある。知った上で、それでも尚切り捨てられない存在なのだと、彼女の行動が教えてくれた。
片目だけの視界がじわりと滲む。
「――やっぱり、離れちゃダメだ」
離れられない、ではなく、離れてはいけない。そう思った。
レイの言っていた「間違い」の意味を、セイはこの時ようやく理解できた気がした。
彼女に自覚はないだろうがリオウの心には、既に双子の居場所があるのだ。決して大きくはないかもしれないけれど、失くせばリオウの心に穴が開くことには変わりない。
リオウを哀しませたくないからこそ、檻に囲うのではなく彼女を追いかける。どこまでも――たとえ、どんな障害が道を塞ごうとも。
「セイは、どうだった?」
自分と同様に歓喜に瞳を潤ませたレイが尋ねてきたので、セイも教会でのことを話した。
リオウと会ったことがあるという、神官のことも。
「……縁、だね」
神官のことを聞いたレイが、ぽつりと呟く。
――縁とは、リオウの故郷にある言葉だそうだ。人と人は細い糸のようなもので繋がっている。それを縁と言うのだとリオウが教えてくれた。セイとレイが彼女と出逢えたのも縁があったからで、何かしらの意味があるだろうと。
今日、あの神官と出会えたことも――縁、なのだろうか?
「その神官さんから、何か聞けた?」
「召喚は、神にしかできないって」
「……じゃあ、その神に会うにはどうすればいいのかな」
自分が神官にしたのと同じ問いを口にしたレイに、セイは苦笑を零した。他人から見れば自分達は、馬鹿馬鹿しい話をしているように見えるかもしれない。だが、2人共本気だ。
そもそも双子からしてみれば、願いを叶えるための障害が神だったという、それだけなのだから。
『神というのは、真に救いを求めるものの前に現れます』
セイの問いに、神官はそう答えた。実に神官らしい答えだと思った。
(救い……)
――果たして自分達が求めているのが『救い』なのかは分からない。
けれど、願いの強さでなら誰にも負けないだろう。そんな自信はあった。
「……絶対に、切らない」
彼女とセイとレイの間にある、縁だけは。
……双子の前に神が現れたのは、その夜のことだった。