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異世界転生、即ホラー。俺のチートが日本の絶望しか鑑定しないんだが?  作者: 爆裂超新星ドリル


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第二話:純粋な希望の残滓

王都『アウロラ』の街並みは、昨日の喧騒が嘘のように、明るく穏やかだった。白い石畳、色鮮やかな旗、そして行き交う人々の、屈託のない笑顔。

全てが「ファンタジー」の理想形だというのに、雄一にはその光景が薄気味悪く、病的に見えた。彼の右手の甲に残る、血の色の痣が、熱を帯びてジンジンと疼いている。それは、レベルアップの証であり、同時にゴブリンから吸収した怨嗟の泥が身体に定着した場所だった。

「勇者様、今日は素晴らしい天気ですね!昨日の初陣の成功を王女様も大変喜んでおられますよ」

隣を歩くザックが、心底嬉しそうな顔で話しかけてくる。雄一は、彼の顔を見ることができなかった。もし、この親切な騎士を鑑定したら、彼のステータス欄の最下部にも、陰惨な怨嗟の文字が浮かび上がるのではないか。あるいは、彼の優しささえも、誰かの絶望から作られた偽物なのではないか。

(いやだ。もう、見たくない)

しかし、一度知ってしまった真実は、雄一の疑念を際限なく増幅させた。この世界の全てが、偽りの皮膚を被っているように感じられる。

王城へ戻ると、雄一はすぐに王女の私室へと招かれた。豪華な装飾と、清らかな香油の匂いが満ちる部屋で、王女アウロラは優雅に微笑んでいた。

「雄一様、ご苦労様でした。貴方の強さは、まさに我らの希望そのものです」

王女の言葉は、まるで讃美歌のように雄一の心に響く。彼女の美しさは、ゴブリンから吸収した『SNSでの炎上』という、醜悪な現実とは最も遠い場所にいるように思われた。

アウロラは立ち上がり、雄一の前に一歩進み出た。彼女の瞳は澄んでおり、まるで汚れを知らない水晶のようだ。

「どうか、貴方の力を恐れないでください。貴方は、世界を救うために選ばれたのですから」

その瞬間、雄一の心の防壁が崩れた。この純粋な存在が、もし、もしもあの呪いの一部であったなら、この世界に希望など欠片もないことになる。確かめずにはいられなかった。

雄一は、王女に悟られないよう、極度の緊張の中で固有スキルを集中させる。右手の痣が熱くなり、脳裏に声が響く。

――『魂の鑑定ソウル・イグザミナ』発動。

雄一の目の前に、王女アウロラのステータス・ウィンドウが展開した。

【人物:アウロラ・アウレリア】 年齢:19 ジョブ:王国統治者(特級) HP:B+ MP:S スキル:光の加護(EX)、大衆の信頼(A)、カリスマ(S) ……

完璧だった。神々しく、欠点のないステータス。これこそ、雄一がファンタジー世界に求めた、眩い光そのものだった。安堵が雄一の身体を駆け巡る。やはり、彼女だけは、この世界の真の希望なのだ――。

だが、雄一の視線は、恐る恐る最下段へと滑っていく。

空白。そして、現れたのは、ゴブリンの時とは比べ物にならない、純粋で、恐ろしい文字列だった。

怨嗟値えんさち:0(不活性)

未練:『先代の勇者の、希望の残滓。彼が世界に遺した、唯一の「善意」を維持せよ』

雄一は、息を飲んだ。怨嗟値はゼロ。だが、それは彼女が清浄だからではない。彼女は、「怨嗟」ではない、別の何かの残滓でできている。

「先代の勇者の希望……?」

つまり、この王女は、雄一の前に召喚され、そしてこの世界のシステムに敗北し、消滅した誰か――別の日本人が残した、唯一のポジティブな感情の抜け殻だったのだ。

彼女の、彫刻のような完璧な笑顔、純粋な「希望」に満ちた瞳、その全てが、既に死んだ誰かの感情を移植された**精巧な人形ドール**に過ぎない。

「雄一様?」

アウロラが首を傾げる。その動作さえも、訓練されたように寸分違わず美しい。

(彼女は人間じゃない。システムが、次の勇者を繋ぎ止めるために作った、幻覚だ)

雄一の安堵は、瞬時に最悪の恐怖へと塗り替えられた。怨嗟値は低いが、その未練の内容は、ゴブリンの比ではないほど、この世界の核心を突いていた。

この世界は、ただの呪いではない。前の勇者すら飲み込み、彼の最も美しい感情さえも道具として利用する、悪意に満ちた、永続的な輪廻の檻なのだ。

雄一は、冷や汗で全身が濡れるのを感じた。

「あの……」

雄一は声を振り絞ろうとしたが、言葉が出ない。王女は彼の顔の変化に気づき、優しく手を差し伸べた。

「ご心配なく。貴方の顔色の悪さは、きっと貴方の持つ力の深さに起因するのでしょう。その力を、隠さずにお使いください。それが、私たちの……**そして、彼らの、**唯一の願いなのですから」

アウロラは、「彼ら」という言葉を口にした瞬間、一瞬だけ、その瞳の奥に、雄一がゴブリンの未練で見たような、疲れ切った、日本の陰鬱な青年の顔がよぎった気がした。

雄一は、この王城に、この異世界に、そして彼自身が手に入れたチート能力に、もはや逃げ場がどこにもないことを悟った。彼は、この呪いのシステムの真の管理者を見つけ出し、この腐りきった構造を、根本から叩き潰さなければならないという、新たな絶望的な決意を固めるのだった。


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