第一章
小説の基本的な技法がまったく出来てないと思われますが
大目に見てやってくださいまし。
その日はいつもと何かが違っていた。
雲が空を覆った暗い空と夏だというのに静かで冷たい風、
確か、親父が死んだ日もこんな日だった。
俺の親父は本当に酷いヤツだった。
母ちゃんには朝から晩まで散々働かせて、自分は仕事にも行かず
どこからか酒を持ってきては朝から呑んだくれ。
挙句の果てに母ちゃんに手をあげていた。
親父の度重なる暴力の後遺症で母ちゃんは脳に障害が出て今は入院している。
本当にあの親父は父親の風上にも置けない屑野郎だった。
そんな親父が突然死んだのが今から一年前の事だ。
街のゴミ捨て場で死体で発見された。
警察の話だと「親父狩りにでもあって殺されたんじゃないか」ということだったがあれはどうみても人間に殺された傷なんかじゃなかった。
そう、まるでカラスにでも食い荒らされたような体だった。
今思い出しても吐き気がする。
あんな親父の死に方なんてどうでもいい事じゃないか。
そんなことを思いながら歩いてるうちに一年前に親父が発見されたゴミ捨て場の近くに来てしまった。
「あれ?なんだあれ」
ゴミ捨て場の方に目をやると無数の黒い塊がうごめいていた。
目を凝らしてみるとどうやら生き物のようだった
「カラス……?」
数十匹はいるであろうカラスが黒い袋に入った何かを漁っていた。
誰かが捨てた生ゴミを漁ってるのかと思ったがその考えが払拭されるような強烈な匂いが鼻を衝いた。
肉が腐ったようなすっぱい臭いと無数の黒い糸のようなものがゴミ袋からたくさん出ていた。
その時、背筋から首まで寒気が襲い、いつの間にか俺はその場から走り去っていた。
そんなはずはない。そう思っていてもさっき見たアレは
明らかに俺が今考えているものだった。
「あの糸みたいなの髪の毛じゃないか。だったらアレは……」
いや違うに決まってる。きっと見間違いだ。
この事は忘れようと思ったときだった。
「死体が怖いか? 少年」
突然、四十台半ばくらいの低い声が後ろからした。
しかし振り返っても誰もいない。気のせいか。
「ヒトの死体だと認めるのが怖いかヒトの子よ」
また声が聞こえたので俺は急いで振り返る。
今度はそこにいた。
黒いコートを着た色白の細い男だった。声の割に若い。まだ二十台くらいだろうか。
突然現れた事と先ほどの出来事を男が知ってる事に驚き、俺が呆気に取られていると男がまた口を開いた。
「私が何故知っているのかが気になるのかヒトの子よ」
「な、なんの事だ? まったくわからんな」
俺は動揺していたのだろう。確実に声が震えていた。
男は全て見通したようにくすっと笑って静かにこう言った。
「あの男は生きる価値がなかった。だから死を与えた。だが烏達の食事に役立った。死んだ後に少々価値が出たな」
俺が聞きたくもない話をし、そして気持ちの悪い冗談を言った。
「今のは笑うところだぞヒトの子よ」
コイツはなんかヤバイ。
いきなり現れて『生きる価値がないから死を与えた』だなんてまるで自分が殺したと言っているようなものじゃないか。
こいつが殺したとしたら俺は今、殺人犯といるってことになる。
逃げなくては殺されてしまう。死体を見られた口封じとして。
「逃げようとしてるのなら無駄だ。私からは逃げられない」
なぜか心も読まれている。
隙を見つけて逃げなくては。
「俺を……殺すのか?」
男は変わらない冷めた表情ではっきりとこう言った。
「……何故だ?」
俺は拍子抜けした。小便を漏らしそうなくらいにビビっていたのに。
殺されない事に安心したのか俺は少し強気にこう言った。
「さっき逃げるのは無駄だって言っていたじゃないか。お前がさっきの人間を殺したなら俺を口封じとして殺すんじゃないのか?」
