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そうか、ハイグレードに戻らねばならないのか。
理央は不思議な気持ちだった。
元々魔竜を倒したらすぐに元いた世界に帰してもらうつもりだったため、こちら側に未練など何もなかった。
そのため参謀長に「凱旋」と言われても「多くの人々が貴女の帰りを待っている」と言われても、理央の耳には他人事のように響いたのだ。
「どうしよう……」
誰もいなくなった天幕の中で1人呟く。
ぶっちゃけ逃げたい。
王都に行くのはまだ構わない。だが――王城に行くのはどうしても避けたかった。あと神殿も嫌だ。
理央はああいった貴族や王族といった人間が集まる場所を苦手としていた。
全員が全員そうというわけではないが、ああいう偉い人というのは、どうも他者を見下しているところがある。
まあ実際偉いんだろうけど。しかし人類平等を唱う世界で育った理央は伯爵だの侯爵だの言われてもいまだに違いがよく分かってない。
「ようリオウ!生きてるかー」
なんとか逃げる方法はないかと半ば現実逃避のように頭の中で策を巡らせていると、天幕の扉代わりの布がばっさあ!と勢いよく開く。同時に飛んでくる大きな声。顔を見なくても理央にはそれが誰か分かった。
「将軍……」
――小柄でひょろっとした参謀長のあとに見ると、余計に大きく見える山のような体躯。また髭剃りを怠っているのか熊によく似た顔は、毛むくじゃらで、更に熊へと近付いていた。
ハイグレード国の将軍、ロドル・ゴーラント。それが彼の名だ。
その容姿から親しみだったり蔑みだったりを込められて『熊将軍』とか『動く山』とか呼ばれる彼は、何故か小脇にセイを抱えていた。
「久しぶりだなあリオウ!どこも怪我してないか!飯くったか!酒呑もうぜ!」
「……怪我はしてないしご飯は食べた。あと、酒は呑まない」
相変わらず豪快で空気を読まない人間だ。理央はため息を吐く。
正直彼のテンションは苦手だが、色々と世話になったこともあるので無碍にはできない。
「で、なんでセイを抱えてるの」
「ん? ああ、なんかそこでウロウロしてたから連れてきた」
セイも彼には恩があるため強く出れないのだろう。大人しく抱えられていたセイのことを突っ込むと、将軍は今気が付いたと言わんばかりにセイを地面に下ろした。「すみません。入っていいものかどうか分からなかったもので……」
別に悪いことなど何ひとつしていないのに謝るセイを見て、理央は、この子は将軍の馴れ馴れしさというか図々しさを少し分けてもらったほうがいいのではないかと一瞬本気で考えた。
国や人の名前は割と適当に決めてます。