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「どういうことですか」


セイは同じ言葉を繰り返した。

その声も、隻眼も理央に近付いてくる足取りも――怒りに燃えているように見えた。

いや、実際怒っているのだろう。


理央の座っている椅子が音を立てて軋む。彼らとも、ちゃんと向かい合って話し合いをするはずだった。

でも、こんな形で知られるなんて。


すぐ目の前で立ち止まったセイを見上げて、理央は唇を引き結ぶ。

――逃げてはいけない。それが、自分のためであり彼らのためでもあるはずだから。

セイが、理央の両肩を掴んだ。


「どういうことですか!? 帰る? 捨てる?どうして、どうしてそんなことを!」

「セイ……っ」


肩に爪が食い込んで、理央は痛みに顔を歪めた。クリスティーナが止めようとする声が聞こえたが、それもセイの耳には全く届いていないようだった。


「僕達が、どれだけあなたを想っているか、どうして分かってくれないんです!」

「……っセイ、」

「嫌です!! 離したりしない。貴女から、離れたりなんかしません!」

「まって、」

「もし僕達を捨てるというのなら、それなら―――いっそのこと僕達を殺してくださ、」


言い終わるか終わらないかのところで、視界からセイが消える。代わりに現れたのは、頬をぽりぽりと掻くロドルだった。


「わりぃな。あんまりにも馬鹿なこと言い出すもんだから、手が出ちまった」

「……いや、ありがとう」

肩にかかる圧力がなくなりホッと息を吐いた理央は、セイが吹っ飛ばされた方を見る。そこには壁際でうずくまるセイがいた。

ロドルのことだから一応手加減はしているだろうが、頭を打ってやしないかと心配になる。かといって近寄ることも出来ずにいると、ロドルが先にセイへと近付いた。


「おいセイ、惚れた女に対して『俺を殺せ』はねーだろよ。ちっと頭冷やせ」

「すみ、ません……でも」

「でもじゃねえ。そんなにリオウから離れたくないんならまず足掻け。追いかけろ。俺はそうした」


「…………」


ロドルの説得の方向性がなんだかおかしい気がするが、セイの耳にはちゃんと届いてるようだ。



「まったく、いいこと言ったと思ったらすぐに道を逸れるのよねえ」

「クリスティーナさん」

「リオウ、大丈夫?」

「……はい」


いつの間にか理央のそばにはクリスティーナが来ていた。理央の顔を覗きこみ肩を指差し訊ねてきたので、頷きを返す。

まだセイの指の感触は残っているが、特に痛みは感じなかった。


「ホント、男ってバカよね。ロドルはその中でも特大級だけど、セイもなかなかのバカだわ。

やっぱり、近くにいると移るのかしら」


そのまま語り出したクリスティーナの瞳は、ロドルを映していた。口では色々言っていても、その穏やかな視線一つで彼女の気持ちは丸分かりだった。

その視線が、理央を振り向く。


「で、リオウ。あなたも割とバカだわ」

「え」


慈愛のこもった笑みを向けられながらそんなことを言われるとは思わず、理央は目を丸くした。

クリスティーナは細い指でそんな理央の顎を持ち上げ、微笑みながら続ける。


「あなたはあの子達を助けて、拾った。なのにあっさり捨てるなんて、残酷だと思わない?」

「それは……分かってます。でも」

「いいえ、分かってないわ。あなたはあの子達があなたに向ける想いの強さを、全く理解してない。

知ってる? レイがここに来てからどれだけの本を読み、知識を蓄えていたか」

「…………」


理央は思い出す。レイのいた部屋には、大量の本が置かれていた。理央が来たとき、驚いて読んでいた本を床に落としてしまったと苦く笑う姿が、頭をよぎる。


「セイは……まあ、旅にでていた間のことはあなたの方が知っているだろうけど、こっちに来てからも暇があればロドルに師事して鍛錬に励んでた」


抱きしめられた時のがっしりとした腕の感触と、肩を掴まれた時に感じた強い力を思い出す。それは、日頃からきちんと鍛えてるもののみが手に入れられるものだ。


「それもこれも、全部リオウ――あなたのためよ」

「………、…」


顎を持ち上げられているためクリスティーナの視線から逃れることもできずに、理央は唇を噛む。

彼らが理央のために努力を重ねていたことは、知っていた。けれど、気付かないふりをしていた。

気付いてしまえば、きっと捨てることが更に難しくなるだろうから。


「ねえ、リオウ。

あなたの帰りたいって気持ちもよくわかるわ。あの子達のことを、全部受け入れろとも言わない。

でもね、あの子達とちゃんと向かい合ってあげて。

あなた達の間にある絆が、そう簡単に切れるものではないことだけは、知っておいて」


滲んだ視界の中で、クリスティーナは困ったように微笑む。


(ああ、この人達は本当に――)


この家の人達は、いつだって理央の都合などお構いなしに心をこじ開けて、するりと中に入ってしまう。そして、いつのまにか馴染んでしまうのだ。


本当に――タチが悪い。


噛み締めた唇が、じんじんと痛んだ。



まあ簡単に切れない縁もあるよねってことで。なんかセイじゃなくてゴーラント夫妻の方が目立った。

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