男は一瞬ハッとしたような表情をして少し笑ってこう言った。
「申し遅れたな。私は死を司る者。人間世界でいう……そうだな、死神といった存在だ。
あの男は生きる価値という名の命の期限が切れたので魂を狩っただけのこと。だからお前を殺す必要は全くもってない。今はな」
この男の言っている事は信用できないが気になった事があった。
この男は何故、俺に話しかけてきたのだろうか。
そして男が最後に言った言葉も気になる。
”今は殺す必要がない”という言葉。
そう思っていると後ろの方から聞き馴れた声がした。
「よう雄二。こんな所で突っ立ってどうした? いい年こいて道にでも迷ったのか?」
声の主は同じ大学に通う幼馴染の幸助。
髪の毛は赤色でドレッド。奇抜な格好をしていて、色々とふざけた野郎だが幼稚園からずっと一緒な事もあって腐れ縁だ。
俺は幸助に色々聞かれる前に男の事を紹介することにした。
「地元で道に迷うわけないだろ。今この人とちょっと話していたところだ」
俺は何一つ可笑しな事は言っていないはずなのに、
幸助は笑ってこう言った。
「お前も冗談の一つも言えるようになったんだな。誰と喋ってたって? 誰もいないじゃないか。まさか独り言じゃあるまいな」
「は? お前こそ何言ってるんだよ。ちゃんとここにいるだろ。」
指差した方向には確かに“死神と名乗った男”は居た。
「おいおい。怖い事言わないでくれよ。冗談言うならもっと笑えるのにしてくれ。んまぁ、次会うときまでには笑いのセンスあげとけよ。じゃあな」
幸助は不思議そうな顔をして足早に商店街の方へと消えていった。
「一体なんなんだ。幸助はふざけているように見えなかった」
そう俺がつぶやくと今まで黙っていた男が口を開いた。
「私の姿は普通のヒトには見ることはできない。お前は特別なようだな」
俺はいつの間にか、この男の非現実的な話に耳を傾けていた。
俺ももう二十歳だ。死神が魂を狩るなんて子供騙しな事信じるはずもない。
だけど実際に俺にしかこの男は見えていない。
死神かどうかは置いといてこの男は普通の人間ではないようだ。
俺は頭の中でこの非現実的出来事を整理し死神と名乗った男に話しかけてみることにした。
「なぁ、一つだけ聞きたいことがある。あんた何故俺に話しかけてきた?」
男は急に真面目な表情になりこう答えた。
「お前がこの先、生きるべき人間か見定めにきた」
血の気が引いて鳥肌が立つのがわかった。男が一呼吸置いて口を開く。
「と言ったらどうする? 冗談だ。ずっとここを通る人間に話しかけていたのだが偶然、私の声が聞こえたのがお前だけだったというはなしだ。深く気にすることではない。」
男は笑みを浮かべてそう言った。
そのときの俺はさぞかし緩みきった表情をしていただろう。
死神は口に手を当て笑いながらいう。
「しかし、ここで会ったのも何かの縁だ。ひとつ私とゲームをしないか?」
俺が答える間も与えず男は何も文字が書かれていない二枚の紙切れを俺に差し出してきた。
「このゲームで私に勝てば一つ願いを叶えてやろう。」
(どうせ負けたら寿命を頂くとかいうんだろうな)
そう俺が思うと心を読んだ死神がクスっと笑った。
「心配するな。寿命なんてとったりしない。もし君が負けても何も私はしない。ただし一つだけ叶えられない事があるだけだ。それは私が死を司る者、ということに関係する」
「つまり?」と俺が思うと死神が続けていう。
「つまり死んだ人間を生き返らせたりすることはできない私は死神だからな。神じゃない。命を与えることはできないんだ」
なんだそういうことか。俺には生き返らせて欲しい人間なんていない。
親父と仲が良かったわけでもないし。
「いいだろう。その勝負受けようか」
何のゲームをするかもわからないまま俺は死神とゲームで勝負をすることにした。