11.告白大作戦
「えい」
ビームが発射される直前、アルテミスは言って、ひょいと指を振った。
琴子を乗せた椅子がくるりと回転し、琴子の顔は輝子に向いた。
「え?」
輝子が戸惑いの声をあげる。
琴子のビームは、輝子のパワードスーツを直撃した。
パワードスーツは一瞬宙に浮き、後ろ向きにどうと倒れ込んだ。
「ミノルと昴は琴子を確保。ウシワカは、あのロボ女をおさえなさい!」
すかさずアルテミスが命じる。
「ハイサッサー!」
ミノルとウシワカは同時に走り出した。昴も遅れまいと、二人の後を追う。ウシワカは起き上がろうともがく輝子に馬乗りになって、彼女を床に押さえつけた。
「昴くん、椅子の脚を持ってください!」
ミノルは椅子の背もたれに手を掛けている。昴は頷き、椅子の背側の脚を持ち上げる。二人は担架運びの要領で、琴子を椅子ごとアルテミスの元まで運び去った。
ミノルはすぐにかせを外し、琴子を床に横たわらせた。そして、ゴーグルを外そうと手を掛けるが、すぐに首を傾げる。
「おや?」
「外せないのかい?」
アルテミスは琴子とミノルの顔を交互に見る。
「ええ。ロック機構を調べたいんですが、中を覗く隙がなくて。なかなか手強いですね」
「ミノルさん、ちょっと借ります」
昴は言って、ミノルの腰の工具入れから自爆ドライバーを引き抜いた。
「昴くん。説明した通り、それは私の機械以外には……」
しかし、昴がドライバーの先端をゴーグルに押し当てると、それは一瞬でバラバラに崩壊した。
琴子の顔を、ようやく見ることができて、昴はほっとした。どうやら彼女は眠っているようだ。しかし、まぶたがぴくぴく動いているので、じきに目を覚ますだろう。
「これは、どう言うことですか?」
ミノルは目をぱちくりさせる。
「たぶんセンターの人たちが、ミノルさんの設計図を色々組み合わせて、これを作ったんだと思います。だから、ミノルさんに見覚えがなくても、これはミノルさんが設計した機械と同じものなんです」
ふわもこウールくんがそうだったように、無害と思える道具も発想を変えれば武器になるのだ。ましてや超能力者を人間兵器にしようとする組織の連中であれば、超能力の産物であるミノルの発明を、無害なままで放っておくはずがない。
琴子が「うーん」と小さく声を上げる。しかし、目をうっすら開けたところで、アルテミスが手の平でそれを塞いだ。
「琴子、助けに来たよ」
「アルテミス、ちゃん?」
「悪いけど、昴をふっ飛ばされちゃ困るからね。ちょいと目を閉じてておくれ」
「わかった」
琴子は言った。アルテミスが手をどけると、その目はしっかり閉じられていて、昴は彼女の瞳が見られないことを、やっぱり残念に思った。
「あの、おかしなゴーグルに操られてたんだね。かわいそうに」
アルテミスは琴子の頭をなでながら言った。
「うん。最初は、なんでもかんでも西方くんに見えるだけだったんだけど、だんだん頭がぼーっとしてきて、その後は何も覚えてないわ。脳を騙すって言ってたから、その影響かも」
琴子は言ってから、「あっ!」と声を上げた。
「鶴房さんが言ってたの。私の念動力は『イヤン見ないで恥ずかし~』って気持ちがあらわれたものなんだって」
「羞恥心で発動する、と言うことですか?」
と、ミノル。
「そう、それです」
「確かに、あたしも昴に見つめられると恥ずかしくなって、思わず突き飛ばしちゃったからねえ。あんたの場合、それを念動力でやっちゃったんだろうさ」
昴はちょっと泣きたくなった。念動力を使ってまで突き飛ばしたくなるほど、自分の視線はいやらしかったのか。
どん、と衝撃音が響いた。
驚いて音がした方へ目を向けると、ウシワカが床に転がっていた。輝子のパワードスーツは、ロボットハンドをくねらせながら、まさに起き上がろうとしている。
ウシワカは飛び起き、すぐさまパワードスーツに突進した。しかし、振り回されるロボットハンドに阻まれ、たちまち足が止まる。文字通り手数の点で、不利な状況だった。
「ミノル、なんとかおし!」
アルテミスは床を踏み鳴らして言った。
「なんとかと言いましても!」
ミノルはバックパックの中身を物色する。
「どうなってるの?」
琴子は身体を起こして聞いた。
「ウシワカさんが、鶴房さんのパワードスーツと戦ってるんだ。でも、苦戦してる」
