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グラエルに理央なりのけじめを付けた翌日、理央は鍛錬場へと来ていた。

よく晴れた空の下、整列して掛け声と共に剣を振るう兵達と、彼らに喝を飛ばす、遠目に見ると本当に山のような大男。


「おら、もっと声出せ!」


その巨躯と、相変わらずの大音量のおかげで探し人は容易に見つかった。

ロドル・ゴーラント将軍。彼が帰還していたのは知っていたが、理央が忙しかったのもあり手紙を託されたきり会うことは叶わなかった。


(少し待った方がいいか……)


戦が終わってすぐだというのに――いや、すぐだからこそなのか――真剣に鍛錬する彼らの邪魔をするのも忍びなくて、一段落するまで待つことにした理央。急がない話というわけでもないが、30分かそこら待たされても特に問題はない。


柱に背を預けて待つ体制に入ろうとした理央だったが――


「あれ、勇者だ」

「本当だ、勇者様だ」

「どうしてこんなところに」


誰か1人の兵の声をきっかけに、自分に視線が集まってくるのを感じた。


――自分が有名人なこと、忘れてた。


「勇者」という名詞が飛び交うざわめきによって、彼も理央の存在に気付いたらしい。理央を見つけてぶんぶんと手を振ってくる。


「おーう!リオウじゃねーかー!」

「…………」


そのロドルの行動が決定打となり、鍛錬場の兵達の視線が一気に集まって……思わず、溜め息が出た。





「そうかあ、帰っちまうのか…」


故郷に帰れることになったことと、城を出ることをロドルに告げると、立派な肩を落として残念がってくれた。


「…まあ、家に帰れるんだもんな。よかったなあ!リオウ」

「痛いから」


けれど次の瞬間にはロドルは笑顔でバシバシと肩を叩いてきたので理央は彼から少し距離をとる。

本当、何もかもが相変わらずだ。これがロドル・ゴーラントで、彼のいいところでもあるのだけれど。


「それで、クリスティーナさんや、セイとレイに挨拶しに行きたいんだけど」

「ああ……ん? セイとレイは連れてかねえのか?」


――妙なところで鋭いのも、相変わらずだ。

理央は表情を引き締めた。


「そのことについても話があるから、なるべく早くに時間をとってもらいたいんだけど」



「…ふうん。じゃー晩飯食いにくるか? 今日」

「きょうって……いいの?急にお邪魔して」

「なに言ってんだ。お前は家の子供みてーなもんなんだから、邪魔もなにもねえだろ」


一切の裏を窺わせない笑顔でそう言ってのけたロドルに、理央は安堵する。


「ありがとう」


胸に巣くっていた不安や心配が、僅かだが和らいだ気がした。




+++++


「リオウ!!」


玄関が開かれた途端タックルの勢いで飛び出してきた人物にがしりと抱きつかれ、理央は数歩よろめいた。


(と、とっ)


玄関前は石の階段があるため転けたらしゃれにならない。なんとかバランスを保ち、理央は自分をぎゅうぎゅう抱き締める彼女の背に手を回した。


「久しぶり、クリスティーナさん」

「ああもうっ、あなたったら全然顔を見せにこないのだもの。

私がどれだけ心配したか、ちゃんと分かってるの?!」

「く、苦し」


ほっそりとした体のどこにそんな力があるのかというくらい強い力で抱きしめられ、ぎしぎしと背骨が軋み、胸よりも少し上あたりに押し付けられる柔らかなふくらみも、今は理央の気道を圧迫する凶器と化していた。

しかし彼女は止まらない。


「なんだか痩せたんじゃない?お城の人達はちゃんと食べさせてくれているの?お腹にたまらないお上品な料理ばっかりだったんじゃ――まあ!顔色も悪いじゃない!」


そこでようやく男性のロマンであり女性の夢でもある魅惑的な体が僅かだが離れ、理央はようやっとまともに呼吸することができた。


――本当、似たもの夫婦というか、なんというか。

クリスティーナの方が同性であるためか夫よりも遠慮がないので、ロドルのパワーアップ版というべきかもしれない。


粗が全く見当たらない整った顔を間近で見ながらそんなことを考えていると、そっと顔をクリスティーナの手が挟む。


「……ちょっと見ない内に、随分と綺麗になっちゃって…もう一人前の娘ね」

「会いに来るのが遅くなって、ごめんなさい」

「そんなこといいのよ。リオウは、私が腕によりをかけて作った料理をいっぱい食べてくれればそれでいいの!」

「……はい」

「俺も腹一杯食うぞ、ティナ!」

「あんたはそこら辺の雑草でも食ってなさい」


それまで理央の隣で置いてけぼりをくらっていたロドルが会話に突然乱入してきて、クリスティーナに冷たい言葉を浴びせかけられる。


彼らと知り合って間もない頃は、夫に対して常に喧嘩腰なクリスティーナに理央も狼狽えたが今ではこれが通常営業だと知っているので苦笑するのみに留める。


「私がいくら背中叩こうがお尻を蹴ろうがリオウを家に連れてこれなかったくせに」

「俺もリオウも忙しかったんだって」

「黙らっしゃいこの穀潰し。リオウ、こんなバカほっといて行きましょう!」

「おい、待てって……」


クリスティーナが理央の手を引っ張り、家の中をずんずん進む。その後を追いかけてくるロドルの情けない声。

慣れてくると夫婦漫才のようにも聞こえてくる会話に、理央は久々に声をだして笑った。

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