17
「つっかれた……」
ベッドに倒れ込むと、多分国内でも最上級なのだろう寝具が極上の柔らかさで迎えてくれる。
――泣き出してしまったフィアンナを宥めた後、ドレスを試着して、直しの手配をして――その他諸々の用事を済ませてようやく理央が解放された頃には、日はとっぷりと暮れていた。
長い1日だった。そして明日も、きっと長いのだろう。
「祝勝会、か」
――多分軍の人達がやってたどんちゃん騒ぎみたいなのとは違うんだろうなぁ……
名は同じでもかなり内容というか雰囲気は異なるだろう。なにせハイグレードだけでなく周辺国の王族まで招いているという話だ。それに加え、理央が試着したドレスの煌びやかさ、更に王子様のエスコート付きということを考えれば、多分フィアンナの言うとおり祝勝会というより晩餐会と言った方がイメージがしっくりくる筈だ。
「……逃げたい」
女官達は下がらせ、1人になった理央はベッドの上で仰向けになったまま呟く。
逃げられるものではないと、分かっているけれど。でも、口に出さずにはいられない。
自分が祝勝会の主役であるのも、王族やら貴族やらが集う中に珍獣よろしく放り込まれるのもそうだが、何より――王子殿下のエスコート付きというのが、理央の心を重くする。
謁見の間では無視を決め込んだのに、まさかこんなイベントがあるなんて――理央は目を閉じて、彼の顔を思い浮かべてみる。
もうずっと前に見たきりの彼は、記憶の中ですっかり朧気になっていた。
ヴェリオス・リア・ハイグレード。理央を利用した彼に対し、理央は怒りだとかそういった感情は不思議と抱いていなかった。
それは、決して短くはない時が理央の棘を和らげたのかもしれないし、勇者として過ごす間に、特殊な立場に立つ者の事情というものを身をもって知ったからかもしれない。
だが、だからといって許しているわけでもないのだ。
本当は、できればもう顔も見たくないとすら思っている。彼の顔を見れば、愚かだった頃の自分を思い出して自己嫌悪に走ってしまいそうで。こういう感情を、なんて言えばいいのだろう。
謁見する間、ずっと感じていた視線の意味は分からないし、彼がどんな顔で自分を見ていたのかも知らない。でも、そんなことはもうどうでもよかった。
寝ころんだまま、目を腕で覆った理央の心に浮かんだのは、あの日ヴェリオスに向けたのと同じものだった。
(もう、いいから……)
理央は魔竜を倒したのだから、縛り付ける理由も無くなったはずだ。
――もういいから、わたしに構わないで――
それが、理央が彼に願う、ただ一つのこと。