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扉の閉まる音のあと、室内に重く長い溜め息が響いた。
「陛下……」
宰相は、うなだれた王に対し言葉を見つけられなかった。
王と同じように、自分もどうしたらいいのか分からなくなるほどの衝撃を受けていたからだ。
リオウが城を去る。それは、考えてみれば当然の帰結だったのかもしれない。
自分達が今までやってきたことを考えれば、むしろ今まで城に滞在していてくれたことの方がおかしかったのだと思う。
自分達はずっと、彼女の優しさに甘えていた。理解していたはずなのに、実際に感じたリオウの怒りや戸惑いが、胸を抉る。
「後悔することも、許されぬ……か」
王の呟いた言葉が、抉られた胸に染み入る。――感謝も、謝罪も不要と言い切ったリオウの顔は、はっきりと宰相らを拒絶していた。もう関わりたくないのだと、あの澄んだ瞳が物語っていた。
――我々は一体なんなのだろうと宰相はずっと疑問に思っていた。
リオウはこちらに来るまで剣を握ったこともなかったという。
そんな彼女に剣を握らせて、魔物と戦わせて、ただひたすらに救いを待つ我々は、一体なんなのだろうと。
民が窮地に陥る度ハイグレードは勇者を召喚し、そして世界が救われる。それがこの世界の『普通』だった。
けれどその一方で、戦うことを厭い、「帰りたい」と嘆いた勇者がいたこともユディルは知っていた。彼らは今では誰にも語られることなく、限られたもののみが見られる歴代の勇者の記録でのみ、記述が遺っている。
『失敗』として扱われた彼らの末路は、往々にしてひどいものだった。
ある者は自ら命を絶ち、ある者は「勇者にふさわしくない」と始末され、ある者は、その力を人間に向かって振り回した。
(――救いを待つだけでは、駄目だ)
うなだれたままの王を前に、ユディルは決意する。
悪しき慣習を無くしたところで、きっと自分達の子孫はまた同じ過ちを繰り返すだろう。
そうではなく、自分達の世界を、自分達で救えるようにならなければ――勇者という役目を、なんの関係もない異世界の人間に負わせることのない世界にしなければならない。
きっとそれが、彼女に――彼女達に、我々ができる唯一の償いだろうから。
宰相を書くのが本当に難しい……