第6話 裏切りの図書館
アリスは震える手で、アルバスの書物を抱えていた。それは記憶図書館の書物と酷似しているが、ページを開くと、人の記憶が歪んで記録されていた。この書物こそ、アルバスが王子の記憶を操作した道具だった。
「…アルバスさん、どうしてこんなことを…!」
アリスの声は、かすかに震えていた。彼女にとって、アルバスは唯一、心の支えだった人物。その彼が、王子の記憶を奪った張本人だったとは信じたくなかった。
アルバスは、アリスの前に姿を現した。彼の目は冷たく、いつもの優しい微笑みは消え失せていた。
「この世の記憶は、あまりに不完全だ。欠落し、歪み、人々を苦しめる。私は、完璧な記憶を、完璧な人間を作りたかっただけだ。王子は、その実験台に過ぎない」
アリスは、怒りに震えた。 「違います!記憶は、たとえ辛いものでも、その人の一部です!それを奪うなんて…!」
アルバスは、悲しそうに首を振った。 「君も同じ能力を持っているだろう?人の記憶を知りすぎることの苦痛を。君だって、孤独に耐えているではないか」
その言葉は、アリスの心の奥底に刺さった。アルバスは、彼女の孤独を利用し、自らの計画に巻き込もうとしていたのだ。
「…私は、もう孤独ではありません。彼の記憶を取り戻す中で、私は初めて、誰かのために生きる喜びを知りました。あなたの歪んだ考えに、彼の未来を奪わせたりはしません!」
アリスはそう宣言し、アルバスと対峙した。アルバスは、自らの書物から記憶の断片を抜き取り、アリスに攻撃を仕掛けてきた。アリスは、王子の記憶から得た知恵と、持ち前の完璧な記憶力で、彼の攻撃をかわしていく。
その時、病室にいたはずの王子が、フラフラと歩いてきた。彼は、アリスとアルバスの戦いを見て、何かを思い出そうと苦しんでいた。
「…アリス…? アルバス…?」
王子が呟いた瞬間、彼の脳裏に、もう一つの記憶が蘇った。 それは、彼がアルバスに記憶を消される直前の記憶だった。アルバスは、王子に毒を盛った公爵家の息子と共謀し、王子に最後の罠を仕掛けていた。
『…これで、お前の記憶は全て消える。そして、お前は私の傀儡となるのだ…』
その記憶は、王子の心に、怒りと絶望をもたらした。
しかし、その記憶の奥には、アリスが彼に与えた温かい記憶があった。 クッキーの味、ハーブの香り、そして、温かいスープ。 それは、絶望の記憶を打ち消すほどの、強い光だった。
王子は、アリスの前に立ち、彼女を守るように構えた。
「…もう、私の記憶を、誰にも奪わせない」
王子の言葉に、アリスは涙を流した。 彼は、記憶を失っていても、アリスが彼にくれた「温かさ」を覚えていたのだ。
二人の絆は、アルバスの想像をはるかに超えて強固だった。 そして、その絆が、王子の記憶の全てを繋ぎ合わせる、最後の鍵となった。