5.パワードスーツ
琴子の目からビームが発射され、昴はふっ飛ばされた。幸い、壁に叩きつけられる前にウシワカが飛び込んで受け止めてくれたから、昴が大けがをすることはなかった。
「ごめんなさい!」
琴子は目をぎゅっと閉じて謝った。
「僕はだいじょうぶ。どこも痛くないよ」
昴は立ち上がり、琴子を安心させようと急いで言った。
「こりゃ驚いた」
アルテミスは、目をぱちくりさせた。
「あいつらが無線で言ってたとおり、確かにビームだね。面白い念動力じゃないか」
「これ、念動力なの?」
と、琴子。
「ああ、間違いない。それも、あたしのよりずっと強力だ。しかし、なんだって昴にしか発現しないんだろうねえ」
アルテミスは腕組みをして、うーんとうなった。
「それがわかったら、うまくコントロールできるかな?」
「約束はできないけど、その可能性はあるね」
アルテミスは昴に目を向けた。
「最初にふっ飛ばされたとき、あんたが琴子にしたことを、あたしにもしてみちゃくれないか?」
「天川さんに、したこと?」
記憶をひねり出す。
思い出した。
「目を合わせた、かな?」
「よし、やって見せておくれ。と、その前に」
アルテミスは言って、昴の正面に歩いて行ってから、狐マスクを脱いだ。
「なるべく条件をそろえるのが実験の基本だからね」
アルテミスは、はっとするような美少女だった。金髪もそうだが、どうやら純粋な日本人ではないらしく、瞳は灰色がかった青で、比べるのは失礼だとしても、琴子の黒い瞳に負けず劣らずきれいだった。
昴がその瞳をまじまじと見つめていると、アルテミスは顔を真っ赤にして昴を突き飛ばした。
「わかったぞ。琴子の念動力の原因は、こいつだ!」
「西方くんが、原因?」
琴子は目を固くつぶったまま聞き返す。
「ああ、間違いない。こいつの視線は、なんかエロいんだ。だから、じっと見られると恥ずかしくて思わずふっ飛ばしたくなる。それが、念動力って形で琴子に発現したのさ」
アルテミスは両手で顔をおおいながら説明した。隠されていない耳が真っ赤になっていた。
ひどい言われようである。
昴はいっぺんたりとも、そんな気持ちで琴子を見つめたつもりはない。もちろん、アルテミスに対しても。ただきれいなものをきれいだなと思って見ることが、どうしてセクハラまがいの行為になるのか。
「たぶん、お嬢の場合は同年代の男子に免疫がないだけですよ」
と、ミノル。
「そんなことはない!」
アルテミスは両の拳を身体の脇でぶんぶん振り、全力で否定した。
昴はそれを可愛いと思ったが、アルテミスにきっと睨まれ、彼女の能力リストにテレパシーがあることを思い出した。
「琴子、お前ならわかるだろ。昴の視線はエロいよね?」
「エロい……とかはわかんないけど、なんだか恥ずかしくなったし、見ないでって気持ちにはなった、かな?」
琴子は目を閉じたまま答えた。
昴は、ひっそりと傷付いた。まさか、琴子に不快な思いをさせていたとは。
「でも、イヤじゃなかったよ」
琴子は小さな小さな声で付け加えた。
突然、ドーンと爆発音が響き、その声はかき消された。床が大きく揺れた。照明がちかちかと点滅し、けたたましい警告音が鳴り響く。
ミノルは操縦席に駆け寄り、がちゃがちゃとスイッチを操作してからアルテミスに目を向ける。
「敵襲です!」
「敵?」
昴は思わず聞き返す。
「ああ、我々の敵だ。でも、どうしてここがわかったんだ?」
アルテミスがマスクを被りながら答える。
再び爆発音が響き、天井が崩れ落ちた。それと一緒に落ちて来たのは、人型のロボットだった。いや、その姿には見覚えがある。病院で見た動画の中で、輝子が着ていたパワードスーツだ。
「なめられたものね」
パワードスーツから声が響く。少しくぐもってはいるが、まぎれもなく輝子の声だった。
「この程度のステルス性能で、私たちから隠れられると思ったの?」
それを聞いて、ミノルがはっと息をのむ。