昴は答え、そして無力な自分に歯噛みした。超能力者のアルテミスやミノルでさえ手をこまねいているのだ。ただの子供に、何ができようか。
いや、待てよ。
昴は琴子に目をやった。少々汚い手だが、ひとつ作戦を思い付いた。
「天川さん、聞いて」
昴は琴子の肩に両手を置いて言った。そして、ちょっと深呼吸してから、ありったけの勇気をふりしぼって続ける。
「好きです。僕とつき合ってください」
琴子は目をまんまるに見開いた。すぐに、その目の周りに光の粒が舞い、そしてこれまでになく強烈なビームが昴の身体を撃った。
「昴!」
「西方くん!」
アルテミスと琴子が同時に叫ぶ。
しかし、昴の耳にはもはや届かない。
昴はすさまじい速度で、輝子のパワードスーツに向かい宙を飛んでいた。彼は琴子の肩に手を置いた時、この方向へ飛ばされるように角度を調整していたのだ。
輝子がウシワカの猛攻を退け、飛来する昴に気付いた時には、もう手遅れだった。
昴はお尻から突っ込む格好で、パワードスーツの頭に激突した。その瞬間、彼はほとんど闇雲に自爆ドライバーを振り下ろした。
はたせるかな、輝子のパワードスーツはばらばらに砕け散った。そうして、生身の輝子があらわれ、昴は彼女ともみくちゃになって、訓練室の床を転がった。
さすがの昴も、全身がぎしぎし痛んだ。あいかわらず骨は折れていないようだが、なんだかやけに息苦しい。
何やら柔らかいものが顔全体を覆っているようだが、おそらく輝子だろう。彼女は意識を失っているのか、昴がいくらもがいても、ぴくりとも動かなかった。
危うく窒息しそうになったところで、誰かに両手を掴まれ、強く引っ張られた。その拍子に輝子が転がり、昴はようやく解放された。
アルテミスが、怖い顔をして昴を見下ろしていた。その横には琴子もいるが、彼女はそっぽを向いている。体の横でぎゅっと拳骨を握りしめているところを見ると、ビームから昴を守るため、だけではなさそうだ。
昴を助け出してくれたのは彼女たちのようだが、どうして二人は怒ってるのだろう。
「昴、見損なったよ」
アルテミスが怖い声で言った。
昴は彼女に怒られる理由について、じゅうぶんすぎるほど身に覚えがあった。
昴は急いで身体を起こし、琴子に向かって頭をさげた。
「天川さん、君の超能力を武器みたいに使ったりして、ごめんなさい」
自分でも、本当にひどいことをしたと反省する。これでは、超能力者を人間兵器にしようとするセンターと同じである。アルテミスが怒るのも当然だ。
しかし、
「そこじゃない!」
アルテミスは昴の頭をぽかりと叩く。
「あんた、琴子にふっ飛ばされたフリをして、あの女のおっぱいに顔をうずめてただろ!」
おっぱい?
振り向くと、ほとんど下着姿の輝子が、仰向けで目を回していた。すると、さっきまで昴の顔に乗っていたのは……
「待って、それは誤解すぎる」
「ほぉ。するとあれは、ただのラッキーすけべだったと言い張るつもりかい?」
責めるアルテミスに、弁解する昴。
二人でやいやい言い合っていると、
「ちょっと黙って!」
琴子が大声で制止した。
迫力に気圧された昴とアルテミスは、思わず二人並んで正座する。
琴子も、二人の真正面に正座した。目を閉じているのが、なおさら怖い。
「西方くん、私は怒ってます」
「はい」
「私は西方くんをケガさせたくないのに、西方くんはわざと私にビームを出させたからです。もう、二度としないでください」
「はい、ごめんなさい。もうしません」
昴は心から誓った。
「それに、ビームを出させるために、ウソの告白までするなんて、ちょっとひどすぎると思う」
琴子はもごもごと言った。
「ウソじゃないよ?」
「えっ?」
「あれ?」
昴渾身の告白は、琴子にまったく伝わっていなかった。ビームを出させるため、と言う部分を否定できないのだから、もちろん自業自得である。しかし、
「バレないようにウソをつく自信はなかったし、なにより天川さんには本気で照れてもらいたかったから、僕も本気で告白するしかないかって……天川さん?」
琴子はうつむき、小さく肩を震わせていた。彼女はしばらくそうしていたが、ぱっと顔を上げた。その目は開き、真っ直ぐに昴を見つめていた。そして、
「私も、西方くんが、好き!」
大好きな琴子の瞳を間近に見た。
大好きな琴子と両思いになれた。
昴は天にも昇るような気持だった。
そして実際、彼は宙を飛んだ。




