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祝勝会もつつがなく終わり、ようやく肩の荷が下りたとその日は清々しい気分で眠りについたリオウだったが――
「リオウ様、面会の申し込みが殺到しておりますが、いかがなさいますか?」
――どうやらまだ解放されないらしい。
「はあ…」
「お疲れ様にございます、リオウ様」
午前の予定を全て終え、服の襟元を緩めながら長椅子に倒れ込んだ理央に、女官の一人がぱたぱたと扇で風を送る。
香水を振ってあるのか、清涼感のある香りが風にのって理央の鼻孔をくすぐった。
「ありがとう。ティルファさん」
金髪の女官の名を思い出し礼を述べると、彼女――ティルファは、ぽっと頬を染めた。
「にょ、女官として当然のことをしているだけですわ」
ハイグレードでは一般的とされる金髪碧眼に、整った容貌。黙って立っていると高嶺の花のような印象があるのに、こうして話していると彼女も年相応なのだと実感させられるし、和む。
理央が微笑ましさに口元を緩めると、ティルファの顔が更に真っ赤になった。
「午後は……お茶会でしたっけ」
これからの予定を思い出し、ティルファに尋ねる。祝勝会の翌日から、理央には各国の要人達から面会の希望が殺到していた。その数は到底1日でこなせる数ではなく、ついさっきも隣国の外交大臣と面会を終えたばかりだが、理央の予定表は一週間先まで真っ黒になっていた。
「ええ、セルヴァー公爵夫人らと中庭でお茶会をすることになっております。
お召し替えはどうなさいますか?」
「できれば、このままで」
「かしこまりました」
衣服のことで特に何も言われなかったことに、内心ひどくほっとする。
――現在理央が着ているのは、煌びやかなドレスではなく軍服を改造したようなものだ。勇者のイメージカラーなのかなんなのか、白地に金の刺繍が入った上着とパンツは、少々装飾がうっとうしいものの、ドレスよりは余程機能性を重視しているため動き易い。
それに、意外と周りの――特に貴族の夫人や令嬢達の受けもよかった。
(男装しているようにでも見えるのかな)
理央は長椅子に寝転んだまま、今日は項で一つに結わえて肩に流していた髪を一房つまむ。
召喚された時は耳にかかるぐらいだった髪の長さは、今や胸に届くくらいまでのびていた。
だがこちらの世界の女性に比べると、理央の髪はまだ短い方なのだという。
理央に余り自覚はないが、その短めの髪もあいまってご婦人方の目には理央が男装しているように映っているのかもしれない。
理央もこちらの格好の方が楽なので、受け入れてくれるのはありがたいのだが――一応年頃の娘としては、心中複雑でもあった。