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皆でとった夕食の時間は和やかに、時々騒がしく過ぎていき――そして、理央は食後の少しまったりとした空気が流れる中、城を出ることをクリスティーナに話した。


「そう……寂しくなるわね」


子供達と双子には一旦別の部屋に移ってもらっている。まずはゴーラント夫妻だけに話を通すことにしたのだ。


城を出て、どこか遠くでしばらく過ごすことを話すとクリスティーナは悲しんでくれていたが、それが理央が故郷に帰るためであることを告げると、彼女も夫と同じように喜んでくれた。


「向こうの世界にはご両親がいるんだものね。早く帰ってあげないと」

「はい……今まで、ありがとうございました」


理央は夫妻に向かって頭を下げた。

この人達にも本当に世話になった。最初ロドルに強引に屋敷へと連れていかれた時は驚いたが、クリスティーナが作ってくれた暖かいご飯を食べたり、子供達が理央の都合を構いもせず遊べとせがんでくるのに根負けして遊んであげたりしている間に、この家は理央にとっての数少ない落ち着ける場所になっていた。


――時々、暖かすぎて、落ち着けすぎて……怖くなるくらい。


けれど、帰れることが決まった今は、素直に感謝ができた。


「色々と――セイとレイのことも、ありがとうございました」

「やだ、そんなこと気にしなくていいのよ。家は賑やかなのが好きなだけなんだから」

「そうだな。お前も、セイもレイも、皆俺達の子供みてぇなもんだと思ってる。だから遠慮すんな」

「あら、あんたにしては良いこと言うじゃない」


ぺしんとクリスティーナがロドルの太い腕を叩き、居間に和やかな空気が流れる。

理央も微笑んで夫婦のやり取りを見守っていたが、テーブルの下では両手をきつく握りしめていた。


――暖かな空気に包まれれば包まれるほど、理央の心はちくちくとした痛みに苛まれる。


(分かってる)


分かっているのだ。理央がこれから言うことが、自分勝手なことであることは。

でも、言わなければ。理央自身のためにも、彼らのためにも。


頼れるのは、この人達だけなのだから。



「ゴーラント将軍、クリスティーナさん」


決意を固めて呼ぶと、見つめ合っていた二対の瞳が理央を映す。


「どうかしたの?リオウ」

「……お願いが、あるんです」


苦しげな声音から何かを感じ取ったのか、クリスティーナの表情が気遣うような声で「お願い?」と聞き返してくる。

理央は小さく顎を引いた。そして、唇を開く。


「はい――私が居なくなったあとも、セイとレイのことを、お願いしたいのです」


クリスティーナが目を瞬く。ロドルは……もしかしたら予想していたのかもしれない、腕を組んだまま理央をじっと見つめていた。

クリスティーナが震える声で確認するように問うてくる。


「それは……あなたが異世界に帰ってから、ってことではないのね?」

「はい。1人で王都を出るつもりです」

「――彼らを捨てるということ?」

「……はい」


――ずっと、考えていた。

人間は、誰とも関わらずに生きていくことなどできはしない。理央も、この一年間誰かしらと関わってきた。



その中には、関わっていく内に簡単に切り捨てることなど出来なくなってしまった人もいて――――セイとレイは、その最たる者だった。


もしかしたら、少し離れていた間に彼らの執着とも呼べる強い情も弱くなっているかもしれない。ここに来るまで、そんな希望を抱いてもいたけれど……理央は抱きしめられた時の感触や、降ってくる愛おしげな声を思い出す。

離れていた時間は、彼らの理央に対する執着をより一層強めただけのようだった。


だからこそ、捨てなければと……そう思う。


(だって、このままいけば……きっと)


ぎゅうっと手を握りしめて、理央はまだ戸惑いを見せるクリスティーナと黙ったままのロドルに向かって再び頭を下げた。


今度は感謝ではなく、懇願の意味をこめて。


「お願いします。彼らが1人で――いえ、2人で歩いていけるようになるまででいいんです。

自分勝手なことを言っているのは重々承知です。ですが――私にはあなた達しか、頼れる人がいない」

もし受け入れてもらえたなら、理央は自分の持ってるものをできるだけ彼らに残していくつもりだった。ただのエゴでしかないとは分かっているけれど、理央にはそれぐらいしかできないから。

しんとした居間に、クリスティーナのためらいがちな声が響く。



「ねえ、リオウ――」


彼女が何かを言いかけた、その時だった。


がたっ


「どういう、ことですか」


物音と、聞き慣れた声。

理央が頭を上げて声のした方を見ればそこには――暗い瞳で理央を睨む、セイがいた。




修羅場の予感。

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