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今回かなり短いです。
「もういいんです」
そう言って、彼女は微笑んだ。
「もう、いいですから」
血まみれの姿で、何もかもを諦めたような、突き放すような彼女の声と笑顔は、今でもヴェリオスの脳裏に焼き付いている。
「勇者、リオウ・ハヤサカ殿、入場!」
――彼女がこの謁見の間に入ってきた瞬間、その場にいた誰もが、息を呑んだ。
王族も、貴族も兵士も関係なく、一瞬にして彼女に――リオウに目を奪われた。
赤い絨毯の上を迷いのない、威風すら感じさせる足取りでこちらに歩んでくる彼女は、一年前にもこの道を歩いた少女とは別人のように見えた。
――こんなにも、美しかったか?
ヴェリオスは立場も忘れてリオウをひたすらに目で追っていた。幸いにも他の者もヴェリオスと同じようにリオウに魅入っていたので、誰に見咎められることはなかった。
真っ黒な髪と瞳、白い肌。背は少しのびただろうか?
髪が短かったこともあってか、少年のようにも見えた中性的な顔立ちは、女性らしいまろみが加味されたことでどこか危うげな艶を感じさせ、彼女のために誂えられた白地に金の装飾がなされた硬質な鎧も、彼女の女性的な身体の線をむしろ引き立てていた。そして、凜とした輝きが宿る黒い瞳は、見るもの全てを魅了するだろうと確信を持って言える。
戦女神がいるとすれば、きっとこんな姿をしているのだろう。ヴェリオスの呆けたような視線は、彼女が定められた位置で跪くまで注がれ続けた。
「……顔をあげよ」
父王が、リオウへと声をかける。魔竜の死の報せを受けてから、父王の衰えていくばかりだった体はゆっくりと快復の兆しを見せていた。
嗄れた声も僅かだが力を取り戻しているように聞こえる。
自分がもたらした変化を、果たして彼女は気付いているのだろうか。
許しを得たリオウが、少しの間をおいて顔をあげる。
その視線をまっすぐに受けることができた父を、ヴェリオスは羨ましく思ってしまった。ヴェリオスは玉座の隣に立っていたのに、彼女がちらりともこちらへ視線を向けなかったせいだろう。知らない仲でもないのだから、少しくらいその瞳に自分を映してくれたとて構わないだろうに。王がリオウに言葉をかけるのを聞きながら、苛立たしいようなむずがゆいような、そんな気持ちにとらわれていた。
この気持ちはなんなのだろう。とにかく彼女に自分を見て欲しかった。
あの頃のように、馬鹿みたいに自分を目で追っていればいいと思うのに。彼女はその日、ヴェリオスに何も与えることはなかった。
丸無視される王子様。