「まさか、あんたら琴子ちゃんに発信機を仕掛けてたのか?」
「ええ、こんなこともあろうかと思ってね」
輝子はくつくつと笑う。
「さあ、どこの国の工作員かは知らないけど、我々の大事な被験者を返してもらうわよ」
パワードスーツの背中から、タコの足のようににょろにょろと四本のロボットハンドが伸びた。それは、UFOの天井から伸びて飲み物を配膳したものと、そっくりだった。
ロボットハンドは琴子に向かって一直線に伸び、彼女の身体をからめ取った。
「ああっ!」
琴子が悲鳴をあげた。
「天川さん!」
昴は、ロボットハンドに絡みつかれた琴子を助けようと、彼女に駆け寄った。しかし、
「西方くん!」
琴子は目を開いてしまった。たちまちビームが放たれ、昴はふっ飛ばされた。
壁に叩きつけられる寸前に、ウシワカが昴の身体を抱きとめる。
「お前たち、ずらかるよ!」
アルテミスが命じた。
「ハイサッサー!」
ミノルは腰のベルトにぶら下げた工具入れからドライバーを取り出し、それを床に突き立てた。途端、床はおもちゃのブロックのように崩れ、昴たちは何もない空中に放り出された。
ウシワカは昴を担いだまま瓦礫が降りしきる空中をジェットパックで飛び回り、空いた腕で自由落下するアルテミスとミノルを捕まえる。しかし、
「クソッ!」
ウシワカは叫ぶ。
「推力が足りねえぞ、ミノル。このままじゃ、落っこちる!」
「想定内です。不時着だけなら下までもちます!」
落ちる?
昴は反射的に地面がある方へ目を向けた。ところが、そちらは真っ暗で何も見えない。しかし周囲は明るく、唇を固く引き結んだアルテミスの顔や、不吉な悲鳴をあげるウシワカのジェットパックは、はっきり見えている。
その光源は、崩壊しながら火を噴きゆっくり落ちて行くUFOだった。UFOが少しずつ小さくなっていく様子を見ると、どうやら昴たちは、真下へ向かって落ちているわけでなく、なだらかな斜めの軌道で降下しているようである。
「つかまれ、落ちるぞ!」
ウシワカが叫ぶ。
バサバサと木の葉をなぐ音が響き、それはすぐに枝をへし折るバキバキと言う音に変わった。そして、落下の衝撃が昴を襲う。
「みんな、無事かい?」
少し間をおいて、アルテミスの声。周囲は真っ暗で何も見えない。
「はい、私は。まあ、たぶんウシワカも大丈夫です」
と、ミノル。その声の方向から、ぱっと光が飛んだ。ミノルの手には、小さな懐中電灯があった。さらに彼は、いつの間にやら登山者のように大きなバックパックを背負っていた。
「勝手に決めつけるんじゃねえや。これでも、まあまあしんどいんだぜ?」
ウシワカはどっかりと地面に座り込む。
「僕も、なんとか、平気」
胃袋がひっくり返りそうになりながらも、昴はどうにか答えた。
「よし、ひとまずアジトに戻って態勢を整えるよ。そして、琴子を取り返す!」
アルテミスは言って、胸の前で右手の拳を握りしめた。
「天川さんを助けてくれるの?」
昴は聞き返す。アルテミスたちにとって、琴子にはそうするだけの価値があると言うことか。ひょっとして、センターに対抗するための戦力とでも考えているのだろうか。
「同年代の超能力者なんて、滅多に出会えねえからな」
ウシワカが言って、にやりと笑った。
「お嬢にとっちゃ、大事な友だち候補……イテッ」
アルテミスはウシワカの頭を右手の拳でぽかりと殴りつけ、彼を黙らせた。そして、「ぎゃ!」と声を上げてから、胸の前で拳を左手でさすり始める。どうやら殴った彼女の方に、大きなダメージが入ったようだ。
「まあ、作戦会議は帰ってからにしましょう」
ミノルは言って、背負っていたバックパックを降ろし、そこから謎の部品をぞろぞろと引っ張り出した。
「徒歩だとまあまあな距離があるんで、ひとまず移動手段を作ります。ちょっと私に時間をください」
言い終わる前にミノルは工具を取り出し、ガチャガチャトンテンと部品を組み立て始めた。




