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「だから言っただろう? 大変だろうけどがんばって、って」

「……あれ、そういう意味だったんですか」


てっきり祝勝会の間だけのことを指していたのかと……

隣でのんびりと空を見上げるグラエルを横目に、理央はがくりとうなだれた。


面会ラッシュが3日続いた頃、理央が部屋でぐったりしているところにひょっこり現れたグラエルは、理央を庭に誘った。本当に、王にあるまじき気さくさである。


「なにか嫌なことでもされた?」

「いえ…そういうことはなかったんですけれど、なんていうのか……疲れました」


贈られる美辞麗句や高価そうな物。贈る相手間違ってません?と言いたくなるほど理央には勿体無いそれらは、下手に突き返すことも出来ず理央の心と部屋に積み上げられていく。

思わずグチグチとそのことを吐露すると、グラエルは不思議そうな顔をしていた。


「俺が贈り物をした時は、全部突き返したじゃないか」

「あれは、旅の途中でしたし」

「確か邪魔だからいらないって言われたな」

「……もしかして根に持ってます?」

「いいや?」



にっこりと笑むグラエル。絶対嘘だ。

――ノマライトに滞在していた頃、理央はグラエルに物を贈られたことがあった。ドレスや装飾品、珍しい食べ物――多岐に渡った贈り物はどれも高そうなものばかりで、理央はあわててそれらを突き返したのだった。

そう、意図の分からない贈り物なんて恐ろしいだけだ。それが高価なものであればあるほど、裏に潜む思惑が見え隠れしているような気がして。


もう、利用されることなんてないと思ったのに。


「リオウ……」


名前も知らない真っ赤な花に目を落とした理央の頭に、気遣うようなグラエルの声が降ってくる。

彼自身は周囲をすぐに煙に巻く癖に、どうして他人の心情はこうも容易く読んでしまうのか。ずるい、と思う。


「まあ、貰えるものは貰ってしまって構わないと思うよ」

「でも……」

「下心なんて知らぬふりをすればいい。

口に出さない見返り要求など、叶えてやる必要はないよ」

「口に出された場合は、どうしたらいいんでしょうか?」

「何を言われたの」


問われて理央は、記憶を手繰り寄せる。

一番多かったのは「是非我が国にも来てください」だった。社交辞令のように言う人もいれば、かなり本気で誘ってくる人もいた。あとは――


「……あ、グラエル陛下のことを訊かれました」

「俺?」

「ええ、仲がよろしいのね、とか……恋人なのか、とか」


グラエルのこと、というかグラエルと理央のこと、というか。


「ああ、祝勝会では目立っていたから」

「……なんだか、こうなること分かってたみたいですね」

「暇な人達っていうのは、邪推が何より大好きだからね」

予想はしてたということか。嘆息する理央の頭を、グラエルがぐしゃぐしゃとかき混ぜる。


「わ、」

「そういうのが嫌なら、どんな男が相手でも2人っきりになったりしない方がいいよ。最悪相手にも誤解される」

「そんなこと言われても…」


乱れた頭を直しながら彼を見上げる。

今までそんなこと気にしたこともなかったが、よくよく考えてみればそれも当然だ。

グラエルが言ったのは、『女性として気にすべきこと』で。

ずっと勇者としての姿を求められ、応えてきた理央には縁がなくて当たり前だった。


「貴女はいまや世界を救った英雄だ。

そんな貴女を取り込むことで利用しようと考える国は、少なくない。――例えば、結婚とかでね」

「…………」


他国の人達との面会でやたらと異性の話題が出たのは――つまりはまあ、そういうことだったようだ。

なんというか……溜め息しかでてこない。

どこそこの王子が美しいだのうちの息子は年頃だの言われても理央にはさっぱり興味が湧かなかったし、グラエルやヴェリオスとの仲をそういう風に邪推されるのにも正直辟易していた。


どうして皆、恋愛だの結婚だの当然のように口にするのか。

理央は、元いた世界に帰るのに。


「まあ、心配はいらないだろうけど、中には強硬手段をとるような人もいるかもしれないし、充分気を付けるようにね」


グラエルの忠告に、理央はやはりため息しか返せなかった。


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