表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

2.心因性外物理相互作用症候群

 (すばる)たちが連れて来られたのは、学校からほど近い市立病院だった。地元で一番大きい医療機関で、授業やクラブ活動などでケガをした生徒は、大半がここのお世話になる。

 待合室では昴の母と、琴子(ことこ)の両親が待ち受けていた。

 昴の母親は、一見して無傷の息子を見てほっとため息をもらした。

「三メートルも吹っ飛ばされたようには見えないわね?」

「うん。たぶん、毎日煮干しを食べてるから、骨が丈夫なんだよ」

「それでも念のため、MRIを撮ることになってるわ。頭をぶつけてると、後になって脳出血とか出るかも知れないから」

 MRIなど、車にはねられたとき以来である。不謹慎だが、昴はちょっとだけワクワクした。

西方(にしかた)さん、この度はうちの娘が……」

 頭を下げて来る琴子の両親を、昴の母は身振りで止めた。

「そう言うのは後にしましょう。まずは子供たちを診てもらわないと」

 そうして、昴はあれこれ検査され、最後にお医者から「異常なし」のお墨付きをもらい解放された。念のため、一晩入院してはどうかと提案もされたが、病室で過ごす夜が苦行であることを知っていたので、即座に断った。

 母に付き添われ、すでに診療時間を過ぎて空っぽになった待合室に向かう。そこには琴子の両親と、眼鏡を掛けタブレット端末を持った白衣の若い女性が、何事かを話し合っていた。琴子の姿は見えなかった。担任と養護の先生は、昴が検査を受けている間に学校へ戻ったと母親から聞いている。

 白衣の女性がこちらに気付いた様子で、小さく会釈した。

西方(にしかた)(すばる)くんと、昴くんのお母さんですね。私、鶴房(つるふさ)と申します」

 白衣の女性は名刺を差し出し、昴の母はそれを受け取った。横から覗き込むと、そこには「国立(こくりつ)心因性(しんいんせい)相互作用(そうごさよう)研究(けんきゅう)センター 活用支援課 研究員 鶴房(つるふさ)輝子(てるこ)」と書かれていた。

「状況は、ご存知ですか?」

 と、輝子。

「正直信じがたい話ですが」

 昴の母は、そう前置きして続ける。

天川(てんかわ)さんのお嬢さんが目からビームを出して、うちの昴を吹っ飛ばしたと先生からうかがってます」

 そう言って、昴の母は天川夫妻に目を向けた。

「それが本当だとしても、もちろん故意ではないと思っています。それに、見ての通り息子もぴんぴんしてますから、この件に関して私からあれこれ言うことはありません」

 琴子の両親は、それを聞いて深々と頭を下げた。

「それで、鶴房さん。あなたはどんなご用でここに?」

「はい。今回、琴子(ことこ)さんに起きた症状について、我々は心因性(しんいんせい)外物理(がいぶつり)相互作用(そうごさよう)症候群(しょうこうぐん)であると考えています」

 輝子は低く落ち着いた声で言った。

「心因性……なんですって?」

 昴の母は目をぱちくりさせて聞き返す。

「Psychogenic Extraphysical Interaction Syndrome。日本語で言うと、心因性外物理相互作用症候群です。我々はPEISと略して読んでおりますが、まあざっくり言うと超能力ですね」

「超能力……」

「手を使わずに物を動かしたり、一瞬で遠くへ移動したり、他人の心を読み取ったりする能力です。そう聞くと便利に思えるかも知れませんが、我々はこれを一種の病気ととらえています」

 昴の母は琴子の両親にちらりと目を向けた。彼らは小さくうなずき返した。どうやら、すでに同じ説明を受けているようだ。

「ともかく、我々は超能力を病気と考え、それを治療するための方法を研究しています。どんなにすごい力でも、思い通りにならなければ本人にとって、それは病気と同じようなものですからね。今回のような事故が、まさにそうです」

「あの」

 昴は小さく右手をあげた。

「治療って、超能力を使えなくするんですか。何かこう、脳の超能力中枢を破壊する的な?」

 興味本位で聞いた昴だが、すぐにそれを後悔した。脳を破壊と聞いて、琴子の両親がぎょっとするのを見てしまったからだ。

「いえ。残念なことに、この病気についてわかっていることはとても少ないんです。だから治療と言っても、外科的な方法は使えません。訓練とカウンセリング、必要があれば神経内科的な処置が主な治療内容になります。そして、治療の一番の目的は能力を無くすことではなく、うまく付き合って行く方法を見付けることです。そこで、お願いなんですが」

 輝子は昴の母に目を向けた。

「しばらく、昴くんをお借りできないでしょうか」

「昴を?」

 昴の母は、息子と輝子を交互に見た。

「ええ。学校の先生にうかがった話から考えると、琴子さんの能力は、おそらく昴くんに対してのみ表出するようなんです。実際に能力を使えないと、訓練そのものができませんからね」

「行きます」

 昴は大きく右手を上げた。

「ちょっと昴、あなたわかってるの。訓練って、その琴子ちゃんの超能力で、また吹っ飛ばされることになるんでしょ?」

「そうなんですか?」

 昴は輝子に聞いた。

「はい、そう言うカリキュラムになると思います」

 輝子はあっさりと答えた。

「そんな危険なことを、息子にやらせたがる母親がいるわけないでしょう」

 昴の母は、きっと輝子をにらみつけた。

「ごもっとも。しかし昴くんに、一切危険が及ばないよう対策を講じるつもりです」

 輝子はタブレット端末を差し出した。彼女が操作すると、そこに一つの動画が再生された。

 動画の中に、人型のロボットのようなものが立ち尽くしている。そしてロボットは、一台の小型トラックと対峙していた。サイズ的に、宅配便によく使われるモデルのようだ。

 動画の中で、男性の声が日付と時刻を読み上げる。続いてカウントダウンが始まり、「開始」の合図とともに、トラックはエンジンを唸らせ発進した。トラックはどんどん加速し、ロボットに衝突する。当然、ロボットは数メートル跳ね飛ばされ、そればかりかもんどりを打って、コンクリートの床に叩きつけられた。

 すぐに画面外から白衣を着た数人が現れ、わらわらと倒れたロボットに駆け寄り助け起こす。そうして、起き上がったロボットは頭部に両手を掛けて、それを持ち上げた。

 それは、ロボットなどではなかった。頭部パーツと思われたものはヘルメットで、その下には満面の笑みを浮かべる輝子の顔があった。

「訓練にあたっては、昴くんにこのスーツを着用していただきます。それなら、いかがですか?」

 画面の中と同じ笑顔で、輝子は言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