第7話 約束のキーホルダー
暑い日差しの中にも、時折涼しい風が街中に流れ始める頃。
ポプリの店内では、陽菜乃がミーナの寝顔を見守っていた。
「ミーナちゃん、寝ちゃったんですね」
「えぇ、泣き疲れちゃったみたいで」
今日、ダニエルが首都へ戻っていったばかりだ。
いつもより少し長めの休暇だったぶん、ミーナの寂しさもひとしおらしい。
「長いお休みだったなら尚更離れるのは寂しいですよね」
陽菜乃は、眠るミーナの髪をそっと撫でる。
その仕草の裏で、懐かしい記憶がふとよみがえる。
(ミーナちゃんに初めて会ったの、もう何ヶ月も前になるんだ…)
⸻
数ヶ月前ーー
仕事の昼休み。
オフィス街を歩いていた陽菜乃は、場違いなほど小さな少女の姿を見つけた。
困った顔で今にも泣き出しそうにしながら、辺りをキョロキョロしている。
「こんなところで、どうしたの?迷子になっちゃった?」
声をかけると、少女はビクリと体を震わせて一歩後ずさった。
「あ、ごめんね。驚かせるつもりはなかったの。もしおうちの人と離れちゃったなら、一緒に探そう?」
少女は黙ったまま、裾をぎゅっと掴んでくる。
陽菜乃は優しく笑い、その手を握った。
「私の名前は陽菜乃。あなたは?」
「…み、みな…」
「みなちゃん。じゃあ、お母さんを早く見つけよう!」
二人は歩きながら少しずつ会話を交わす。
やがて少女が足を止めた。
「あ!ここ!さっき、この道を通ったの!」
「本当?じゃあ、お母さんきっと近くにいるね!」
陽菜乃が促すと、少女は慌てて手を離した。
「ここからは、ひとりで大丈夫!」
「そう?でも変な人にはついていっちゃダメだよ。…って、私が言うのも変だけど」
ふたりでクスッと笑いあう。
「おねぇさん、ありがとう!これあげる!また会えたら、その時はお友達になってね!」
差し出されたのは、小さな花の形のキーホルダー。
少女は大きく手を振り、駆けていった。
「ありがとー!またねー!」
陽菜乃も手を振り返しながら、その背中を見送った。
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(まさか、あの時の子がミーナちゃんだったなんて)
手の中で、今もあのキーホルダーが揺れている。
思わず笑みがこぼれた瞬間ーー。
「…?あれ?ミーナ、寝ちゃってた…?」
「起こしちゃったかな?」
ぱちりと目を開いたミーナが、にっこり笑った。
「あ!陽菜乃さん!いらっしゃいませ!」
その笑顔に、陽菜乃の胸がふっと温かくなる。
今日もポプリには、優しい笑い声が満ちていた。




