46
「お話した時より、一年以上も長引いてしまいました」
理央が目を開くと、目の前にふよふよと浮かぶ発光物体。
申し訳なさそうな声音に、理央は口端をあげた。
「いいよ、もう。今度こそ約束守ってくれたんでしょ」
「はい、それは勿論」
「……あなたと会うのも、これで最後なんだね」
「…………はい」
大分と間をあけてから、神が肯定する。
理央が元の世界に戻れば、もう理央に干渉することは難しくなるという話だ。彼はあくまであの世界の神であり、理央の世界には別の神がいるから。
「…ありがとう」
理央はそっと、丸い輪郭に手を沿わせた。こうして彼に触れるのは初めてで、手のひらに伝わってくる温かみに、理央は目を細める。
――神というのはもっと、威厳があって思わずひれ伏したくなるような力を持ったものだと思っていたのだけれど。
まあ、これくらいダメダメな方がいいのかもしれない。親近感が湧いて。
(約束破った時はホント、どうしてやろうかと思ったけど)
でも、彼が理央のために本気で怒ったり悲しんだりしていたことも知っている。この8年間、理央を元の世界に戻すために力を尽くしてくれていたことも。
ゆっくりと明滅を繰り返しながら、神が言う。
「こちらこそ、今までありがとうございました。……お元気で」
「うん。――あなた達も、元気で」
その言葉を告げると同時に、意識が引き揚げられるのを理央は感じた。
「……、…」
目を開けると、理央は自分の部屋にいた。城の一室でも、セイとレイと長い時を過ごした山小屋でもなく、理央の世界の、理央の部屋。
「戻れた、の?」
理央は自身の手を顔の前まで持ってきて握ったり開いたりを繰り返した。
そこには、武器を扱うもの特有の固い皮も、タコもなく。どこにでもいる、武器など握ったこともなさそうな女の手があった。
じわじわとこみ上げてくる実感を胸に、理央は今度はベッドを下りて、灯りを付けてから姿見の前に立った。
「あ……」
――肩に付かないくらいの短い髪、まだ少女らしい線の細い体。記憶にあるよりも幼い顔。
鏡の中にいたのは、間違いなく高校生の頃の――勇者として召喚される前の理央だった。
「…………」
理央は徐に、鏡に手を這わす。鏡の中の理央の手のひらと自分の手のひらがピタリと重なる。
――夢じゃ、ない。
「戻って、これた」
そう呟いた理央の頬には、一筋、涙が流れていた。
次話が最終話です。
本日18時投稿予定。
……皆さんにちゃんと受け入れてもらえるか、今からびくびくしてます;