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10.潜入、国立心因性相互作用研究センター!

 昴たちは、研究所への侵入に成功した。しかし、肝心の琴子の居場所がわからない。研究所は広く、行く手を阻む警備員がぞろぞろと押し寄せてくるので、捜索どころではなかったのだ。もちろん、ウシワカに掛かれば簡単に蹴散らせる程度の相手だが、

「さすがに、ちょいとうっとうしいな」

 一人の警備員の頭を掴んで壁に投げ付けてから、ウシワカはぼやいた。

「それに、今のところは武装も警棒程度ですが、銃器を持ち出されるとマズいですよ。せめて、何階にいるかわかればいいんですが」

 ミノルはバックパックからロボットハンドを伸ばし、後ろからこっそり襲い掛かろうとした警備員を床に叩き伏せる。

 昴は気絶した警備員を見て、彼が役立ちそうなものを身に着けていることに気付いた。警備員の上に屈みこみ、その耳からワイヤレスイヤフォンを拝借する。そして、少々抵抗はあったが、がまんして自分の耳に差し込んだ。

 案の定、そこからは雑多な通信音声がながれてきた。警備員同士の会話や、彼らを指揮する隊長らしき人の声。しばらく聞いていると、

「警備部長、聞いてる?」

 輝子の声だった。

「七階には何があってもやつらを近付けないで。私は被験者を連れて訓練室に退避するわ。それと、入口の警備に何人か回してちょうだい」

 昴はたった今聞いたことを、三人に伝えた。

「七階か。ここは何階だ?」

 ウシワカは、目につく限りで最後の警備員をゲンコツで眠らせてから、きょろきょろとあたりを見渡した。

「さっき、階段の前を通り過ぎた時は、地下三階って書いてありましたよ」

 ミノルが答える。

「ひいふうみい……うへぇ、九階も昇るのかよ!」

「エレベーターを使いましょう」

「バカ言うな。途中で止められるに決まってるだろ」

「私が何とかしますよ」

 幸い、廊下には行先案内板があったから、エレベーターホールはすぐに見つかった。カゴは地下三階に止まったままだった。

 中へ乗り込むと、階数ボタンは七階が最上階になっていた。ミノルは操作盤の扉を開け、ポケットから取り出したスマホと操作盤の回路を何本かの線で繋いだ。そして、

「制御システムを乗っ取りました。七階までノンストップで行けますよ」

 エレベーターは上昇をはじめた。ミノルの言う通り、カゴは七階までいっぺんも止まることはなかった。


 七階のエレベーター前には、武装した警備員たちが待ち構えていた。ただし、彼らが手にしているのは警棒ではなく、非殺傷弾を装填したショットガンだ。発射されるのは高密度プラスチックの粒が詰まった、お手玉のような布袋で、当たっても死ぬことはまずない。当たり所が悪ければ、大怪我くらいはするかも知れないが。

 侵入者が乗り込んですぐ、エレベーターの監視カメラは破壊され、中の様子はわからなくなっていた。しかし、中に誰がいようと、あるいはいまいと、扉が開けば全弾を撃ち込む手はずになっている。

 侵入者の中には子供もいるが、ためらってはいられない。地下三階へ送り込まれた十数人からなる警備員を、全滅させた化け物がいるのだ。

 階数表示が点滅し、チャイムが鳴った。

 扉が開く。

「撃て!」

 合図と同時に、警備員たちは一斉に射撃を開始した。エレベーターホールには銃声が響き渡り、たちまち硝煙の臭いが辺りにたちこめた。

 しかし、全員が射撃を終えてみると、エレベーターには誰も乗っていなかった。ただし、空っぽでもなかった。真っ白の羊毛のかたまりのような物体が、カゴの入口をみっちりと塞いでいたのだ。

 警備員たちが目の前の状況を理解できず呆然としている間に、毛のかたまりは爆発的にカゴからあふれ出した。逃げる間はなかった。エレベータホールにいた警備員たちは、あっと言う間にふわふわの繊維に全身をからめ取られ、すっかり身動きが取れなくなってしまった。

