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王都の門を守る兵士達に敬礼で迎えられる中、理央が馬で門をくぐった途端、爆発のような歓声が湧き起こった。


「勇者様だ!」

「勇者様が帰還なさったぞ!」

「勇者様、万歳!」


正門から城へとまっすぐに続く道の両脇には、勇者一行を一目見ようと民衆が群れをなしていた。

わあわあと勇者を見て思い思いに叫ぶ者。花の雨を降らせる者。理央は馬が興奮しないよう宥めながら、慎重にその中を進んだ。


馬上にいるおかげで、人々の顔がよく見えた。大人も子供も皆、笑顔で理央に手を振っている。


――何故か、視界がぼやけた。


「…………」

「勇者殿、余り速度を落とされては……」

「え?」


理央の横に馬を寄せてきた兵が、理央の顔を見て言葉を失う。

どうしたのだろう。余りにも顔を凝視するもので右手を顔にやると、頬が濡れていた。


泣いていたらしい。


「あ……ごめんなさい」

「っいえ、こちらこそ申し訳ありません。女性の顔を凝視するなど……」


慌てたように目を逸らす兵は、確かカーウェル隊長と呼ばれていた。

参謀長の信頼も厚く、この隊の指揮を任された人間だ。



「余り速度を落とされませんよう、お願いします」

「はい、分かりました」


改めて注意され、理央は手綱を握り直す。理央の馬となっている白馬が、ぶるるっと鼻を鳴らした。そのまま元の位置に下がるかと思いきや、カーウェル隊長は理央に話しかけてきた。


「勇者殿……ありがとうございます」

「は?」


しかもそれがされる覚えのない謝辞だったもので、間抜けな声が出てしまう。だがカーウェルは真面目な顔を崩さず、目礼した。


「私達をお救いくださり、ありがとうございます」

「……いや、そんな」


言葉が見つからない。そんな風に言われたら、理央がこの国の人々のために頑張ったみたいではないか。理央は――


「……今回の勝利は、皆さんの尽力のおかげです。私1人では、到底なし得なかった。

だから、そんな風にお礼など言わないでください」


――理央は、自分のために頑張ったのだ。

『勇者の答え』をすらすらと口にしながら、理央は瞼を伏せた。


何故だか、胸が痛む。この痛みの理由は、なんだろう。

罪悪感か、それとも苛立ちか。


多分、気付かない方がいい類のものだと思った。


「――勇者殿。ここにいる人々の中には、私の妻や娘もいます」


理央が胸の痛みから目を逸らそうと苦心していると、カーウェル隊長が尚も話しを続ける。

理央は黙って耳を傾けた。


「私の家族だけではない。連合軍の兵士達にも、帰るべき場所や待っている人がいる。

勇者殿、謙遜するのは構いません。ですが、その者達が貴女に贈る感謝の念を、笑顔を、どうか否定しないでください。

…私共の想いを、拒絶しないでください」

「…………」


苦しそうに顔を歪ませて、懇願するカーウェルに、理央まで苦しさを覚える。


『……貴女は、私の世界に影響を与えすぎたのです』


――ああ、こういうことなのか。

セイやレイ、一人や二人の問題ではない。王都で理央を迎えた人々だけでない、世界中の人が、理央を想う。その想いが、理央の足枷になる。


ようやく、理解した。



そして、絶望する。


(……ねえ、)


空を仰ぐ。広がる青空は、故郷となにも変わらない。



その青空の向こうで、きっと自分を見ているのだろう神に、心の中で理央が問いかけた。


わたしは、どうしたらいいの?



答えは、当然のように返ってこなかった。


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