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本日2度目の更新です。

がたごと揺れる馬車の窓から顔を出して小さくなっていく王都を眺めてから、理央はようやく帽子を取った。念のため帽子の中に隠していた黒髪が、肩に落ちる。


――多分もう、あそこを訪れることはないだろう。


安堵のような、寂しさのような気持ちを覚えながら、理央は馬車の中に顔を引っ込めた。


「リオウ様」

「ん?」


そのまま手持ち無沙汰に帽子をいじっていた理央に、向かい側に座ったセイの声がかかる。顔を上げると、一対と片方だけの瞳が自分を見つめていた。


「よかったのですか。僕達を連れて行って」

「……ついてくっていったのはあなた達じゃない」



呆れ顔で双子を見るが、彼らは緊張の面もちを崩さない。

這ってでもついていくと言っていた癖に、どうして理央が連れていこうとすると疑うような目で見つめてくるのか。


「だって、リオウ様あんなに僕達を離そうとしていたのに」

「離してもついてくるんでしょ?」


「はい」


さすが双子。声をぴったり揃えて即答されて、理央は眉間に皺を寄せた。



「……ストーカーされるくらいなら、いっそ一緒に連れてった方がいいと思っただけなんだけど…」

「すとーかーってなんですか?」

「セイとレイは知らなくていいことだよ」


揃って首を傾げる2人に「それより」と理央は尋ねる。


「あなた達こそ、本当にいいのね?

言っておくけど、楽な暮らしじゃないよ」

「リオウ様がいれば、それでいいです」


これも2人揃って即答。

自分の元の世界への執着もわりと凄まじいとは自覚していたが、双子の理央への執着はそれと張るものがある。

――まあ、負ける気はないけれど。


「一応、これも言っておく。

私の意志は変わらない。元の世界に帰る時はあなた達が泣き叫ぼうがすがりつこうが絶対帰る。

でも、できれば納得した上で別れたいと思ってるからあなた達を連れて行く――以上」


これはクリスティーナに諭され、セイとレイの言い分を聞いた上での結論だ。元々、彼らが理央を簡単に手放そうとしないのはなんとなく予想していたから、長期戦も覚悟してはいた。


――覚悟していたよりも、かなり長くなりそうな気もするが。


「分かった?」

「はい。その時は頑張って泣き叫びますね」

「じゃあ僕はすがりつきます。力の限り」

「うん、全然分かってないね」


しかも役割分担まで考えている。

清々しいまで自分の意志を無視されて、理央は溜め息しかでなかった。これは、本当に長期戦になりそうだ。


「でも、しばらくは一緒に居てくれるんですよね」

「……まあね。とりあえず、ゴーラント将軍が昔山篭もりしていた時に使ってたっていう山小屋に身を隠すとして……」



しかし一、二年したらまた移動になるだろうか。実際に暮らしてみなければ分からないこともあるからまだはっきりとは言えないが、勇者がどこにいるのか分からないようにしなければならない。

そのため、この馬車も目的地の途中までしか行かない。御者に理央達の行く先を知られるわけにはいかないからだ。

そしてそれは、隠遁場所を紹介したゴーラント将軍にしても同じことが言える。彼が誰かに勇者の居場所を漏らすとは思ってはいないが――念のためだ。

そんな、ごちゃごちゃと考え込む理央の頭など知らぬげに双子はにこにこ言葉を交わし合う。


「なら、しばらくはリオウ様を二人占めできるね」

「うん。絶対に離れないようにしないとね」

くすくすと笑い合う姿はどこか妖しげで、交わされる会話は不穏の一言に尽きる。

――本当に、この2人から離れることはできるのだろうか。

理央は溜め息の数をまた一つ増やした。

やっとハイグレードを脱出。

一応あと四話で本編は完結予定です。

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