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近頃、城内も城下も、世界中がリオウ一色に染まっていた。


世界を救った勇者なのだからそれぐらいは当然とは思うのだが、他人の口からリオウの名が出る度、ヴェリオスは靄とした気持ちを抱えていた。


おかしい。


1日の仕事を終え、自室でくつろいでいたヴェリオスは、到底くつろいでいるとは言えない表情で椅子に座り、テーブルの表面を苛立ち紛れに指の爪で弾いた。

日増しにこの形容しがたい感情は、胸の内で領土を広げていく。甘くて苦くて、病気かと思うほどに苦しい。それは決して清々しいものではなく、もっとどろどろとした、感情。


その中心にあるのは、多分――




「…………?」


ふと、ヴェリオスの伏せられていた瞼が持ち上がる。

扉の外が騒がしい。もう夜も遅く、殆どの者が眠りについているだろうに――何かあったのかと腰を浮かしかけたヴェリオスだったが、それよりも先に回廊と自室とを繋ぐ扉が勢いよく開かれた。


「やあヴェリオス。邪魔するよ」



まるでここが自分の私室であるかのように堂々とヴェリオスの部屋に入って来たのは、隣国ノマライトの国王、グラエルだった。


「グラエル…陛下」

「公式な場ではないのだからグラエルでいいよ。なんなら昔のように兄上でも」

「それは遠慮させていただきます」


即答すると、グラエルはつまらなさそうな顔でヴェリオスの向かいに腰を下ろした。

あまりにも堂々とした振る舞いに文句を言う気にもならず、ヴェリオスは入り口でオロオロとする見張りの衛兵に、気にするなと手を振った。

グラエルはヴェリオスが小さい頃に留学という名目でハイグレードに4年ほど滞在しており、ヴェリオスにとっては兄のような存在だ。今でもその関係性が変わらず、こうして突然グラエルが訪問してくることも珍しくはなかった。


「何か御用ですか?」

「いや、こうしてこちらに来るのも久々だから、色々と話したくてね」

「はあ」


ヴェリオスはグラエルをなんとはなしに見つめた。強さをそのまま表したような立派な体躯と、座っているだけでも他を圧倒する威風。


王という存在を体現したような男。それが、グラエル・ノマライトで、自分が持っていないものを持っている彼を、ヴェリオスは誇らしくも妬ましくも思っていた。

今は、どちらかと言えば妬ましさの方が勝っている。



――リオウとは、どういう関係なのですか?


脈絡もなにも関係なくそう聞けたら、どれほど楽だろうか。

あの日からずっとヴェリオスの脳裏には、祝勝会で親密そうな雰囲気を醸し出していたリオウとグラエルの姿がちらついていた。

そして本人が目の前いる今、その映像はより鮮明になってヴェリオスの胸を締め付ける。


――軍人と並んでもまったく見劣りしない風貌を持つグラエルの隣に立つリオウは、いつもよりもその線の細さや娘らしい淑やかさが強調され、またグラエルもリオウの隣にいることでか空気に柔らかさが増し、いつもより包容力に満ち満ちているようにヴェリオスには見えた。

互いが互いを引きたて合う2人は、似合いの恋人同士のようで。

ヴェリオス以外の者の目にも同じ様にうつったのだろう。今巷では勇者とノマライト王の仲が噂されているようだ。

その事実が妙に腹立たしくて、ヴェリオスは無意識のうちに嫉妬と戸惑いの入り混じった視線をグラエルに向けていた。

突然ですがヴェリオスは17~19才。グラエルは25才。理央は16か17才くらいです。

グラエル以外の年齢は殆どアバウト。あんまり深く考えてはいけません。



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