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(おや、まあ)


一丁前に嫉妬の視線を向けてくるヴェリオスに、グラエルは端から見て分からないぐらい僅かに目を丸くした。

弟のように可愛がっていた親戚が、少し見ない間に男になっていたことに驚きを覚える。それでもグラエルから見ればまだ半人前であることに変わりはないが。


――さて、これを良い変化と捉えるべきか。


ヴェリオスの恐らく見当違いの嫉妬を受け流しながら考える。兄のような立場をとってきたグラエルとしては、数年前より遥かにマシな顔つきになった弟のような彼の成長を喜ぶべきなのだろうが……男としての部分が、『面白くない』と思ってしまう。それは多分、ヴェリオスの変化にリオウが少なからず関わっているのが要因だろう。


――リオウ。そう、リオウだ。


グラエルが今夜ヴェリオスの私室を訪れたのは、兄弟のように育ったヴェリオスと、久々に仲良く談話するためではない。

グラエルは――八つ当たりをしに来たのだ。


「なあ、ヴェリオス」

「はい」

「リオウを弄んだというのは本当かい?」

「っ」

唐突すぎる切り出しに、青空のような色の瞳が丸くなり、揺れる。その様子をグラエルは冷静に観察していた。


どうやら罪悪感はそれなりにあるらしい。結構なことだ。


「どこで、そのようなことを……」

「ひとりの女官が面白おかしく吹聴していたのを偶然聞いたんだ」


半分は嘘だった。

――グラエルはずっと、気になっていたのだ。リオウは理由もなく他者を切り捨てられるほど冷たくはない。母もそうだったように、何かしらの理由があったはずだ。今回グラエルがハイグレードに来たのは、その理由を知りたいがためでもあった。


そして、それは質の悪そうな女官に一言二言甘い言葉をかけるだけで知ることができた。


国がリオウをいいように利用するため、ヴェリオスを使って彼女を騙していたこと。騙されていることも知らずにまんまと利用されたとリオウを嘲笑った女官は、グラエルに向かってこう言った。


『あなたもそうなんでしょう?』


思わずその女官を殴りそうになったが、殴るべきはこの女ではないとその場は押しとどめた。

その殴られるべき男――ヴェリオスは、忙しなく視線をさまよわせたあと、観念したように口を開いた。


「……確かに俺は、彼女を弄んだと言われても仕方ないと思います、でも」

「『仕事』だったから、か」

「……はい」


それは本当に――結構なことで。

自分の眼光で、ヴェリオスがたじろぐのを感じたが気にしない。今グラエルが振りかざそうとしているのは正義感からのものではなく、理不尽なものだ。


グラエルは考える。


理央が何故自分達を切り捨てたのか、理由は簡単だ。

一度、酷い仕打ちを受けたから。

もう利用されないように、自分から周りを切り捨てた。それは当然の帰結だろう。


『私は、帰りたいんです』


はっきりとそう言った彼女の声は、今もグラエルの心の奥深くまで突き刺さっていた。

この想いが報われぬことを知った。それでもそばにいたいから、想いに蓋をした。

リオウは、グラエルにとって何ものにも代え難いひとだ。

人として、友として――そして、女性としても。

想いに蓋をしても、それは変わらない。だって、捨てたわけではないのだから。


だから、グラエルは思ってしまう。――もし、国がリオウを利用しようとしなければ、違う未来があったのではないか?と。


「ヴェリオス。俺はね、もし望みがあるようならリオウに求婚しようと思っていた」

「――は?」


一国の王子としては余りにお粗末な反応だ。驚きを露わにするヴェリオスを前に、グラエルは笑みを深めた。

笑うのが下手、と彼女に言われたことがある。でもそれはリオウに対してだけだということを彼女は知らないのだろう。


(貴女だけ、なのにね)


彼女を前にすると、自分を取り繕うこともできなくなる。そんな妙に苛立たしくて、幸せな感情をグラエルに教えてくれたのはリオウだ。


「もし彼女が受け入れてくれるのならば、王妃にと思っていた」


それは、なんて甘美な想像なのだろう。

彼女が隣にいて、自分と共に歩んでくれる。ただそれだけで、幸せを感じられる。グラエルがもっと傲慢であれたなら、或いはそれを実行していたかもしれない。

「でも、できなかった」


だって、どれだけ想像したところで、グラエルの隣に立つリオウは笑っていなかったから。

所詮、自分も臆病なただの人間なのだと思い知らされる。


リオウに、母のような顔をさせたくなかった。そして自分にも、そうさせない自信が持てなかった。


言葉も出ない様子のヴェリオスに笑いかける。


こうしていると、鏡を見ているようで酷く苛々した。


「なあ、ヴェリオス」


そこにあるのは、ひとりの愚かな男の、顔。


「リオウにはリオウの世界が、家族があることを、どうしてみんな気付けないんだろうな?」


代わりがきくことのない世界は、誰の中にもあるはずなのに。



王子の方もグラエルに劣等感を抱えていますが、グラエルも王子に対してコンプレックスみたいなものはあると思います。

っていうか王子がわりと他人をイラッとさせるタイプ。

大事に大事に育てられた上、それが普通だと思っている人間って、それなりに辛酸を舐めてきた人にとっては見ててイラっとなるんじゃないかと。

別に嫌いあってるわけじゃないのです。


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