9.地下洞窟
「ビンゴ!」
アルテミスが叫んだ。
昴とミノルが何事かと目を向けると、彼女は満面の笑みを返す。その横では、ウシワカがサムズアップしている。
「琴子の居場所がわかったよ。どうやら、三角山の地下にいるみたいね」
「三角山?」
昴は目をぱちくりさせて言った。
「地下には宇宙人の基地があるって噂、本当だったんだ」
「基地じゃなくて研究所なんだろうが、山の地下に作るなんてトンデモねえな。俺らが収容されていた研究所は、おんぼろの廃病院だったのに。さぞや、いい設備になってるんだろうな」
ウシワカはふんと鼻を鳴らす。
「どんなに快適になってても、あたしは戻りたくないね」
アルテミスはべっと舌を出した。
「軍事機密が多いんで世間一般には出ていませんが、今や超能力研究は注目の分野ですからね。きっと予算もたっぷり付いてるんでしょう。まあ、それはともかく」
ミノルは言って、一同をぐるりと見渡した。
「ひとまず今夜は休んで、作戦の決行は明日にしませんか。まだまだ準備もあるし、もうちょっと打ち合わせもしておきたいので」
「それがいいね。今から行けと言われても、さすがにちょっと眠くてムリ」
アルテミスは大きなあくびをする。
「昴、あんたもそれでいいね?」
もちろん、昴は首を縦に振った。異論をはさむ立場ではなかったし、何より彼女と同じく眠い。逆算して考えると、おそらく今はとっくに深夜を回っている。
たちまちちゃぶ台は片付けられ、四畳半に布団が二組敷かれた。子供たちは、そこで寝ろとのことだ。
ミノルはリクライニングさせた椅子の上、ウシワカは床へ直に転がった。二人とも、毛布を一枚引っ掛けただけである。
「ここは前線基地みたいなもんでね。設備も備蓄も最低限しか用意してないのさ」
アルテミスはマスクとマントを脱ぎ、ぞんざいにたたんで枕元に置いた。
「こんなことになるなら、シャワーくらい作っておけばよかったかねえ」
「あと、パジャマも」
昴は注文を付ける。彼はすでに布団に入っていた。服を着たまま寝るのは、少々落ち着かない。
「確かに」
アルテミスは同意し、布団に潜り込む。
「電気、消しますよー」
と、ミノル。
子供たちが「はーい」と言うと、ちょっと間をおいて、室内の明かりは常夜灯のようなオレンジ色に変わった。
ついさっきまで眠かったのに、こうなると何やらワクワクして目がさえてくる。迷惑かも、と思ってしばらく我慢していたが、昴はとうとう意を決して、
「あのさ」
アルテミスに声を掛けた。少女は昴に背中を向けているから、寝ているのか起きているのかわからない。それでも、昴は続けた。
「僕は超能力者じゃないけど、きみの友だちに立候補するよ」
アルテミスが寝返りを打ってこちらを向いた。目は開いているが、口元は掛布団に隠れて表情はわからない。しかし、布団の中からそろそろと右手が出てきて、アルテミスは親指を立てて見せた。
「やった」
昴は素直に喜んだ。
「でも、友だちってなにをしたらいいんだろうね?」
と、アルテミス。
「一緒に遊んだり、買い物したり、勉強したり。でも、僕も女子の友だちは初めてだから、そんなに詳しくないよ」
「琴子は違うのかい?」
そう言われて考えてみたら、昴の中では琴子もとっくに友だちだった。しかし、琴子の方はどう思っているのだろう。
「明日、聞いてみたら?」
アルテミスは昴の心を読んで、くすくすと笑った。
「うん。それか、友だちになってくださいって、ちゃんとお願いしてみる」
「そうかい。オッケーだといいね」
「がんばってみる」
「うん、がんばれ。それじゃあ、おやすみ」
アルテミスはくるりと寝返りを打って、背中を向けた。
「おやすみ」
昴も返して、すぐ眠りに落ちた。
翌朝、昴は一番に目を覚ました。おなかの辺りに、なかなかの衝撃を感じたからだ。見ると、そこにはアルテミスの右足が乗っていた。
美少女はダイナミックな寝相を見せている。掛布団は、なぜか彼女の足元でシュークリームのように丸まっており、上半身は斜めに傾いで敷布団をはみ出し、下半身ははしたなく開脚している。ハイレグでその格好はいかがなものか。
目のやり場に困った昴は、少女に布団を掛けてやり、自分は寝床を抜け出した。
奇跡的に見付けられたトイレで用を済ませ、台所へ向かい、みんなの分の朝食を作る。と言っても、冷凍食品のワンプレートをレンチンしただけだ。
台所を出ると、みんな起きていた。布団はしまわれ、四畳半の真ん中には、再びちゃぶ台が鎮座した。全員でそろって朝食を摂り、作戦会議と準備を始める。
