第5話 もう一人の司書
真犯人が王子の従兄弟だと確信したアリスは、慎重に行動を開始した。彼女は王子の記憶をさらに深く読み解き、犯人が王子の記憶をどのように操作したのか、その手口を特定しようとした。
すると、王子の記憶の奥深くに、もう一つの奇妙な記憶が隠されていることに気づいた。それは、「記憶図書館の書物」に似た、何かの書物の記憶だった。
『こんな場所に、記憶図書館の司書が…?』
その記憶は、一瞬で消えてしまったが、アリスは重要な事実にたどり着いた。犯人は、記憶を操作するために、彼女と同じ能力を持つ、「もう一人の司書」と手を組んでいたのだ。
「…アルバスさん、お話したいことがあります」
アリスは、図書館に戻り、アルバスに事の次第を話した。アルバスは、アリスの話に耳を傾け、やがて青ざめた顔で呟いた。
「もう一人の司書…そんな人間は、存在しないはずだ。司書としての能力は、選ばれた者しか持たない、特別な力だからだ」
「いいえ。現に、王子の記憶には、司書に似た人物がいました。それに、彼の記憶は、ただ消されたのではなく、まるで図書館の書物のように、整然と抜き取られていたんです」
アリスの言葉に、アルバスは考え込むように黙り込んだ。 その沈黙は、アリスにとって、疑念を深めるものだった。
その夜、アリスは、王子のために、彼の記憶に隠されたもう一つのレシピを再現した。それは、幼い頃の王子が、教育係から教わった「星空のスープ」だった。星の形をした野菜と、ハーブの香りがするそのスープは、王子の心をさらに深く癒やした。
スープを口にした王子の目に、再び、記憶の光が灯る。 今度は、「もう一人の司書」の記憶だった。
『…この書物を使えば、記憶を完全に消すことができる。これで、僕が王子になることができる…』
その記憶の中の人物は、公爵家の息子だった。そして、彼のそばには、もう一人の人物がいた。その人物は、顔をフードで隠していたが、その手には、記憶図書館の書物にそっくりな、小さなノートが握られていた。
そして、王子の記憶の断片は、衝撃的な真実をアリスに突きつけた。
そのフードの人物は、記憶図書館の司書、そして、アリスの上司であるアルバスだった。