第10話 しあわせのおすそ分け
『本日臨時休業日』
ポプリの扉には、そんな札がかかっていた。
「あれ?今日お休みなのかぁ…」
残念そうに呟いて帰ろうとしたその時。
大きな荷物を抱えたミーナが、元気いっぱいに駆けてくる。
「あ!陽菜乃さん!おはよー!」
「ミーナちゃん、おはよう。すごい荷物だね!持つの手伝うよ」
一緒に荷物を抱えて店に入ると、厨房から甘い香りと共に、マリーの慌ただしい声が響いてきた。
「ママー!帰ったよー!」
「おかえり!ありがとう。頼んだもの、ちゃんとあった?」
「うん、バッチリ!」
料理に集中しているせいか、マリーは陽菜乃の姿にまだ気付いていない。
その背中を見ながら、陽菜乃がミーナに小声で聞く。
「マリーさん、なんだかすごく忙しそうだね?」
「そうなんだよー。今日はね、特別なんだ!」
実は今日、常連客のジャックとリリアンのカップルから、結婚祝いのスイーツを注文されていたのだ。
昼までに仕上げなければならないらしい。
「ジャックさんとリリアンさんって…あの素敵な二人?」
「そう!ついに結婚なんだって!」
幸せそうに微笑むミーナの顔が、いつもより嬉しそうに見える。
「この街ではね、結婚の日に“新郎が新婦の好きなものを贈る”っていう習わしがあるんだよ」
「へぇ〜!素敵な習慣だね」
「でね、リリアンさん、うちのポプリとスイーツが大好きでしょ?だからジャックさん、ママにお願いしたんだって」
カウンターには、瓶に詰められた真っ白なポプリが置かれていた。
「このポプリはジャックさんが自分で作ったんだよ。リリアンさんに渡すんだって!」
「うわぁ…本当に素敵!」
陽菜乃も思わず見とれてしまう。
その後、マリーとミーナ、そして陽菜乃も手伝いながら、しばらく、店の中はにぎやかな調理場に。
ミーナはリボンを選んで瓶に結びつけ、陽菜乃はフルーツを綺麗に並べて仕上げていく。
「ミーナちゃん、そのリボンちょっと曲がってるよ」
「えぇ〜?陽菜乃さんのお皿も、イチゴが倒れてるー!」
2人でケラケラ笑い合う声に、マリーも思わず口元を緩める。
だが、その時。
「わぁっ!」
ミーナが粉砂糖を盛大にぶちまけてしまった。
「きゃー、ごめんなさいっ!」
「大丈夫よ、こうすればほら、雪が降ったみたいで素敵でしょ?」
マリーがパラパラと残りの粉砂糖を全体に振りかけると、白いお菓子は一層華やかに。失敗どころか、祝福にふさわしいスイーツへと変わっていった。
「ママすごいー!」
「経験のなせる業ってやつね」
「本当、すごく素敵に仕上がりましたね!」
やがて、テーブルに並んだのは、リリアンの好きなベリーをたっぷり使ったタルトと、甘さ控えめのケーキや焼き菓子たち。
色とりどりのスイーツに、見ているだけで笑顔になる。
「これなら、リリアンさんも絶対喜んでくれるわね」
マリーが満足そうに頷く。
その後ジャックとリリアンが店を訪れると、差し出された品を見て、リリアンは思わず目を潤ませた。
「まぁ…なんて綺麗なの。ジャック、ありがとう」
「君の笑顔のためなら、何だってするさ」
「マリーさん、ミーナちゃんに陽菜乃ちゃんも、本当にありがとう」
2人の幸せそうな様子に、店内の空気までもふんわりと温かくなった。
「今日はポプリがしあわせの工房だったね!」
ミーナが無邪気に言うと、みんなが笑顔になる。
陽菜乃はそっと胸に手を当てる。
(なんだか私まで幸せになれちゃったな…)
こうして、ポプリの一日は「幸せのおすそ分け」で幕を閉じた。