「自分で作っておいてなんですが、すごい威力ですね」

 もこもこの毛玉と化した警備員たちを見て、ミノルは目をぱちくりさせた。

「また、ずいぶんおかしなものを作ったね。一体、なんなんだい?」

 アルテミスは感心半分、あきれ半分と言った様子で聞く。

「ふわもこウールくんです」

 と、ミノル。

「あたしが聞きたいのは商品名じゃないよ?」

「弾丸でも人間でも、触れたものにからみ付いて動きを止める繊維、と言えばいいんですかね。元々はエアバッグの代わりになる素材として作ってみたんですけど、見ての通り身動きが取れなくなる欠点がありまして。あ、絶対に触らないでくださいね。お嬢まで捕まっちゃいますよ」

 兵器は作らないとミノルは言っていたが、昴はちょっと怪しみはじめていた。本人がどう思おうと、大の大人を簡単に制圧できるアイテムは、実質的に兵器と同じなのではないか。

「おや。その正面の扉、訓練室って書いてあるじゃないか」

 アルテミスが指さした先には、体育館のそれとよく似た両開きの鉄製の扉があった。扉の上にはアルテミスが言ったように、「訓練室」と書かれたプレートが張り付けられている。

「ウシワカ、開けておくれ」

「ハイサッサー!」

 ウシワカは扉を開けた。

 その向こうは、体育館ほどの広さがある巨大な空間だった。天井は、三階建ての家がすっぽり入りそうなほど高い。強力な照明がいくもぶら下がっていて、中は昼間のように明るかった。

 奥には、輝子のパワードスーツがいた。その横にはひじ掛け付きの椅子に、金属製の手かせ足かせで縛り付けられた、琴子の姿もある。

 琴子は椅子の背もたれに身体を預け、脱力したようにくたりと首を横に傾げていた。

天川(てんかわ)さん!」

 昴は呼び掛けた。しかし、琴子は何の反応も見せなかった。意識を失っているのだろうか。確かめようにも彼女は奇妙なゴーグルを掛けているので、目を開けているのか閉じているのかもわからない。

「こりゃあ、まんまと誘い込まれましたかね」

 ミノルは苦笑いを浮かべる。

「だったら、乗ってやるまでさ」

 ウシワカは指を鳴らしながら、前に進み出た。

 琴子が不意に機敏な動きを見せ、ウシワカに顔を向けた。次の瞬間、真っ白なビームが出てウシワカを直撃する。

「うおっ!」

 ビームに打たれたウシワカは、二、三歩たたらを踏んで、どしんと尻もちをついた。

「クソ、なんて威力だ!」

 ウシワカは毒づきながら立ち上がり、昴に目を向けた。

「お前さん、こんなのを何度も受けて、なんで平気なんだ。ひょっとして、骨格がアダマンチウムなのか?」

 昴は超能力者でもミュータントでもない。煮干パワーでちょっとだけ骨が丈夫な、ごくごく普通の男子小学生である。そんなことより、

「ねえ、なんで僕以外にビームが出せるの?」

「洗脳か、薬物か、むしろ一番怪しいのは、あのゴーグルですかね」

 ミノルは言って、アルテミスに目を向けた。

「お嬢、琴子ちゃんの心は読めますか?」

「ダメだね。さっきからやってるけど、何も聞こえないよ」

 アルテミスは首を振る。

「そろそろ降参かしら?」

 輝子が言った。

「お黙り。琴子を返してもらうまで、あきらめるつもりはないよ!」

 アルテミスは、ずいっと前に出て啖呵を切った。

「返してもらうですって?」

 輝子は鼻で笑った。

「彼女は私たちが見つけたPIES能力者よ。そもそもあなたたちのモノだったことなんて、一度もないじゃない」

「相変わらずだね、センターは」

 アルテミスは吐き捨てるようにつぶやいた。

「まあ、いい。あたしも、話し合いでどうにかなるとは思っちゃいないさ。お前たち、力ずくで取り返すよ!」

「ハイサッサー!」

 ミノルとウシワカは、そろって敬礼した。

「あらそう、残念。でも、戦力なら私たちのほうが上よ?」

 輝子が言うと、琴子は再び顔を上げ、それをアルテミスに向けた。ゴーグルの周囲に、あの光の粒が浮かび上がった。

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