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部屋まで運んでベッドに下ろすまで、レイは難しい顔で黙り込んでいた。

きっと、自分も似たような表情になっているだろう。


「何の話をしているのかな」

「うん……」


夕食のあと、ゴーラント夫妻とリオウだけで話したいことがあるからと居間から追い出された。

深刻な話なのだろうか。来たときからずっとどこか表情に陰りのあったリオウの姿が頭をよぎる。


「なんだか、イヤな予感がするんだ」


眉を寄せて呟くと、レイからも「そうだね」と同意見を貰った。

――いつも、微笑む時はどこか寂しそうに、困ったように微笑むひと。けれど、今日のリオウはいつもとはまた違ったように感じた。

苦しそうなのは相変わらずだったけれど――まるで、気負うものがなくなったような。


「……セイ」

「ああ」


片割れに名を呼ばれて、セイははっきりと頷いてから踵を返した。








居間へ向かうと、夫妻の賑やかな声がセイの耳に届いた。けれどそれは不安を全てぬぐい去ってくれるものでもなく、セイは僅かに開いた扉の隙間から聞こえる声に耳をそばだてた。


「ゴーラント将軍、クリスティーナさん」


リオウの声を、耳が捉える。相変わらず凛としていて、けれどどこか張り詰めた弓のような声だった。


「どうかしたの?リオウ」

「……お願いが、あるんです」

「お願い?」

「はい――私が居なくなったあとも、セイとレイのことを、お願いしたいのです」


――頭を殴られたような衝撃が襲う。

どくどくと胸が嫌な感じに波打って、セイはリオウが何を言ったのか、しばらく理解できなかった。

その間にも、話が進んでいく。


「それは……あなたが異世界に帰ってから、ってことではないのね?」

「はい。1人で王都を出るつもりです」

「――彼らを捨てるということ?」

「……はい」



(捨てる?)


その言葉がわんわんと耳なりのように頭に響く。リオウが――自分達を捨てる?

有り得ない未来ではなかった。

セイはリオウのことを、ずっと見てきた。だから当然、彼女が故郷に帰りたいと願っていることも、その願いのためなら、セイ達だって捨てることも――知っていた。


(…でも、)


セイもレイも、彼女の願いならなんでも叶えてあげたいと思う。けれど――


セイは扉を開き、中に飛び込んだ。驚いた顔でこちらを見るリオウを見つめ返す。


「どういう、ことですか」


――けれど、離れたいという、その願いだけは叶えてあげられそうにはなかった。



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