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説明的っていうか説明。
現在の国王ルイゼアス・リア・ハイグレードには4人の子がいる。
その内の三人は姫で、既にそれぞれ他国や臣下の元に嫁いでいる。そして最後に産まれたのが待望の王子、ヴェリオスだった。
産まれてくる子に姫が続き、長姫を女王として即位させるか、それとも婿をとらせてその者に――などなどと臣下達が頭を悩ませていたところへヴェリオスの誕生は、どれほど喜ばしかったか。
待ち望んでいた男子、その上国王にとっては年をとってからの子だ。大事に、それはもう大事に育てた。
勿論ゆくゆくは父にも負けない良き王になってほしいと、時には厳しくもしていた。
――なのに、どうしてあんな風になってしまったのだろう。
宰相のユディル・フォドラは痛む胃をさすった。
(いや、悪い方ではないのだ。王子としての責務もきちんとこなしておられるし、度胸もある。ただ――)
――ただ、どうも調子に乗りやすいところがあるだけで。
嗚呼、擁護しようとしても何故かその一言で全部霧と化してしまう。
なまじ割となんでもこなしてしまう上にあの容姿だから、余計に質が悪い。今まで特に大きな失敗をしていないのも、あの性格に拍車をかけているのだろう。
そんな殿下が犯したはじめての失敗が今、1人の少女を苦しめている。その事実がユディルの胃をきりきりと締め上げた。
リオウ・ハヤサカ。異世界から喚びだされた彼女は――きっと、気付いてしまっているのだろう。
自分が利用されたということを。
これは勘だ。本人に訊いたわけでも、確証を得たわけでもない。だが――城を出て行く前のリオウは、既にもう周りを『拒絶』していた。
どういう経緯を辿ったかは知らないが、恐らくその時にはもう、彼女は知っていたはずだとユディルは考える。
そして、ぞっとする。
当時の彼女はどんな気持ちで魔竜を倒す旅に出たのだろう。そして今、どんな気持ちで此処にいるのか。
王子だけが、悪いわけではないのだ。あの悪しき慣習を今まで踏襲してきた神殿も、それを黙認してきた国も――宰相という位置にいながら何も変えられなかった自分にも、責はある。
責めてくれたのなら、まだ楽なのに――そんなことを考える自分に嫌気が差す。
リオウは、自分の状況を理解していたようなのに何も言わなかった。ただ、黙々と勇者としての責務を今もこなしてくれている。以前よりは分かり難くなってはいたが、『拒絶』の空気はそのままに。
それがユディルにとって、何よりも恐ろしかった。
怒っているのではない。けれど、許してくれたわけでもない。
拒絶、無関心――リオウの目に宿るのは、ただそれだけで。謁見にて彼女を再び目にしたユディルは、彼女と自分達との間にある分厚い壁の存在を知った。
壁を作ったのは彼女だが、その原因が自分達にあることも。
(――もしも、)
ユディルは考える。
もしも、王子にこのことをユディルが洗いざらい打ち明けたら、彼は己の罪を自覚するのだろうか。
もしも、自分達が心を尽くし謝罪して、彼女がそれを受け入れてくれたのなら――その先にある未来は、どんなに優しいだろう。
きっとそんなことは有り得ないと、理解している。
リオウは伝説の中の『勇者』ではなく、自分達と同じ人間だ。
自分達が彼女と同じ立場に立たされたらと考えれば、この先に描かれる未来など容易に想像できた。
(殿下……)
――彼女はもう、自分達を許すことはないのだろう。
決して易しくない未来で、彼はようやく自分の罪を知るのだ。そして、ようやく自分の中にある感情に気付くのかもしれない。
(初恋は叶わないというが……)
まさしく、その通りだった。
誰も彼も、全てが遅すぎたのだ。
宰相は胃痛持ち。
彼からしてみれば王子は息子みたいなもんなので、本当は理央と結ばれてくれればいいと思ってるんですが理央に対する罪悪感などもあるので単純に王子を応援できないんでしょうね。