第4話 おかえりなさい、パパ
今日は特別な日。パパが帰ってくる――。
そう思うだけで、ミーナの胸はドキドキして落ち着かなかった。
ポプリの店内では常連客や陽菜乃がいつものようにモーニングを楽しんでいるけれど、ミーナだけは、あっちへ行ったりこっちへ行ったりと落ち着かない。
「ミーナちゃん、そんなにソワソワして、どうしたの?」
「あのねあのね、今日、ミーナのパパが帰ってくるのっ!」
ミーナは待ちきれないと言わんばかりに店内をウロウロしている。
「ミーナったら、少しは落ち着きなさい。
もうすぐ帰ってくるから。お客様にご迷惑でしょう」
その時、豪快に扉が開けられ、そこに大柄ながらも、優しい雰囲気を纏った男性の獣人の姿があった。
「…!パパーーー!」
パパと呼ばれたその獣人は荷物を担いでいるのにもかかわらず、駆け寄ってきたミーナを軽々と抱っこする。
「パパ!お帰りなさい!」
「おぉ!ミーナ、ただいま。見ない間に、すっかり大きくなったなぁ!」
父に抱っこされて、ミーナは満面の笑顔を浮かべ、嬉しそうに喋りだす。
「あのねあのね、ミーナ、パパが帰ってくるの、とーーーーっても楽しみにしてたんだよーー!」
「そうかそうか、ありがとうな。」
厨房の中から少し照れたような顔でマリーも声を掛ける。
「あなた、お帰りなさい。お疲れ様。」
妻の変わらない姿に、嬉しそうに笑う。
気付いた常連客たちも口々に声を掛ける。
「おや、マスター、お帰りなさい。」
「ダニエルじゃないか、久しいのぉ。」
「ダニエルさん、お帰りなさい。変わらず、元気そうですね。」
(あれが、ミーナちゃんのお父さんかぁ。優しそうな人だな)
微笑ましい光景に、陽菜乃も優しく微笑む。
「これはこれは、人間のお客様だね」
不意に声を掛けられた陽菜乃は、にっこりと笑って挨拶をする。
「葉山陽菜乃と申します。いつもここで良くしてもらってます」
つられてダニエルもにっこりと笑う。
「いやいや、ご丁寧にどうも。これからもご贔屓に」
それを横目に、ミーナは待ちきれないとばかりに、ダニエルに話し掛ける。
「パパ、今回は何か面白いものあった?!」
「おお、そうだった」と言って、ミーナと荷物を下ろすと、カバンから不思議な魔道具らしきものを取り出す。
首都の紋章が入った小さな箱に、ボタンが付いている。
「なぁに、これー?」
不思議な顔で箱を見つめ観察するミーナ。
ニヤッと笑ってボタンを押させようとするダニエル。
促されたミーナがボタンを押す。
ーーピィーンピィーンピィーン。
「…これだけ…?」
「あぁ!そのとおり!」
自慢げに胸を叩くダニエルに、ミーナは思わず大笑いする。
「なにそれーーー!アハハハハッ。前の変なお面よりはマシだけど、さすがパパー!」
どうやら、これがこの家族の日常なようだ。
思わず陽菜乃も笑い出し、周りの常連客たちも笑い出す。
「それで、ミーナは何が出来るようになったんだー?」
「あのねっ、ジュース入れたり、お客さんにメニュー出したり、いっぱいいっぱいお手伝い出来たよー!」
「そうかそうか、よく頑張ったな」
ダニエルの大きな手が、ミーナの頭を撫でる。
ミーナも嬉しそうに、えへへーと得意げだ。
普段、喫茶店の仕事を手伝っている一生懸命な姿とは一変、ここぞとばかりに父親に甘える、無邪気なミーナの姿がそこにはあった。
店が落ち着いた頃、ミーナとダニエルは散歩へと出掛けて行った。
「ミーナはすっかりお姉さんになったなぁ。お前の入れたジュース、すっごく美味しかったってお客さんも言ってたな」
「えへへー、ミーナ頑張ったよ!パパ、首都って、ミーナの知らないお店とかいっぱいあるー?」
「そうだなぁ、ミーナの好きなお人形のお店や、美味しいご飯屋さんとか、お菓子屋さんとかいっぱいあるぞ!」
「えーー!いいなぁ、ミーナも行ってみたいなぁ」
「今度連れて行ってあげるさ。ママと一緒に3人で首都に遊びに行こう」
「うんっ!絶対だよ!」
そう言ってにっこり笑ったミーナが、ピタッと足を止める。
「パパ…」
ダニエルは振り返り、少し寂しそうな様子のミーナを見つめる。
「またすぐに首都にいっちゃうの…?」
さっきまで笑顔だったミーナに寂しさが募る。
ダニエルは、ふっと微笑み、優しく告げる。
「またすぐ帰ってくるよ。ミーナの笑顔を見にね。」
そう言ってミーナを優しく抱きしめる。
ミーナも涙をぐっとこらえ、ダニエルを抱きしめる。
ーーその夜、営業を終え、厨房で片付けをするマリーの元に、二階からダニエルが降りてくる。
「ミーナは?」
「ぐっすり眠ってるよ。はしゃいで疲れたんだろうな」
二階に目線をやり、柔らかく微笑むダニエル。
「よっぽど嬉しかったのね。コーヒー、飲むでしょ?」
「あぁ、ありがとう。」
そして、二人でカウンターに並んで腰掛ける。
「うん、やっぱりマリーが入れるコーヒーが世界一だな」
ふふふと笑って、マリーも一口飲む。
「あなたが帰って来てくれたからよ」
二人は微笑み合い、カップを手に静かな時間を分かち合った。
やがてコーヒーを飲み終えると、ダニエルがそっと立ち上がる。
「…ミーナの寝顔でも、見に行こうか」
「ふふっ、そうね」
二人並んで階段を上がっていく背中を、 小さな喫茶店の灯りが優しく照らしていた。