時間はあっと言う間に過ぎ、日没の時刻になるとミノルは全員をエレベータに集めた。扉が閉じると、ミノルは操作パネルを開き、中にあったスイッチをカチリと動かす。
カゴは小さく揺れてから下降を始めた。
扉が開くと、その先は洞窟が広がっていた。奥は真っ暗だが、エレベーター前は扉の上に取り付けられた投光器のおかげで、じゅうぶん明るかった。
その明かりの中に、黄色いボディのメカがあった。
先頭が三輪バギーのような機関車から連なる、三連結トロッコだ。
目を引くのは、最後尾のトロッコに積まれた巨大な円錐形のドリル。最大径が昴の身長よりも大きく、U字型の持ち手が二つ取り付けられている。実用性はなく完全にフィクションだとばっさり切り捨てられがちだが、それでもなお男子憧れのロマンあふれる武器ないし道具だった。
しかし、ミノルは特に説明もくれず、ドリルの脇にバックパックを押し込んでから、先頭のトロッコに乗り込んだ。
「私がナビします。ウシワカは運転をお願いします。お嬢と昴くんは、真ん中に乗ってください」
全員が乗り込むと、トロッコ列車は動き出した。
「この地域は火山地帯で、溶岩の通り道だった洞窟が網の目のように広がっているんです。だから、地下にある私たちのアジトからセンターの研究所がある三角山まで、こうやって洞窟をたどれば、実質直通路になると言う寸法です」
ミノルは説明する。
「もちろん、闇雲に進むと迷子になって一生地上に出られなくなるので、良い子はマネしないでください。あ、ウシワカ。その先左です」
トロッコに揺られること、約二時間。彼らの前に急な斜面が立ちはだかった。
「この坂を上れば、研究所の最下層にたどり着けそうです。ほら、これを見てください」
ミノルが懐中電灯で照らした先には、太い金属の円筒が床から天井に向かってそびえていた。
「基礎杭ですよ。こんなのが、そこらに何本も立ってます。つまり、基礎で支えなきゃいけないでっかい構造物が、この上にあるってことです」
「こいつは、坂と言うより七割崖だね」
アルテミスは目をすがめて、坂の上を見ようとした。しかし、トロッコのヘッドライトが届かない上の方は、真っ暗で何も見えない。
「ええ、もちろんトロッコじゃ登れませんので、ここからは歩きです」
「そう言うと思ったよ」
アルテミスはため息をつく。
「おんぶする?」
昴は聞いた。
「余計なお世話だよ!」
アルテミスは昴のおでこにチョップをくれた。
「ほらほら、お子様方。行きますよ」
ミノルはヘッドライト付きのヘルメットを最後尾のトロッコから取り出し、ウシワカと子供たちに手渡した。
ウシワカはドリルを担ぎ、先陣を切った。
半ば登山のようなことが始まり、頂上へたどり着いたころにはもう、昴は出発から何時間経ったのか分からなくなっていた。
そこは平らな天井で塞がれており、これ以上、先へ進むことは出来そうにない。
「こっからは、こいつの出番だな」
ウシワカはドリルを両肩に担ぎ、その先端を天井に突き立てた。
「ちょっと下がって、地面に伏せてください。がれきが飛び散って危ないですからね」
ミノルは言って、自分も斜面に腹ばいになった。
少しの間があって、エンジン音が響いた。ドリルは思ったほど高速回転はせず、それでも着実にコンクリートを削り取って行く。ときおり火花が閃くのは、おそらく鉄筋もお構いなしに削っているせいだろう。
そのうち、辺りは粉塵に覆われ何も見えなくなった。昴はぎゅっと目を閉じ、できるだけ息を殺した。
しばらくして、エンジンの音が止んだ。昴が目を開けると、すでにウシワカは穴の上だった。
「急ぎましょう」
ミノルはヘルメットを脱いで放り出し、ウシワカに続いて穴を這いあがった。
アルテミスも続く。しかし、穴の端に手を掛けてぴょんぴょんジャンプするが、なかなか登れない。見かねた昴は少女のおなかの辺りに腕を回し、えいやと持ち上げた。最後は両手でお尻を押し上げる。すぐに昴も続くが、穴から出るとアルテミスの拳骨が降ってきた。
「あんたは、乙女の、お尻を!」
「ごめんよ、緊急事態だったんだ」
言い訳する昴は、ふと視界の端に点滅する赤い光を見付けた。
「監視カメラだ」
昴は天井のすみっこを指差す。
アルテミスは攻撃を止め、カメラに目を向けた。そうして、なにやらいたずら心を起こしたのか、にやっと笑って拳銃の形にした指先をレンズに向け、言った。
「バン!」
アルテミスの念動力を受け、監視カメラは粉々になった。




